第32話 なぐさめと決意1
「ルマ様、元気がないですね……」
「ですね……」
部屋の隅に立つロシュとチェルシーは顔を見合わせる。
エイベルの自室ではいつものようにティータイムが行われていた。しかし、今日はどんよりとした雰囲気だ。
アルマは先ほどから黙り込んでおり、エイベルが何か尋ねても気のない返事を返すばかりだ。
その上、テーブル上のお菓子はほとんど手付かずのまま。向かいに座るエイベルも、そんな彼女の様子が気がかりなようだった。
「ルマ様、いつからあんな調子なんですか?」
「昨日帰ってきてからずっとああなんです。何かあったんでしょうか……」
「甘い物にも目をくれないなんて、よほどのことですよ」
二人がひそひそと話をしていると、いつの間にかエイベルが目の前に立っていた。
「二人とも、ちょっと来て」
そう言って、エイベルは二人を部屋の外に連れ出す。扉が閉まると同時に、エイベルは深刻な表情になった。
「……ねえ、こういうときってどうすべきだと思う?」
「理由はわかってるんですか?」
「いいや、何も話してくれないんだ」
「それでは解決のしようがありませんね」
エイベルとロシュはうーん、と頭を悩ませる。チェルシーは小首を傾げた。
「無理に聞き出す必要はないと思いますよ。それより今必要なのは気分転換だと思うんです」
「何かいい考えがあるの?」
「ルマ様がここにいらっしゃってからしばらく経ちますが、ルマ様とエイベル様が一緒にお出かけされたことはなかったですよね。ですから、どこかへ遊びに行くのはどうですか?」
「それはありだな」
傍らで話を聞いていたロシュも話に加わる。
「今の時期ですと、山でピクニックをするのもいいかもしれませんね。この辺りならルストー山はどうですか。やはり自然と触れ合うのが一番でしょう」
「なるほど。……よし、早速準備してくれるかい?」
「はい!」
元気よく返事をすると、ロシュとチェルシーはすぐに行動に移った。
***
「風も穏やかで心地いい! やはり山は最高ですね! ねっ! チェルシーさんッ!」
「そうですね〜」
「いやー自然は素晴らしいッ! 人間も自然の一部ですから、雄大な自然を享受することで我々人類は……」
ロシュが懸命に何かを説いているが、アルマの反応は芳しくない。エイベルは「ちょっと静かにして」とロシュの脇を小突いた。
アルマ、エイベル、ロシュ、チェルシーの四人はルストー山を訪れていた。
この山は標高が高くなるほど木々が鬱蒼と生い茂り、登山客すら近付かないが、麓の辺りはなだらかで道が整備されており、ピクニックにはもってこいだ。
青い空、瑞々しい自然、爽やかな風。シチュエーションは完璧だ。しかし、アルマの表情は暗いままだった。
「やはり自然に触れると開放的な気分になりますね! さあ、一緒に踊りましょう!」
そう言ってロシュは奇妙な踊りを披露する。独特なステップを見せつけたが、アルマは変わらず無表情だった。
(す、スベった!?)
撃沈したロシュを押しのけ、エイベルはアルマの隣に立った。
「ほら見て、ルマ。あの木のところ。リスがいるよ」
その言葉でアルマは顔を上げる。
「一、二……四匹もいるね。家族なのかな」
「家族……」
「かわいいだろう? ……おや。あの子リス、一匹だけ色がちょっと違うな。よその子なのかな」
「!」
その言葉でアルマはまた暗い顔に戻る。そして、ふいとリスから目を背けた。
「あれ、動物そんなに興味なかった?」
「……」
それきり、アルマは黙り込む。
エイベルはどうしよう、と言いたげな顔で振り返る。再びロシュが前に出た。
「る、ルマ様。ここは私が一曲歌いましょう。山〜山〜山山山〜」
「……」
「ルマ。散歩でもする? ホラ、向こうに綺麗な花が」
「……」
アルマは俯いた。
(やばい……)
エイベルとロシュはだらだらと冷や汗を流した。何一つアルマの心に響いていない。これ以上どうしろと言うのだろう。
そんなとき、チェルシーの声が響いた。
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