第3話 病気

「…陽菜」


 公園のベンチで俯いていると声が降る。私は顔を上げずに黙ったままでいた。


「ごめんなさい…陽菜の気持ちを全く考えてなかった…5年も経って陽菜は私なんか忘れて幸せになってると思ってた。柚希から私のことをずっと探してたって聞いて…」


 見当違いの謝罪をするゆまに心の中で笑う私がいることに気づいた。


「なんでいなくなったの。」


 独り言のように呟く。


 言い訳のように聞こえるかもしれないけれどと前置きをして語り始めた。


「親に売られたの。父がリストラにあってお酒ばっかり飲むようになっちゃっていわゆる闇金のような場所から借金をして首が回らなくなって終わり。卒業式の日に急に連れられたから連絡もできなかった…」


「5年もあれば一度くらい連絡できたでしょ…いや何も言わないで…」


 どんな言葉でも悪いふうに捉えてしまいそうだった。誰にも見せてなかった弱さがゆまの前だと惜しみないほど溢れてくる。今にも泣き出してしまいそうだった。


「一つだけ聞きたい…今、幸せ?」


「うん…私のお客さんだった人が借金を全部返してくれて、それから一緒に過ごして、男の人だけど、性別に関係なく好きになった…ごめん」


「何に謝ってるかわからないよ。ゆまが幸せなら私も幸せだから…」


 それから少しだけ話して、私の家で飲み直すことになった。

 コンビニでお酒を買って、柚希に謝りの連絡を入れて、家へと帰った。


 どれくらい飲んだかわからない。何を話したかも覚えてないけど、気づいたら下着姿でベットに眠っていた。隣にはゆまがいて、彼女も私と同様に下着姿だった。これはもしかしてと思う間も無く、目が覚めたゆまは何もなかったよと告げる。


「ねぇ…陽菜…正直に答えてほしいんだけど、何か大きな病気だったりしないよね」


 なんでバレた?しっかり入院関係の紙は隠していたはずだし、いくらお酒が回って記憶がなくなったとしてもゆまを不安にさせるようなことは話さない自信がある。長い沈黙が私たちの間に落ちてそれが答えだと言っているようなものだった。


「昨日、急に陽菜が血を吐いて、陽菜の服と私の服まで汚れちゃって、黙って借りるわけにもいかないから服だけ脱いでおいたの。」


「大丈夫だよ…大した病気じゃないから…来週から入院して手術したら治るような代物だよ。心配しないで。」


「本当なんだよね…大丈夫なんだよね…」


 嘘だった。本当は。ほとんど治らないと言われていた。このタイミングでゆまから連絡が来たこと自体が嘘みたいで、思わず無視してしまったのだ。でもゆま自身が幸せだって言ってくれたことにとても安心した。ゆまが幸せなら私はそれだけで…

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