第1話 リミ=ルウナ

「おーい!アルー!」


 後ろの方から聞き覚えのある声がする。

 やばい。薄々勘付いてはいたけど、まさか本当に来るなんて。

 あいつが来る。


「教室まで一緒に行こうぜぇ~!!どうせ一人でしょー」


「う、うるせえ!!こんな所まで付いてくんなよ!!!」


「まぁまぁ、そう言わずにさぁ!私、仮にもアルの幼馴染なんだしさー!」


「そういう問題じゃねーんだよ!!あと、まるで俺がぼっちであるかのような、言い草はやめて貰いたいね」


 俺がそう言うと軽やかにクルリと一回転し、反省を1mもしていないのかしてベロを出してコチラを挑発している。


「あれれー!!そうだっけなぁ?」


「そうだ、別にぼっちじゃ無い。気軽にふと、何処かへ遊びに行けるような友達くらい、流石に何人も居るさ。」


「彼女居ないのにぃ!?恋人居ないのにぃ!?」


「なっ、お前。それは禁句だぞ」


「やーい!やーい!彼女無しぃ!!でも、安心するが良い!最悪の場合には、私が貰ってやろうぞとも!!」


 なんだろう。腹が立つと言うのはこの事だろうか。しかし、腹を立てるという事は俺自身がその言葉を図星だとして受け入れていると言うことになる。つまり、余計な口はあえて挟まない。

 こう言ってやるのさ。


「あれれ、でもそう言うお前も彼氏の一人や二人いるって事聞いた事ないけどな」


 彼女の動きがピタッと止まる。


「くっぅぅぅぇ」


「ん?くっぅぅぅぇ」


 唸り声にしては少しばかり特殊すぎやしないか?これ。おかしいと思ってるのは俺だけなのか?


「むっ、もう。教室行くよっ!!」


「バカっ!!」


 ほっぺを少し膨らませ腰に手を当ててこちらを見つめる。

 そしてこちらを見つめている人の正体は『リミ=ルウナ』

 俺と同じクラスで隣の席の女の子だ。

 いつも元気で明るくてクラスの中心的存在で男子からも女子からも変わらず人気者だ。

 しかも結構可愛いし。

 髪の色は綺麗な「金色」をしている。

 瞳の色も同じく「金眼」だ。

 見た目は完全に外国人なのに何故か日本語ペラペラだし、それに頭もいい。

 その他にも成績優秀、スポーツ万能、才色兼備、眉目秀麗、文武両道、八方美人etc……

 まあ、言うなれば彼女という存在は黙っていればとにかく完璧な


「完璧超人美少女」


なのだ。

 まあ、良いところをすぐにあげるとするのならば、性格も良くて人当たりもよい。勿論、誰にでも優しい。

 それに、スタイル抜群で胸だってそこそこ大きい。

 正直、こんな完璧超人に欠点があるのかと、ぱっと見は思う程だ。

 しかし、彼女の欠点を一つ、具体的に上げるとするならば、「少し、ストーカー気質がある」ところだ。

 一度仲良くなれば、何処に行こうにも、困った事に、目の前に彼女が現れる。

 おお、なんと不思議なことか。

 まあ、だから今のアレがつまりはそういうことだ。

 つまり、彼女は俺が来るまで此処で待ち伏せしているのだ。

 そんな彼女が何故、俺なんかと一緒にいるかというと、家が隣「だから」って言う単純な理由だけではない。どうやら本人は面白がってやっている。

 つまりは、笑いの巣窟にされてるってこった。

 ただ、そこまで悪い気はしない。


 因みに、俺には昔から不思議な力があった。

 それは時折「未来が見える」と言う能力だ。

 まんまでなんだが「プレジクトフューチャー」と呼ばせてもらっている。

 これを使えば、いつ、どこで、どんな時に、何が起こるかが少しだけ分かるのだ。

 だが、残念なことに、この力は本当に不便極まりない。

見えると言っても断片的で、その詳細の全体の1割くらいしか可視化出来ない。

 俺でも何故こんな能力が目覚めたのかが、全く分からない。

 一応仮説なんだが、もしかしたら死んだ父さんの影響なのでは?と思っている。

 父さんは俺が生まれる前に死んでしまってどんな人なのかも分からないが、もしかしたらそうなんじゃないかと思っている。

 ただ、これらは推測の域を出ない。

 ただの妄想チックな孤独なものであるのだ。


「ねぇ、アル!!!」


 少し考え込んでいたらリミが少し力強い声で俺の名を呼ぶ。ボーッとしていたから思わず条件反射で跳ね上がってしまった。


「うわっ、なんだよ!!!」


「いま、ボーッとしてたでしょ!」


 リミはまるで俺の心を見透かしたかのような顔をしている。


「ああ、ちょっと考え事しててだな。」


「うんー?アルの考え事ねぇー......」


「な、なんだよ。」


「いやぁー、興味あるなぁ。何考えてたの?」


 リミはニヤニヤしながら立ち止まり、こちらを振り向く。


「そんなに目を輝かせるな。そんな、特別面白い話でも無いぞ」


「いいじゃない!教えてよぉ~!」


 リミは地面をその場でジタバタし、俺をポカポカと拳で叩く。俺は太鼓じゃ無いぞ。

 と、いうか話せねぇ。俺がプレジクトフューチャーの事について考えていたなんて。そんな突拍子もないことをもし暴露しちまったらとんでもないことになっちまうからな。

 しかし、そんな心配は結局は不要だったようだ。これまた偶然か奇跡か、授業開始のチャイムが鳴ったようだ。


「あっ、鳴っちゃった。」


「ふう、そういえば次の授業はなんだ?」


「イマチ先生の、「ガジェット、心ゆき」の授業だよ。」


「ゲェ、そりゃ急がなくちゃな。」


「そうだねぇ。じゃあ、よーい、ドン!」


 そういうとリミは全力で走り始めた。


「お、おい。待てよ。」


 俺も釣られて走り出した。


「遅い、遅~い。そんなんじゃスポーツマンになれないよ。」


「う、うるさい!!はなからなる気など無いわ!!」


「も~、意地になっちゃって~。」


「........」


 どうやらリミの思惑通りの解答をしてしまった様だ。それにしてもリミは俺に比べてかなり早い。こちらも一応全力は出しているんだが、全く勝てない。明らかに力量の差が出てきてしまっている。


「とうちゃーく」


 どうやらいつの間にか教室の前まで到着していた様だ。夢中で走っていたから周りなんて見てなかったな。


「遅れてすみませーん。」


 リミはドアを思いっきり開けて、速攻で反省のない謝罪の様なものを繰り出した。


「また、遅刻か。お前ら。まあいい、はやく座りなさい。」


「はぁーーい。」


 ふう、何とかなった様だな。先生の機嫌が良い日で良かったとつくづく思う。何故なら機嫌が悪い日となれば、何故かセットで遅刻しても、俺だけが怒られる羽目になるからな。

 そして、俺たちは各々自分の席へ座った。すると、後ろの奴が話しかけてきた。

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