仲間とはぐれたら
異世界に来てからざっくり一カ月ほど時間が経った。
そしてこの時期になると、戦闘訓練が次の段階に上がる。
「そっち魔物いったぞ!」
「【ファイアボール】」
次の段階、すなわち実践訓練が始まった。
実戦訓練は街の外で魔物と戦うというもの。
騎士団の手厚さポートと基礎的な訓練もあり、生徒たちは危なげなく実戦経験を積むことが出来ている。
だがみんながみんな余裕という訳ではない。
ほとんどの人はゲーム感覚で戦っているが、何度か実戦を行い、数人の生徒は魔物を殺すという事実に心が耐え切れず部屋に引きこもっている。
ここでポイント!
魔物は生き物です。魔物は人を襲う害獣ですが、意思を持ち家族を持つ物たちもいます。
命を奪う。その事実を受け止めなければいけません。
異世界に来てから非現実的なことが続き感覚が麻痺しているが、そういう人たちはいざ自分の身が危険になった瞬間に現実に戻されて動けなくなる。
だからこそ、自分が命を奪っていることを認識する必要がある。
これもまた、地球と異世界の文化の違いだ。
「よし、一度休憩だ」
騎士団からの指示で休憩をする。
その休憩中に周りを見ると、生徒がいくつかのグループに分かれている。学生なら当たり前だろうが、そのグループは異世界に来る前とはかなり変わっていて、ざっくり言えば戦闘系のスキルを持つ者とそうでない者に分かれており、戦闘系の者たちがいわゆる上位グループのような雰囲気を出している。
これも異世界であることだが、異世界では力こそ正義。人間関係なんて簡単に壊れてしまう。
ちなみに僕は一人だ。これは異世界に来る前からそう。異世界から帰ってくるたびに行方不明やら何やらで騒がれて学校を転校しまくった結果だ。
「さてそろそろ今日のメイン、ダンジョンに行くぞ」
騎士団に連れられて僕たちはダンジョンに向かった。
ダンジョンとは魔物が大量に出現する洞窟のこと。
ダンジョンはいくつかの層に分かれており、下に行けば行くほど魔物が強くなる。その代わりに魔道具のようなお宝を手に入れることが出来ることもある。
それに強い魔物の素材を使って強い武器を作ったり、売れば金になったりする。なので異世界では多くの人が挑む場所でもある。その代わり危険度も滅茶苦茶高い。
なので、
「うわぁぁ!!」
「た、助けてくれー!!」
異世界を舐めた奴らが入るとこうなる。
現在僕たちはダンジョンに仕掛けられたトラップに引っかかり、大量の魔物に追われている。
それもこれも生徒の一人が「あれって宝箱じゃん!」と警戒せずに宝箱を開けた瞬間に強制的に大量の魔物が居る場所に転移させられたからだ。
ここでポイント!
ダンジョンにある宝箱や鉱石にはむやみに触れないようにしましょう。
必ず事前にトラップを確認するスキルか魔道具を使うようにしないと冗談抜きで死にます。
「くそ何でこんなことに!」
「うるせぇさっさと走れ!後ろが詰まってんだよ!」
「きゃぁっ!?」
逃げている最中に、女子生徒が転んだ。だが誰も助けることはしない。
人は死が迫った瞬間に本性が出る。
だから、
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう」
僕は転んだ女子生徒に手を差し伸べて起こす。その間に魔物は目の前まで迫ってきた。
「ひっ、ま、魔物が!?」
女子生徒は僕を突き飛ばす様に手を離し、逃げる。
…………。
人は死が迫った瞬間に本性が迫る。
つまりあれが彼女の本性、いや別にいい。自分の命が一番大切、当たり前のことだ。
それにそんな人間これまで山ほど見てきた。
「……でもちょっとイラっとしたな」
生徒たちはこちらを振り向くことなく走り、魔物はすぐ目の前まで来ている。
なら良いだろう。
ここからは初心者には出来ない、ちょっと特別な戦闘方法だ。
「【異空間収納】」
僕は【時空魔法】の一つ、【異空間収納】を発動する。この魔法はいわゆるアイテムボックス。ありとあらゆるものを収納できる異空間を作る魔法。
「いくぞ、『聖剣ライ』『魔剣レフ』」
異空間から白く神々しい剣『聖剣ライ』と黒く禍々しい剣『魔剣レフ』を取り出す。
『くくくく。
『レフ。口を慎みなさい。マスター、あの無礼な人間共を切り刻む許可を』
『うわぁ、またライが暴走しているよ。主ー、このままじゃ伝説の聖剣が人殺しの聖剣になっちゃうよー』
「……二人ともちょっと黙っててくれ。それとライ、切るのは却下だ」
聖剣と魔剣の説明をしよう。
魔剣とは魔道具の上位互換、伝説級魔道具、別名アーティファクトと呼ばれる物の一つだ。アーティファクトは魔道具以上の力を秘めた魔道具。
そして魔剣は剣に特殊な能力と魔力が宿った物。そして魔剣には意思が宿る。中でも古くからの魔剣はレフのように人の言葉を話すことが出来る。
聖剣は魔剣と同等以上の力を持つ物であり、魔道具ではなく神が作った武器、神器。
こちらも魔剣同様人の言葉を話すことが出来る。そして魔や悪、邪などに対してとてつもない力を発揮する。
「今は目の前の奴を切り刻む。いいな?」
『イエスマスター』
『はーい。任せてよ主』
僕は二本の剣を握り、【武器術】のスキルを発動させる。【武器術】とは全ての武器を扱うことのできる上位スキルだ。
「【二刀流・千切り】」
二本の剣は一瞬にして全ての魔物を切り刻んだ。
「よし。腕は鈍ってないな。レフ食事だ」
僕は殺した魔物の血をレフに吸わせる。
『久々に魔物の血だぁ!』
魔剣は強力な力を持つがその代わりに代償が必要になる。レフの場合は定期的に魔力を吸わせることが代償。いつもは僕の魔力を吸わせてるけどレフは魔物の血に含まれる魔力の方が好きらしい。
『レフ。うるさい』
「まぁまぁ久々の食事だからね。それよりもどうしようか」
『どういうことですか?マスターならばここからの脱出どころか元の世界に戻ることも可能でしょう?』
「僕はそうだけど、他の彼らのことだよ」
『主、あいつらのこと気にしてるの?見捨てられたのに?』
「それはそうだけど、彼らにも帰る家と待ってる家族が居るんだよ。本当は僕がさっさと帰してあげられればいいんだけどね」
僕の【時空魔法】は世界を超えることが出来る。
だが多くの人で世界を超えようとすると、必ず妨害が入る。
だから僕たちをこの世界に呼んだ誰かの要望を叶えなければならない。
僕と数人程度なら超えることも出来るけど、それを繰り返すとその内気づかれる。
「まずは彼らを無事に街まで返さないと。……あの子を呼ぶか。【召喚・精霊】」
僕は【精霊魔法】で契約をしている精霊を呼び出す。
【精霊魔法】とは精霊を呼び出したり、精霊の力を借りて普通よりも強力な魔法を使うことが出来るスキル。
そして精霊とは魔力の塊。意思を持つ魔力。その存在は世界であり概念に近い者。
『……ようやく呼んでくれたのね。遅いじゃない勇魔』
「ごめん。心配かけたねリア」
僕が契約しているのは全ての精霊の母。精霊女王リア。
精霊はそれぞれに特徴と司る物がある。例えば炎を司る精霊。剣を司る精霊などだ。
リアはその中でも全ての精霊を司る精霊。精霊たちの母にして最強の精霊だ。
昔助けたよしみで今一緒に暮らしていたりする。
『別に私は心配してないわよ。けど、他の子たちはかなり荒れてるわよ』
「うっ、マジか……」
『せめて定期的に連絡入れなさいよ』
「はい。すみません」
『それで、何をしてほしいの?あんたの事だからどうせ人助けでしょ?』
「さすがよく分かってる。この先にいる転移者たちを守ってくれ」
『あんたどうするの?』
「僕はこの世界の魔王の所に行ってくる。だからそれまで頼むよ」
『了解。ライ、レフ、勇魔のこと頼んだわよ』
『言われなくとも』
『心配無用です』
こうして僕は生徒たちと行動を別にした。
注意
普通の人が一人でダンジョンにとどまるの自殺行為です。絶対にやめましょう。
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