魔道具について

 工房に向かった僕は、鍛冶師の人に工房内を案内されている。


「ここがこの国一番の工房です。勇者様にはこれからこの工房で武器を作っていただきます」


 国一番というだけあって工房はかなりの広さと設備を備えていた。

 それでも他の異世界に居た鍛冶の最強ドワーフの工房には負けているけど。

 そうして工房を見て歩き、工房長に挨拶をすることになった。


「工房長!勇者様を連れてきました!」


「……」


 工房長はカンッ、カンッとひたすら鉄を打つ。


「あの、工房長?」


「……」


 工房長は鍛冶師の声を聞かず目の前の鉄に全神経を集中させている。

 凄い集中力だ。国一番の工房を任せられるだけはある。

 そうしてしばらく黙って見ていると、工房長が一本の剣を作り終えた。


「……素晴らしい剣ですね」


 思わず本音がこぼれてしまった。そんな僕の言葉を聞き、工房長はこちらを一目見ると鉄を差し出してくる。


「剣を一本。作ってみろ」


「待ってください工房長。聞いた話によると勇者様は元居た世界で鍛冶はしたことが無いと」


「……」


 工房長は鍛冶師の言葉を聞かずに僕の目を見る。

 これは、少し本気でやろうかな。


「剣を一本ですね」


 僕は鉄を受け取る。


「勇者様大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。道具借りますね」


「……好きに使え」


 不安そうにしている鍛冶師と背後で腕を組む工房長に見られながら、剣を打つ。


 ここでポイント!

【鍛冶】のスキルの効果で次にどうするか、どこを打つべきかというのは分かる。その通りに打てばそれなりの物にはなる。失敗することは無い。

 けどそれでは最強の一本にはならない。

 真の職人は、スキルはあくまで補助。自分の力を技術を信じ、目の前の鉄に全ての神経を集中させる。


「……完成」


 僕は完成した剣を工房長に渡す。


「なるほど……」


 工房長は僕の剣を鍛冶師に渡す。


「勇者が作った剣を他の奴らにも見せてやってこい」


「は、はい!」


 鍛冶師は剣を持ってその場を離れる。


「さて、勇者様」


「遊佐勇魔です。名前でお願いできますか?」


「じゃあ勇魔。お前何者だ?」


「……」


 これは随分と核心をついてきたな。

 でもこういう人に会えたのはラッキーだ。言葉にするのは難しいけど、こういう人は信頼できる。


「人間ですよ。普通、とは少し違いますが」


「……普通じゃないのは分かる。あんな剣、いくら勇者とはいえお前ほどの子供が作れるはずがない。あの剣、この国、いやこの世界の中でも五本の指に入るレベルの剣だぞ」


 さすがは工房長。よく見ている。

 僕は別の世界でエルダードワーフというドワーフ族の中でも頭一つ抜けている鍛冶師たちの元で修業をしていたことがある。

 エルダードワーフはスキルを使わず、自分たちの技だけで世界最強と呼ばれる武器を作っていた。

 僕はその時、スキルに頼らない戦い方を研究するようになった。


 ここでポイント!

 異世界ではスキルを封じてくる魔物やスキルがあります。

 スキルに頼りすぎた行動をしているとそのようなときに詰んでしまいます。

 なのでスキルに頼らない体の動かし方、戦い方を研究しておきましょう。



「まぁお前が何者なのかはいい。悪い奴じゃないのは分かるからな。……勇魔、お前魔道具をいじれるか?」


「物によりますが、できますよ」


「そうか。……ならこいつを動かせるか?」


 工房長はポケットから小さな箱を取り出し渡してくる。

 その箱は地球で言うオルゴールに近い物。魔力を流すことで記憶されている音が流れる魔道具。


 そもそも魔道具とは、事前に物に魔法を付与し、魔力を流すことで付与した魔法を発動させる道具のこと。

 魔道具の利点は魔力を流すだけで使えること。つまり【炎魔法】を付与した杖を使えば【炎魔法】のスキルを持っていない人でも炎魔法を使うことが出来出来ます。

 ただ魔道具を作るのには特殊な技術が必要になります。正直人の手で作るのは不可能に近く、作れたとしても大した威力が出る物ではありません。

 ですが魔道具はダンジョンと呼ばれる魔物が大量に出現する洞窟などで発見されることがありそのような魔道具はとてつもない力を秘めています。

 なので魔道具が欲しい場合はダンジョンに行きましょう。まぁ命がいくつあっても足りないほど危険な場所でもありますが。



 さらに魔法についても説明しましょう。

 魔法は魔法のスキルを持っていなければ使うことが出来ない。魔道具などの例外はあるが基本的には不可能。

 そして魔法のスキルは努力によって手に入れることは出来ません。

 例えば毎日「ファイアボール」と叫んでいても【炎魔法】を手に入れることは出来ません。諦めましょう。

 それでもどうしても魔法を使いたい!という人は神、もしくは精霊に力を貰いましょう。

 魔法スキルを持たない者が魔法を使うには魔道具に頼るか、特殊な存在、神や精霊から力を貰うしかありません。ただ神も精霊も気まぐれな存在なので貰えるかどうかは運次第です。



「どうだ動かせそうか?」


「……少し待ってください」


 魔道具は作るのもそうだが直すのにも特殊な技術と時間が必要になる。

 だが僕はこの手の事はこれまでに何度も経験してきている。



「………よし。直りましたよ」


 俺は箱に魔力を流す。すると箱から音楽と共に女性の歌声が流れる。


「まさか本当に直せるとは」


「これくらい朝飯前ですよ。どうぞ」


 工房長に箱を返と、工房長は俺に頭を下げてくる。


「勇魔。本当にありがとう。……これは娘の形見なんだ」


「娘さんの……」


 工房長は箱を撫でる。


「馬車に乗っている時に魔物に襲われてな。そこで娘を失った。その時、この魔道具も壊れてな。もう一度娘の歌が聞ける日が来るなんて」


 この歌声は娘さんの物なのか。

 ちなみにだが、異世界は地球よりもかなり環境が悪く危険も多い。なので身内が死んだという重い話も経験している人は意外と多い。

 だがこれが異世界での普通。僕たちの世界とは違うということを認識させられることも多く、また僕たちはその違いをある程度納得しなければならない。


 でも僕の力で誰かを救うことは出来る。そういう瞬間はとても嬉しい。


「勇魔。本当に、本当にありがとう」


 僕は何度も工房長から感謝をされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る