第2話 推しとコンタクト

突然、俺のスマホに知らない番号から着信がくる。誰からだ?と思い電話に出ると、

【放課後シスターズ】の叶羽未来と名乗る女性からだった。なんだ?成りすましか?!


「この前は、痴漢から助けてくれてありがとうございました。先日のお礼がしたいので

今度、会えませんか?」


先日の未来たんの引退会見を見ての視聴者のまさか、本当にに未来たん本人なのか?

いや、未来たんはいつも天真爛漫な明るい口調だし、こんな陰キャみたいな喋り方じゃないやっぱり成りすましのスパム電話だろうか?などと流そう警戒してと通話を切ろうとしたところ、

「あなたに折り入ってお話があります。お時間を作って貰えませんか?」とスパムにしては真摯しんしな物言いに、「俺は、平日は仕事があって時間が取れないので、今週の土曜日でしたら時間が作れそうです」と告げる。


「わかりました。わざわざ時間を作ってくれてありがとうございます。でしたら一七時に愛民あたみに鈴木で席をお取りしておくのでいらしてください」


一二月二十四日は長いようで直ぐに訪れた。当日は、クリスマス・イヴだからって変な意味は無い。

本当に未来たん本人なのか気になって今まで仕事がろくに手につかなかった。


居酒屋の待ち合わせ会場に着いた俺は、スタッフに、事前に「鈴木で席を取っていることを告げて入ってきて」と言われていたことで、そう告げ通された個室で待っていたのは眼鏡を掛け帽子を被った女の子で、俺の姿を確認すると「来てくれたね初めましてと帽子と眼鏡を取ったその姿は、【放課後シスターズ】の叶羽未来たん本人だった。


俺は、握手会の時のような高揚感がやってくる。

「み、未来たん?!ほ、本物だ!」


こんなことってあるんだ……と驚愕してしまった。


「はい、初めまして!叶羽未来です。本物でびっくりした?」


「は、はい、そりゃあ、もう驚くよ!この前の電話はスパムだと思ってたくらいですし」



テレビ番組のドッキリかと思うくらいだ。今にも「ドッキリ大成功!」とプラカードを出されるんじゃないかと疑ってしまう。


「そうだよね。アイドルがファンに電話とか普通しないよね驚かせてごめんね」


「まあ、もういいですけど」


それよりも目の前に本物の未来たんが居ることが信じられない!これは夢か!?

「それと、これだけは言わないといけないんだ。この前は痴漢から助けてくれてありがとうございました。」


「いえいえ、そんなかしこまらなくても。当然のことをしたまでですから!」

そんな改まってお礼を言われると照れる。


「だってあの時、みんな見て見ぬふりだったのに助けて来れたのは貴方だけだったから。」

未来たんは顔を赤らめながら、「この前のわたしの引退会見見ましたか?」と訊いてくる。


「見たよもちろん!推しメンだもん。でも正直、アイドル引退は寂しいしショックだ」


生きる糧を奪われた俺はどうやって生きていったらいいんだ!そもそも、俺が未来たんにハマり出したのも彼女に振られたからで、あれは忘れもしない去年のクリスマスのこと

クリスマスデートの約束を彼女とした俺はドタキャンされて失意の底に落とされ煌びやかなイルミネーションの中を一人寂しく帰路に就いていると見覚えのある女性を見つけた。


というかか彼女が別の男と手を繋いで歩いていた。俺とは一度も手を繋いだことはなかったくせに、なんで!と胸の中に憎悪で満たされもう、リアルな女に恋なんかしないと誓ったクリスマスの夜だった。それからアイドルに興味が移って放課後シスターズに出会い未来たんを推していった。


いつしか彼女に浮気された痛みは消えて未来たんのことだけを考えるようになった。そんな彼女が今、恋がしたいからアイドルを辞めると言い出した。


彼女も女の子だ恋の一つや二つしたい年頃なんだ。それが彼女の幸せなら俺に止める権利なんてないだろう。


「恋がしたいからアイドル辞めるんだよね?」

若い女の子だもんな恋をしたいだろう。誰も彼女の幸せを邪魔する権利なんて無いんだ。

「はい!もうこの気持ちは止められないと思って即行動していました。」


「そうか…」

その相手は幸せ者だねなんでわざわざ俺を呼んだの俺なら電話口で良かったのにそれなのにわざわざあってそれを伝えるとか、この子は誠実でおいい子なんだろう。


「やっぱり、この気持ちは、会って直接言いたいと思って…迷惑でしたか?」


「いや、人目があるし……」

わざわざクリスマスイヴに密会とか週刊誌にスキャンダルネタにされかねない。

「アイドルとして仕事が恋人なのは分かっているんですが、この気持ちの昂りは抑えられそうにないのでアイドルか恋愛かを天秤に掛けて決めたんです!」

「俺は君の恋を応援するよ。正直、アイドルとしての未来たんを見れないのは残念だけど

それが君の幸せなら俺がそれを阻むことなんて出来ないよ」


彼女が他の男とくっついて、幸せになるのならそれもいいか……


未来たんの幸せそうなライートを見て幸せをお裾分けを貰えればそれで十分だ。


「そうだ!明日の予定は空いてませんか?もしも予定なかったらわたしと会ってくれませんか?」


「明日は、特に予定は無いな」

明日は聖なる夜でクリスマス童貞の俺は今年もアイドル動画を見ながら一人酒でクリボッチな夜を過ごす予定だったからな。でも、クリスマスなんだ、好きな男を誘ったらいいのに

なんで俺なんか?


「じゃあ、決まり!クリスマスデートしてください!」


「そんな元アイドルがそんなこと言ってはダメだろう!今度はパパラッチに遭ってスキャンダルになるぞ!」


「大丈夫だよ!わたしの家はマークされているけど、またこの居酒屋で会えないですか?」と上目遣いで言われる。それは反則だろう。こんな嬉しそうにはしゃいでいる未来たんを見れるのは嬉しい。明日は未来たんとクリスマスデート。もう、一生分の運を使い果たしてしまった気分だった。















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