第3話 推しとクリスマス

『放課後シスターズ』の叶羽未来ちゃんが引退会見して、後日、俺のところに未来たんを名乗る女の人から電話がかかってきた。そんな自称未来たんとコンタクトを取ったらなんと未来たん本人だった。痴漢から助けてくれたことについてお礼を言われ、それだけで終わるはずが翌日のクリスマス。未来たんから大事な話があるということでまた会うことになった。なんで、もうお礼は言って貰っているのにこれ以上何を伝えることがあると言うんだ?


そんな疑惑を抱えたまま、以前と同じ居酒屋で会うことになった。ファンとしては嬉しい限りだけど、クリスマスに二人っきりでアイドルに会うのは流石に、ファンの域を超えている気がした。それこそ今度こそ、スキャンダルのネタにされ兼ねない。何故、そんな危ない橋を渡るのか分からなかった。目の前の彼女は眼鏡と帽子でしっかり変装しているが本当に大丈夫なのか?と不安になる。


「今日は来てくれてありがとうございます」と握手会の時のようなフレッシュな笑顔で微笑み掛けてくれてそうか。これは握手会の延長なんだ!普通、アイドルとファンが接触出来るのは握手会だけと限られているから…ってそんな風に考えられる訳なかった。

だって今夜は聖夜でクリスマス恋人たちが、愛を育む夜なんだから!


あるのか?アイドルと恋できる可能性が!でもそんな展開はラノベやマンガの中だけのフィクションだ。夢と現実は混同するな!自分にそう言い聞かせる。


「でも、いいの?ファンと直接会うなんて事務所が許さないんじゃないの?」

普通こういう場には事務所の人も居るものだと思ったけど、彼女一人だけだった。

いいのか?この状況。悪い気がしてきた。


「いえ、事務所には何も言ってないです。わたしの独断です」


「えっ、それはマズくないですか?事務所に言ってたらファンと会うなんて許さないと思うし。」

普通に考えてNGだろう。何を考えているんどろうかこの子は。

「そうですよね…あのお名前聞いてもいいですか?」


「え…なんでこの流れで?」

この子が何考えているか分からない。事務所を通さない独断行動。安易にファンに会おうとする危険行為。一歩間違えたら事件に巻き込まれてしまう可能性だってある。


佐藤さとう歩結あゆむ。一応、名乗るけどなんのつもりなんだ?君の目的は?」


「佐藤さんかー、ありがとうございます」

「未来たんは、どうしてアイドルを辞めようと思ったの?恋愛がしたい他にも何かあるんじゃないのかな?」

そもそも恋愛禁止の制約を呑んでアイドルをやってきたわけだ…それなりの覚悟があったはずだ。その他にやりたいことがあって普通の女の子に戻りたいとはは口実なのかはと思っていた。


「言いたくないなら無理強いはしないよ。プレッシャーだったらごめん。」俺は、そう優しく言う。彼女は、安心したのか軽く息吐くと「佐藤さん…わたし、アイドルを続けていくのに疲れちゃったの」と不満を吐露してきた。



「そうだよね、アイドルって多忙だから疲れてもしまうよね」

テレビで見るアイドルは煌びやかでキラキラしているが実際はシビアなのだろうな。


「そうなんです!アイドルになる前は、キラキラした世界だなと期待に胸を膨らませていたんですけど、いざアイドルになってみると、規約は多いしスケジュールは多忙な割にアイドルグループだから分割給料で薄給 はっきゅうだし、プライベートだってファンサービスで配信しないとだしもう大変で…」


「未来さん、大変だったね。よく頑張ってきたよ」


多くの女の子が夢を持ってアイドルを志すが、アイドルの実態は厳しく、当のアイドルは夢なんか見てられない現実だ。俺だって仕事に夢を持って入社しても中身はブラックだった時の仕事に夢を見れなくなった感覚に似ている。


「仕事が辛いなりにやり甲斐の楽しさもあって頑張ってきたけど、楽しいことばかりじゃなくて、体が成長してからは、水着のグラビアの仕事も強要されるようになって、男性ファンから性的な目で見られるのがイヤでイヤで…好きな仕事と引き替えだと果たして幸せなのかなと思って」


「それは、辛いね。」

確かに、未来たんは、20歳にしては童顔で、実年齢より幼く見える。その外見と裏腹に成熟した豊満なバストがファンの間では、ロリ巨乳と称されていて凄まじい人気振りだ。

実際、合法ロリで検索すると高確率で「叶羽未来」とヒットするほどだ。

巨乳は彼女のコンプレックスでもあり武器だと思った。でも言わない。

当の彼女がそうは思ってないのだから。


グラビアもアイドルの仕事と思い割り切れるアイドルは多数いるが未来たんみたいに極端にグラビアを嫌うアイドルるも存在する。無理して続けても未来たんが擦り切れるだけだ。


「俺は、未来たんの意見を尊重するよ。君がしたいようにすればいい」

本当は、アイドルを辞めて欲しくない。だけどそれが未来たんが辛と言うなら彼女の意見を尊重して苦渋の決断を下す。

「ありがとうございます、佐藤さん。そう言ってもらえて嬉しいです」


こうして、推しメンとのクリスマスデートを実現できたことで最後にいい思い出を作ることができた。彼女と会うのも今日で終わりだろう。明日からは別々の人生を歩んでいくんだ。


「あの卒コンにはきて来れますか?わたしの最後の晴れ舞台を見て欲しいです。」


「勿論、行くよ!」

彼女の最後の晴れ舞台だ見に行かないはずが無い。絶対に観に行くからな。!

「よかったー。そこでファンの皆に向けて最後の挨拶をするから、そこでわたしのアイドル活動は終了です。」


「必ず行く、最前列で見るよ!」


「ありがとうございます。楽しみにしていますね!」


そう言って未来たんは満面の笑顔を見せてくれて安心した。


まさか、卒コン当日に、あんなことになるなんて思いもしなかった。











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