第66話 葵の視点 ライバル?それとも最終兵器?
「はぁー。なんかすごいドタバタしたけど、無事に球技大会終わって良かったね」
「ええ。それにしても先輩の人気はすごかったですね」
「あ、あはは。なんでだろうね......」
現在、帰路につく私は、隣に居る美咲ちゃんと先程までの出来事について、田舎道を歩きながら会話していた。
その出来事というのは、カズ君と陽菜が通う高校で球技大会があり、私たちがそれに乱入というかたちで参加したことだ。
元々、陽菜から今日は球技大会があるとは聞いていたけど、今日、大学で美咲ちゃんと会ったら、そのイベントについて一緒に見に行きませんか、と誘われた。
お互い、講義も午前中で終わったし、偶々、うちの大学にオープンキャンパスで来ていた千沙とも会えたので、三人でカズ君と陽菜の様子を見に行こうという話になった。
なぜかバレーボールのエキシビションマッチに強制参加させられる羽目になったけど......。
まぁでも少しの間だったけど楽しかったなぁ。
特にカズ君のムキムキマッチョな姿が素晴らしかった。
すごくキュンキュンしたね!
私が一人で惚けていると、美咲ちゃんが口を開いた。
「ふふ。先輩、バイト君のことを考えてますね」
「?! よ、よくわかったね」
「メスの顔してましたから」
だ、だとしてもはっきり言わないでほしい。
私はそんな美咲ちゃんに仕返しがてら、言ってやることにした。
「そういう美咲ちゃんこそ、カズ君を見る目が恋している女の子のそれだったよ」
さてさて、どんな反応するかな〜。
いつもみたいに冷静に言い返してくるかな? そんなことを思いながら彼女の顔を見ると、美咲ちゃんは少し頬を赤くして微笑んでいた。
「そう......見えましたか?」
「え゛」
私は思わず立ち止まってしまう。
い、今の美咲ちゃんの顔......。
少し前を歩く美咲ちゃんが背中越しに告げる。
「先輩、バイト君を独り占めするなんてズルいですよ」
私は美咲ちゃんを追いかけた。
「ちょ、ちょっと待って! 美咲ちゃん、もしかしてカズ君のこと――」
と私が言い欠けた時だ。彼女は急に振り返って、私の唇に人指を当ててきた。
「違いますよ。ワタシは認めたくないだけです」
「み、認めたくない?」
「ええ。ここまでワタシを惑わして、狂わせた張本人が平気な顔して三股しているのが許せない」
え、ええー。
すると美咲ちゃんは私の手を握ってきた。
「そうだ。先輩、彼をワタシたちが通う大学に入学させましょう」
「え?!」
「バイト君とのキャンパスライフ......ふふ。楽しみですね」
「ちょ、ちょ、ちょ! さっきから何を言っているのかな! カズ君はわ、わた、私の彼氏だよ!」
言った! 遂に私は言い切った!!
一瞬、美咲ちゃんが面食らったような顔をしていたけど、それも束の間で、すぐに妖艶な笑みを浮かべて、私の瞳を覗き込んでくる。
「へぇ。あの男、先輩にそこまで言わせるようになったんですね」
「うっ。別にカズ君は関係――」
「でも安心してください」
美咲ちゃんは私の方へ近寄ってきて、耳元で囁いてきた。
彼女の熱を帯びた息が、甘い囁きと共に私の耳に吹きかけられる。
「はぅ」
「ワタシはあの男を先輩から盗ろうとは思ってませんよ。ただ分けてほしいだけです」
「わ、分け......え?」
「先輩、まだ処女でしょう?」
私は自分でもわかるくらい、頭から湯気を吹き出した。
「にゃ、そ、それがなに?!」
半ば逆ギレみたいに言うと、美咲ちゃんは悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「もう付き合ってどれくらい経ちましたか?」
「そ、それは......」
「普通ならもう一通り済ませてますよ」
も、もう一通り......。
す、すごい物言いだ。
「だからワタシが後押ししてあげます」
「?!?!?!」
この子は何を言っているのかな?!
「あの男、三股しているせいで、腑抜けたことを言っているのでしょう?」
「そ、それは......。カズ君は私たちのことを真剣に考えてくれて......」
「それで先輩の渇きは潤うんですか?」
途端、美咲ちゃんが私の背後に回ってきて、後ろから抱き着いてきた。
「な、何を!」
「先輩は今に満足していますか? していないでしょう。きっと物足りないはずだ」
「だから私は――」
「“女”だから仕方ないことです」
お、女だから仕方ない......のかな......。たしかにカズ君ともっとエッ......深く愛し合いたいというかなんというか......。
黙り込んでしまった私に対して美咲ちゃんが続ける。
「あとひと押しです。たった一押しで、彼は葵さんを貪る猛獣に変わりますよ」
「も、猛獣......」
「ですから今度、三人で......なんてどうでしょう?」
「?!」
絶句する私に、美咲ちゃんが微笑んだ。
「大丈夫です。最初は先輩から。次にワタシです。きっと気持ち良いですよ」
「......。」
たぶんだけど、美咲ちゃんの言う通りだ。
最近、カズ君と触れ合ってわかったことがある。
彼は偶に......そう、本当に偶にどこか物足りそうな顔をする。
きっとそのとき私が押せば、彼はその先も行ったに違いない。
でも私はしなかった。
いつも『彼から選んでほしい』って思い込んで、私から動くことはなかった。
一歩踏み出すことが、どれだけ勇気が要ることかを知っているのに。
だから――。
私は思ったことをそのまま呟いてしまった。
「か、カズ君にもっと......めちゃくちゃにされたい......かも」
「......。」
はッ!! 私はなんてことを!!
が、私は後ろに居る美咲ちゃんの様子がおかしいことに気づいた。
「み、美咲ちゃん?」
「先輩......その顔はズルいです」
なぜか美咲ちゃんの息が荒くなっている。
私を抱き締めてくる腕の力もなんか強くなって......。
美咲ちゃんがまた私の耳元で囁いた。
「今からホテル行きませんか?」
私は全力で彼女から逃げるのであった。
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