第72話 彼女三人とは寝れない件
「そうだ。せっかくだから四人で寝ようよ」
「4Pということですか?」
「言うと思ったけど違う!!」
違うのか......。
現在、俺と中村家三姉妹は東の家の玄関前に居た。
夏の夜は本当に蒸し暑い。早く冷房の効いた部屋で寝たいと思うのは、現代っ子故の甘えだろうか。でも汗だくセッ◯スしたいと思うくらいには、遺伝子レベルで猿根性が刻まれているのは自覚してる。
真由美さんと雇い主が南の家にて夫婦水入らずの夜の時間を過ごすということで、三姉妹は自主的に東の家の方で寝ることになったのだ。
俺はその付添いである。
陽菜と千沙が葵さんの提案に乗る。
「いいわね! 四人で仲良く寝ましょ!」
「布団も客人用のを使えば、ちょうど三人分ありますしね」
「俺は普段土日に使わせてもらっている部屋から布団を持ってくれば四人で寝れるか」
「じゃあ決定! 自分ちなのになんだか楽しみだね!」
などと燥ぐ葵さん。本当にこのJDは可愛いな。これで俺以外今まで彼氏が居なかったとか、なんだか泣けてくるよ。
俺らは一階の居間に来て、テーブルとか諸々退かして布団を敷いた。
四枚の真っ白な布団が綺麗に横一列に並べられている。ちなみに俺が普段使わせてもらっている布団は右端に設置した。
その布団が横に並んだ様に、千沙が余計なことを言い出す。
「こうして見ると見分けがつきませんが、兄さんが普段使っている布団だけイカ臭いですね」
「泣くよ?」
「な、泣く前に否定してよ」
「良い臭いなんだから別にいいじゃない」
匂いフェチは置いといて、俺らは互いに見合った。
「誰がどの布団で寝ます?」
「うーん。カズ君のことを考えれば、真ん中にカズ君かな?」
「あ、じゃあ私、妹なんで兄さんの隣がいいです」
「ちょっと。今日の彼女当番は私よ? 私から選ばせてちょうだい」
「待って待って! こういうときは公平にジャンケンで決めようよ!」
などと、三姉妹で俺の両サイドを取り合うというラブコメ的な展開に。
ああ、ついに俺も甘い青春を味わえるようになったんだな。
そんな感動を抱いていると、陽菜がチッチッチッと人差し指を左右に振って、とある提案をしてきた。
「誰が和馬の両隣を選ぶと言ったのよ。選択肢は三つあるわ」
「「「三つ?」」」
「そ。両隣は葵姉と千沙姉に譲ってあげる」
「え、じゃあお前は?」
「あんたの上」
俺はトト◯じゃねーよ。
俺が陽菜の案を却下したので、三姉妹は葵さん案の通りにジャンケンすることになった。
「やったー!」
「ま、当然の結果ね」
「くッ。日頃のガチャ運の良さがこんなところで帳尻合わせされるとは......」
彼氏とガチャを同列に扱うのお前くらいだよ。
結果は見ての通り、勝ったのは陽菜と葵さんで、千沙が負けた。
そして並び順はこう。
千沙、葵さん、俺、陽菜の順である。
俺が持ってきた布団は右端に敷かれていて、それを陽菜が使うことになった。
実は、右端とその隣の布団を替えるよ、と言った俺に対し、陽菜はにこにこと笑みを浮かべたままそれを拒否してきたのである。
どうやら彼女は漏れなく俺のスメルも楽しむらしい。
別にいいけど、涎を垂らすのだけは勘弁してくれ。
「じゃあ寝ましょうか」
「一応言っておくけど、襲わないでよ、カズ君」
「それフリって言うのよ、葵姉」
「私はウェルカムですけど、ゴムは付けてくださいね」
ここまで初セッ◯スにドライな彼女は居ただろうか。息子もびっくりだよ。
ということで、俺らは四人で並んで寝ることになった。
ああだこうだ賑やかにしていたからか、時計を見ればとっくに日付は変わっていた。だからか、健全な俺らは襲い来る睡魔に従って、大人しく眠りにつくことにする。
左隣の陽菜が俺に抱きつくように寄り添ってきて、右隣の葵さんが自身の谷間に俺の右腕を挟んで寝ている。
ここは楽園だろうか。もし俺は明日死ぬことになっても、後悔は無いと言い切れる。
「すみません、私、寝れそうにないです」
前言撤回。後悔の無い人生なんて無理だろ。
「「「......。」」」
「あの、無視しないでください」
俺らが寝たふりをしてやり過ごそうとしても、妹はそれを許してくれそうにない。
千沙はなぜか俺の下までやってきて、俺の頭の下にある枕をもぎ取った。頭の落下先が布団の上とは言え、俺はほぼ条件反射の如く呟いてしまう。
「いで」
「なんで妹を無視するんですか」
「妹よ、道徳って言葉を知ってるか?」
「寝言は寝て言ってください」
道徳は寝言なのか......。
俺は致し方なくと言った感じで身を起こす。
葵さんと陽菜を見れば、我関せずと言わんばかりに寝たフリを決め込んでいる。こいつら、彼氏を早々に見捨てやがったな。
「俺は時々思うよ。千沙が美少女じゃなかったら、秒で縁を切ってるなって」
「な?! そこまで言う必要無いじゃないですか! 妹が寝れないって言ったら、兄は一緒に夜更かしするものでしょ!!」
「うるせぇ! てめぇの言う兄の定義ってなんだよ! 教えろよ! 全否定してやっから! 兄は神や仏じゃねぇんだよ!!」
「兄は兄です! 人権なんかありません! 妹のことだけ考えてれば良いんです!」
「いでででで! 髪引っ張るな! ハゲる!!」
「ああもう! うるさいわねぇ! 明日も学校あるんだから大人しく寝なさいよ!」
「うぅ。こうなることは半ば予想できていたのに私は......」
俺と千沙の醜い争いに耐えかねた陽菜と葵さんが起きる。
葵さん、自分を責めるより、まず妹を甘やかすのをやめましょ。中村家がこいつに道徳を教えてこなかったから、今があるんですよ。
正直、葵さんと陽菜が人としてできている分、その他諸々の負の要素が全て千沙に詰まって生まれてきちゃったと思ってるから、俺。
そんなことを考えていると、千沙が逆ギレしながらこんなことを言い始めた。
「大体、私は体質上、日付が変わってもしばらくは寝れないんですよ! いつもこの時間はゲームしてますから!」
何を偉そうに言ってんだ、てめぇは。
葵さんが呆れながら言う。
「日頃の不摂生が招いた結果じゃん......」
「だったら千沙姉だけ自分の部屋でゲームしてればいいじゃない」
「そんな寂しいことできませんよ! 彼氏とエッチしたのに満足できなくて、彼氏が寝ている横でこっそりオ◯ニーするくらい嫌です!」
「みょ、妙に具体的だな。処女のくせに」
「そうだ。じゃあ眠くなることをすればいいんだよ」
「と言いますと?」
という千沙の返しに、葵さんが指を立てて提案する。
「えっと。ご飯食べたり......」
「美少女が夜中にご飯を食べるなんて不健康しませんよ」
歩く不健康がほざくな。
「じゃあ軽く運動したり......」
「私、運動が嫌で土日引き籠もってるんですが」
「お、お風呂入ってさっぱりしてきたり......」
「お湯を張るのと、髪を乾かすのが面倒くさいです」
「......羊を数えるとか」
「羊って千匹超えると数えにくいんですよ」
「............カズ君とゲームしたり」
「やっぱそれが一番ですよね」
葵さん、俺を生贄にしないでください。
と、今度は陽菜が提案してきた。
千沙に、ではなく、俺に。
「ねぇ、あんたがアレやれば、千沙姉も寝れるんじゃない?」
「「アレ?」」
陽菜の言葉に、葵さんと千沙が頭上に疑問符を浮かべる。
俺もよくわからなかったので、陽菜に詳しく聞くことにした。
「ほらアレよ。前、私とエッチなことしたときにやったじゃない。首締めるやつ。アレなら気絶して大人しくなるでしょ」
「「?!?!?!」」
「ちょ、おま! 誤解を生むような言い方するなよ!!」
案の定、俺は葵さんと千沙に問い質された。
「さすがにそれはどうかと思うよ!」
「本当ですよ! 一歩間違えれば陽菜が死んじゃうじゃないですか!!」
うっ。陽菜め、あれだけ他の人には言うなよって言ったのに......。
ちなみに陽菜の言っていることは事実である。
言っておくが、俺はそれをヤりたかったわけじゃない。
陽菜に懇願されたのだ。
お願いだから一回首締めてみて、と。
最初は危ない行為だからって拒否したんだけど、その、なんだ......陽菜って地味にマゾっ気あるから、そういうのにすごい興奮するタイプみたいなんだよね......。
ただ細心の注意を払っていた俺も加減が難しくて、陽菜を気絶させてしまった過去がある。
だから二度とヤらないと誓っているのだ。
陽菜が俺に代わってその経緯を説明すると、葵さんと千沙はドン引きしていた。
俺じゃなく末っ子に、である。
まさか末っ子がそんなハードプレイに興奮を覚えるなんて、とは思ってもいなかったんだろう。
とてもじゃないが、陽菜とはさっき暴露したことよりもやべぇことシてる、なんて死んでも言えない。
無論、言うまでもなく、首絞めの案は却下された。
葵さんが渋々といった様子で最終手段に入った。
「はぁ。じゃあカズ君の隣は千沙に譲るよ。好きな人の隣だとすぐに寝付けるでしょ」
葵さん、睡魔に襲われているせいか、言うこと正直過ぎて、こっちが小っ恥ずかしくなってきたんだが。
ということで、葵さん、千沙、俺、陽菜という並び順で寝ることになった。
しばらくすると、再び居間は静寂の間と化した。
うん、今度は皆寝れるようになったんだね。
千沙もぐっすりだ。寝顔はほんっと天使。その正体は天使の皮を被った閻魔大王様だけど。
うんうん。よかったよかった。
「......。」
でもさ、
「......寝れん」
今度は俺が眠れなくなったよ......。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます