第62話 まさかの共闘

 「おおっと! 生徒会チームにまさかの怪我人が!! マズいことになりましたね、桃花さん」


 「ねー。てか、なんで私に振るの。マイク向けないでよ」


 本当だよ。なんで桃花ちゃんまで悠莉ちゃんと一緒に実況やってんの。


 現在、生徒会チームとバレーボール競技優勝チームの“使い古されたマンホール”はエキシビションマッチをしていた。


 が、こちらのチームメンバー、ヨシヨシが怪我をしちゃったことで、保健室へと運ばれることに。その付添で田所先生も退場。おかげで試合の雲行きが一気に怪しくなった。


 「でゅふふふ。会長は案外“受け”かも」


 「ええー、それはないって〜」


 もっと言えば、先の騒動で残り少ない俺の学生生活の雲行きも怪しくなった。


 俺が怪我したヨシヨシをお姫様抱っこしたからか、将又、ヨシヨシがメス顔を晒したからか、一部の腐女子生徒の琴線に触れてしまったのである。


 勘弁してくれよ、こっちは三股するくらい女に飢えてんだぞ......。


 「高橋さん、試合どうします?」


 「やっぱ止めっすかね〜」


 「もしくは助っ人を頼むとか?」


 と、副会長、チャラ谷、芽衣ちゃんの順で俺に話しかけてくる生徒会メンバーたち。


 試合をここで終わらせるのは、盛り上がりに欠けたまま球技大会を終わらせることになりそうなので避けたい。


 芽衣ちゃん案で誰か他の人にヨシヨシと田所先生の代役を任せよう。


 そう考えていた、その時だ。


 「ほほう。興味本位で来てみれば、中々面白いことになってるね、バイト君」


 俺はその声を聞いてハッとした。


 その女性の声が聞こえてきた方を見やれば―――元生徒会長の西園寺 美咲さんが居た。


 ショートボブが特徴のグラビアアイドル級のスタイルの持ち主、西園寺 美咲さんだ。その整った顔立ちや容姿はとてもじゃないが、俺より一つ年が上とは思えないほど大人びている。


 また彼女が優れているのは外見だけではない。頭も切れると来た。容姿端麗、頭脳明晰、才色兼備と彼女を褒め称える言葉は数知れず。


 そんなパーフェクトな元会長がなぜ母校に......。


 美咲さんは縦セタの半袖とワイドパンツという私服姿で、今までその存在に気づかなかったことにびっくりするほど、この試合会場で目立っていた。


 周囲の生徒がざわつき始める。


 「え、誰、あの美人?!」


 「足なっが」


 「女優さん? モデルの人?」


 と、美咲さんを知らない一年生は騒ぎ、


 「嘘だろ?! 去年卒業した西園寺さんだッ!」


 「また会えるなんて......!!」


 「ああ、神よ。私をこの世に生んでくださりありがとうございます」


 と、美咲さんを知っている二、三年生は歓喜の声を上げていた。


 あ、相変わらず卒業したのに人気というか、信仰集めるな、この人。


 俺はこちらの方へ向かってくる美咲さんに問う。


 「み、美咲さんじゃないですか。どうしてここに? 大学は?」


 「ふふ。下の名前で呼ぶとは。ワタシと親しい間柄と他の生徒に知らしめたいのかな?」


 「べ、別にそんなつもりは......」


 「大学は午前中で講義が終わってね。その帰りで母校に寄ったまでさ」


 「はぁ」


 「あと先輩も連れてきた」


 せんぱ......い?


 そう言って、俺は周りに居る大勢の生徒が美咲さんとは別の人物に向けて声を上げていることに気づく。


 「美咲さんの他にも美女が来たぞ」


 「あの人も女優さん?!」


 「え、なになに、テレビの撮影か何か?」


 「でもあんな芸能人知らないよ」


 「美人女子大生がなんでうちに来てんだ?」


 そちらを見やると―――葵さんが居た。


 葵さんの外出する際の服装はお洒落なJDの一言に尽きる。真っ白なブラウスにスキニーパンツというシンプルな私服姿なのに、周囲の視線を集めてしまう。


 そんな彼女は自身が目立っていることに気づいたのか、どこか居づらそうにしていた。


 俺と目が合うと苦笑しながらも軽く手を振ってくる。


 な、なんで葵さんまで......。


 見れば、美咲さんも葵さんも入校許可証を首から下げていた。一応許可は取ってるのか。


 美咲さんが小悪魔的な笑みを浮かべて聞いてきた。


 「驚いた?」


 「そりゃあもちろん......。てか、来るなら来るで連絡くださいよ」


 「あ、兄さん、靴紐解けてますよ」


 「ああ、本当だ。ありがと、千沙」


 「危ないですからね」


 「うん。で、美咲さん、もう球技大会も終盤ですけ――っどぇ?! 千沙ぁ?!!」


 俺はすぐ隣に千沙が立っていたことに気づいた。


 千沙も他JDと同じく私服姿で、オフショルダーのトップスにショートパンツという普段の可愛さとは違う破壊力を秘めた色気を醸し出していた。


 また目深にかぶった黒のキャップも特徴的で、普段よりも大人びている。


 再び周囲がざわつく。


 「え、今度は誰?!」


 「あ、アイドル?」


 「いや、天使だろ......」


 「可愛い......」


 「兄さんって言わなかった?た、高橋の妹?」


 「ボスゴリラの妹がなんであんなに可愛いんだ」


 「あれ? この前、うちの校門前に居なかったっけ、あの子?」


 「あ、噂になってた他校の美少女?」


 お、おいおい。JD二人がちょっと寄ってくる程度ならわかるけど、なんで千沙が居んの。こいつ、平日の今日は学校があんだろ。俺と同い年なんだからさ......。


 「ち、千沙もなんで居るんだ......」


 「姉さんのとこの大学を見学しに行ったんですよ。志望校の一つですので」


 「け、見学?」


 「はい、オープンキャンパスというやつです。やはり休日の大学よりも雰囲気が違っているように見えました」


 「さ、さいですか......」


 「で、半日で終わったので、姉さんたちと一緒に帰ってきたんです」


 おおう、マジか......。


 どうしよう、この状況。はっきり言ってヤバいんだよな。ちなみに近くで試合を見ていた陽菜も姉二人の下へやって来た。


 何がヤバいのかって? ちゃんと見れば誰でもわかるよ。


 「あら、葵姉と千沙姉が来るなんて珍しいこともあるのね」


 「わぁ〜! 陽菜のそのクラスTシャツ可愛いね!!」


 「確かに可愛いデザインですね。でもクラTなんて次の年にはパジャマになるくらい着る機会ありませんよ」


 リアルタイムで付き合ってる彼女が三人も揃っちゃってるとか、なんの冗談だよ。


 俺が一人でこの状況に頭を抱えていると、美咲さんが俺の肩にぽんと手を乗せてきた。


 「ところでバイト君、さっき“生徒会チーム”で怪我人が出たそうだね。その付き添いで頭数に入れていた田所先生も退場したとか」


 何が面白いのか、美咲さんはにこにこと太陽のような笑みを浮かべていた。


 俺は猛烈に嫌な予感がした。


 「二人も減ったんだ。困ったね? 困ってるだろう? ああ、なら仕方ない」


 「い、いや、他の生徒に手伝ってもらうつもり――でぇ?!」


 ぎゅむッ。俺の肩に美咲さんの指がこれでもかと食い込み、思わず変な声が漏れてしまった。


 美咲さんが笑顔のまま告げる。


 「ワタシと葵さんのダブル女子大生が手を貸そうじゃないか」


 勘弁してくれよ......。

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