ハロウィン特別回 コスってチュー
「高橋です。お邪魔しまーす」
「「「ハッピーハロウィン!!!」」」
中村家の玄関の戸を開けたら、中村家三姉妹に襲われた。
今宵はハロウィン。例年の如く、ハロウィンパーティーに呼ばれた俺は、中村家でこの夜を過ごす予定である。
で、俺を襲ってきたのは、キョンシーとくノ一だ。人外二人は玄関から入ってきた俺に抱き着いてきたのだが、葵さんだけ普段着のままでクラッカーを鳴らして出迎えてくれた。
俺は皆に対して告げる。
「お。今年もコスしてんのか。いいね。二人とも似合ってるよ」
「えへへ」
「当然です」
キョンシーのコスチュームをしているのは陽菜だ。
キョンシーとは説明が不要なまでに有名なモンスターである。モンスターというか、中国発祥のゾンビって感じだな。
露出している肌は青白く化粧をしていて、中華服を纏っていた。この中華服も一見すると露出の少ない長袖長ズボンだが、生地が非常に薄くて、陽菜の小柄な体躯が透けて丸見えだ。
そうか、今年はそっちの線で攻めるんですね。
嫌いじゃないですよ、はっきりと見せないで透けるエロさをぶつけてくるスタイル。
そんな衣装に凝っている陽菜だが、やはり特徴的なのは顔に貼られた御札だ。
俺はその御札をぴらりと捲った。
「ほほう。こんな可愛いキョンシーが居るのか」
「ふふ。見て? この牙。手作りよ」
「すご。よく見せて」
「ん」
俺はそう言いつつ、相手もそれを望んでいたのか、キスがおっ始まりそうになった、その時だ。
葵さんと千沙から待ったが入る。
「ちょちょちょ! なにナチュラルにキスしようとしてるの?!」
「本当ですよ!! ここに彼女が二人も居るんですよ?!」
それはそうだけど、その訴え方もすごいよ。
俺はそんなことを思いながら、千沙を見やる。
千沙のコスチュームはくノ一だ。
くノ一とは説明が不要なくらい有名なAVのジャンルである。じゃなくて忍者。そっちのやつ見過ぎたか。
くノ一千沙は俺の視線に気づいて不敵な笑みを浮かべる。
「ふふ。兄さんちの禁断の書庫から発見した巻物を参考にしました」
人のベッドの下のことを禁断の書庫っていうの止めようか。あとエロ本を巻物って言うな。
えへんと胸を張る千沙は、控えめに言ってエロさしかなかった。
元々身体の主張はそこまで激しくなかったが、美乳美尻と均衡の取れたスタイルの絶世の美少女、千沙はくノ一コスチュームに露出という要素を加えてきたのだ。
纏っているのは上衣のみで、今にもパンチラしそうな丈の短さと、胸に吸い付くようなラインを見せつけている。
また足には網目が荒い網タイツが。破けってことだろうか。
「千沙もすごい凝ってるな。俺の
「なんで投げてもないのに突き刺さってるんですか」
「反り返って痛いんだ」
「ばっちぃから触りたくないです」
ばっちぃ言うな。傷つくって。
俺は最後に葵さんの方を見た。
彼女と目が合う。
葵さんは妹二人と違ってコスプレしていなかった。
いや、
「メス牛のコスチューム?」
「素だよ、素!! 胸見てそれ言うの止めてッ」
どうやら巨乳長女は別にコスプレしていないらしい。とんだスケベ女が居たもんだ。
葵さんが他二人と違って自分だけコスプレしていない理由を語った。
「実は私も用意していたんだけど、ネットショッピングで買ったやつがサイズ合わてなくて......」
俺はこの言葉を聞いて驚いた。
まさか未だにスマホすら使いこなせていない葵さんが、ネットショッピングなんて単語を口にするとは思って思いなかったからだ。
俺のその驚愕を察した千沙と陽菜が、長女の説明に補足を入れる。
「あ、買ったのは私ですよ、兄さん」
「もっと言えば、払ったのはママのクレカだけどね」
「ちょ、余計なこと言わないでよ。は、恥ずかしいじゃん」
「なるほど、それは残念でしたね」
葵さんの続く言葉はこう。
その衣装が届いたのは数日前のことで、再注文が間に合わなかったらしい。その辺のド◯キで適当に買おうか迷ったらしいが、他二人のコスチュームの出来栄えにそれを断念。潔く今年は普段着らしい。
俺は苦笑しながら答えた。
「はは。別にハロウィンだからってコスプレが全てじゃありませんよ」
「うっ。そ、それはそうかもしれないけど......」
「あ、そうだ。葵姉、あれやったら? 全裸になって全身にトイレットペーパーを巻くやつ」
「ミイラ男もといミイラ女ですか。姉さんの場合はミルクが出ちゃいそうですね」
「母乳は出ないよ?!」
「え、出ないんですか? そんなに大きいのに?」
俺は葵さんに殴られた。
というか、陽菜、それ俺の黒歴史だからやめろ。あんな人の尊厳を削るコスチュームは思い出したくない。
ということで、俺らはハロウィンパーティー場であるリビングへと向かった。
壁には例年の如く、リースやらコウモリやお化けなどの切り絵やらが飾られている。この一晩だけの楽しい宴だ。後のことなんて考えないはしゃぎ様が目に見えてわかる一室である。
また床には置物として、人面を模して彫られた本物のカボチャがある。さすが農家。
部屋の中央にあるテーブルには、これでもかというくらい豪勢な料理が並んでいた。この部屋には俺ら四人しかいないんだが、食べ切れるのか不安になるくらい多い。
まぁ、残ったら後日食べればいいのだが、その辺は後で考えればいいか。
俺は三姉妹に聞く。
「今年も真由美さんとやっさんは気を使ってくれて、家には居ないんですよね?」
「兄さんからそれを聞くと貞操の危機を感じるのですが、答えはイエスです」
「え、ここってヤリ部屋じゃないの?」
「ハロウィンパーティー会場よ」
呆れ混じりの視線を向けてくる三姉妹。
俺らはそれぞれ片手にジュースを持って、さっそく乾杯することにした。
「「「かんぱ〜い」」」
「おっぱ〜い」
「ねぇ、一晩だけでもセクハラ我慢できない?」
呼吸するなと? 酷い長女が居たもんだ。
俺はこの世の全ての食材に感謝を込めて、いただきます、と告げてから料理に手を伸ばした。
まずはピザだ。
これ、すごい気になってたんだよな。注文して配達されたピザにしては多種多彩の具材が乗っかっているのだ。見たらスライスされたカボチャも乗っててハロウィン感あるし。
「すごいな、あんまピザ頼まないから知らないけど、こんな肉やら野菜やら乗っかってるピザを売ってるなんて」
「いえ? 自家製ですよ」
「え?!」
俺の驚きに、千沙がえへんとくの一美乳を張る。
「実は私が作ったんです」
「え゛」
「妹の自信作です。味わってくださいね」
「......。」
俺は手にしたピザを見つめた後、そのピースをそっと元の位置に戻した。
「ちょ! なんで戻すんですか?!」
「いや、その、まだ死にたくないと思って......」
「妹の料理をなんだと思ってるんですか!!」
料理に擬態した毒物だよ。
俺があんまりな考えを抱いているからか、葵さんが苦笑しながら説明をしてくれた。
「違うよ、カズ君。ピザを焼く石窯を作ったのが千沙だよ」
「安心しなさい。私と葵姉の手作りよ」
「ほっ。それが聞けてよかったよ」
「失礼すぎじゃないですか!!」
まぁでも、石窯作った千沙とピザを作った葵さんと陽菜の集大成だ。美味くない訳がない。
「てか千沙、お前すごいな。石窯も作れるのかよ」
「ええ。兄さんが死んだ時の火葬用にと」
千沙がジト目になって俺にそう告げる。
ね、根に持つなよ。悪かったって。
俺は一度手にしたピザをまた口にして、目を見開いた。
「うっま!!」
「でしょうでしょう!」
「あら本当ね! レシピ本の見様見真似だけど、最高の出来じゃない!」
「ん〜。このとろーりとしたチーズが癖になるぅ」
まさかこんな美味いなんて。
陽菜なんてキョンシーよろしくピョンピョンと跳ねてるし。顔面に貼ってた御札をいつの間にか取ってるよ。
だからか、つい俺は陽菜にあることを頼んでみた。
「ちょ、お前、本当にキョンシーみたいだな。あれやってよ、両手を前に出して跳ぶやつ」
「ああ! いいわね!」
陽菜が食いかけのピザを俺に渡して、その場で両手を前に突き出し、ピョンピョンと跳ねた。
「トリック・オア・トリート!」
「ぶふッ。それ言いながら跳ぶの反則だろ!」
「地味に発音良いのがまた......」
「ひぃ......だめ、お腹痛い」
俺らは皆して腹を抱えていた。
そして次は私、と言わんばかりに千沙が前に出た。
「次は私です! こっち見てください!」
と言われ、俺らは千沙がなにやら台の上に置いてある機械――プロジェクターの電源をオンにして、壁際の方で立った。
彼女が立っている背後の壁だけ、まるでそこだけこのハロウィン空間とは別世界のように真っ白なのである。
千沙は忍者さながらの手の組み方で言う。
「忍法! 分身の術!」
次の瞬間、千沙の隣に、もう一人の千沙が現れた。
プロジェクターが映し出した映像の中の千沙だろう。ちょうど二人とも身長は同じくらいなので、その技量に俺らは吹き出した。
「あひゃひゃひゃ! ちょ、それはズルいって!!」
「映像の方の千沙姉、普段着じゃん!」
「あ」
「ふっきんが、ふっきんがしぬぅ」
それから映像の中の千沙はなんか可愛らしく踊り始めた。もう色々と駄目すぎて、却ってこの分身の術が成功しているようにしか見えない。
それから色々と映像の中の千沙の行動を楽しんでいると、葵さんがこの場に居ないことに気づく。
不思議に思った俺が二人に聞く。
「あれ、葵さんは?」
「あら、居ないわね。トイレじゃない?」
「遂にミイラ女になりに行ったんですかね(笑)」
それはないだろ(笑)。
それから少しして、二階に繋がる階段の方から、なにやらガシャンガシャンという騒がしい金属音が聞こえてきた。
俺らが何事かと思ってそちらを見やると、このパーティー会場に見知らぬ者が現れたのだ。
現れたのは、全身鎧姿の騎士である。
「「「え゛」」」
間の抜けた声を漏らす俺ら。
そして騎士が腰に携えていた剣を掲げて声を出した。
「じゃじゃーん! 騎士だよ! 格好いいでしょ!」
あ、葵さんの声だ。
何かを思い出したかのように、千沙と陽菜も口を開く。
「そ、そういえば葵姉のコスチュームは騎士だったわね」
「びっくりしましたよ」
「あ、あはは。驚かしちゃったみたいでごめん」
カチャカチャと頭を掻く仕草を見せる女騎士さん。見た目は厳ついのだが、中身が葵さんとわかると仕草の節々に可愛らしさがあって微笑ましい。
なるほど、葵さんもキョンシーとくの一の影響を受けて、燥ぎたくなったのか。
可愛い奴め。
あれ? というか......。
「葵さん、サイズが合わないって言ってませんでした?」
「ぎく」
“ギクッ”って聞こえたんですけど。
が、葵さんは明後日の方向を見やって言う。
「え、えっと、もう一回着てみたらそうでも無かったというか、なんというか......」
「へぇー。不思議なこともあるのね」
「たった数日で痩せたってことですかね」
「ちょ、太ってないってば!」
などと、三姉妹の会話を他所に、俺は葵さんの方へ向かい、彼女の胸の位置まで目線を合わせるように屈んだ。
胸に目線を合わせるって表現すごいな。乳首がもはや目に思えてきた。乳首見えんけど。
葵さんはそんな俺にたじろぐ。
「な、なに?」
「はぁ。葵さん、駄目ですよ。くの一とキョンシーを見習ってください。なんでこんな露出皆無なコスチュームを用意してんすか」
「ひどッ! あの露出癖二人が正しいわけじゃないからね?!」
「ちょっと。誰が露出癖あるって?」
「陽菜、文句を言いたい気持ちはわかりますが、自分の服が透け透けなのわかってます?」
俺は葵さんの胸当ての鉄板プレートをコンコンと小突く。
「あなたの武器は
「あ、ちょ――」
瞬間、俺は右頬を思いっきし打たれて、尻もちを突いた。
「へぶしゃ?!」
「兄さん?!」
「和馬?!」
俺はあまりの発言に、遂に怒った葵さんに殴られたかと思ったが......違った。
見上げると、葵さんは何もしてなかった。
ただ彼女の胸当てのプレートが、バカになって閉じなくなった扉のように、パカパカと前後に揺れていたのだ。
その壊れた胸当てのプレートに俺は打たれたのだろう。
おそらく俺が小突いた拍子に、胸当ての金具が外れて、それが弾けるようにして前方に突き出ちゃったのだろう。
そしてあらわになったのは、葵さんが十八年間大切に育ててきた、たわわに実った巨乳である。
黒のブラジャーに押さえつけられているが、エロいを通り越して、どこか虚しい光景だ。
全身鎧姿に、おっぱいだけ晒すという摩訶不思議な恥辱を体現する中村家長女、葵。
そして俺らは察する。
サイズが合わないって、そういうこと......。
「「「「......。」」」」
しばしの沈黙の後、葵さんがぷるぷると身を小刻みに震わせながら呟く。
その際のカチャカチャという鎧の擦れ合う音が、この静かな空間にやけに響いた気がした。
「く、くっ殺......」
まぁ、うん......どんまい。
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