第58話 ドッジボールでアヘアヘすんな!!

 「そ、それでは最終戦を始めます。“干からびた精な子”チームと、つ、“次は終点、愛駅”チームは整列してください」


 おい、ちょっと待て。うちのチーム名も大概だが、相手チームも相当ヤバいぞ。


 なんだ、“次は終点、愛駅”って。下ネタじゃねぇーか。こんなの車内放送されたら世も末だぞ。


 現在、順調に全ての試合に勝った俺らのチームは、いよいよ最後の試合を迎えていた。


 ここまでの試合は負け無し。この試合に勝てば優勝だ。というのも、それは今回の対戦相手も今まで負けてこなかったからである。


 勝ち星は互いに同じ数なのは燃える展開だが、その相手チームの名前が下ネタ満載のチーム名だったなんて......。


 「「「「っ......」」」」


 おかげでこっちのチームメイトは絶句を禁じ得なくなってるよ。


 うちのチームメイトが絶句しちゃうネーミングセンスの持ち主が、相手チームには居るということだろう。


 俺は整列する相手チームのうち、一人を見やった。


 「はッ。なんですか、そのピチピチなクラスTシャツ! そんなに自分の筋肉を自慢したいんですかぁ、先輩♡」


 「......。」


 百合川 悠莉。通称、クソレズ野郎。女の皮をかぶった和馬さんである。


 こいつがトチ狂ったチーム名にしたのか。


 茶髪ツインテは非常に可愛らしいのだが、彼女の胸はその愛らしさに反して凶悪だ。デカい。非常にデカいのだ。低身長なくせに出るとこ出てるから、一部の男子から絶大な人気を得ている。


 しかしそれでも彼女はクソレズ。どんな男にアタックされても跳ね除ける性癖の持ち主だ。


 そんな彼女は口に手を当てて、意地の悪い笑みを浮かべていた。


 「まさか悠莉ちゃんと戦うことになるとは......」


 「ふふ。ここを使うんですよ、ここを」


 そう言って、悠莉ちゃんは自慢げに自身の頭をトントンと指差した。


 ど、ドッジボールにそんな頭脳戦があるなんて知らなかった......。そんな彼女のチームは驚きの女子四人と男子一人の構成だった。


 ま、マジか。正直、男女混同のスポーツじゃ、女子が多いと不利だと思っていたんだが......。決して女子を軽視しているわけではないが、どうしても男女じゃ膂力に差が出るだろうし......。


 「それでは両チーム、配置に着いてください」


 審判が合図をするのと同時に、互いのチームは内野と外野で別れた。


 俺と裕二、陰キャ君は内野で、他は外野だ。相手チームは女子二人と男一人が内野で、その女子二人のうち一人が悠莉ちゃんである。


 「おい! ドッジボールの決勝戦が始まるぞ!」


 「私も見たい!」


 「あ、ちょ、前に居る奴ら座れって! 見えねーだろ!」


 俺らの試合を見に来た生徒のうち、一人が言ったように、この試合は決勝戦みたいなもんだ。


 この試合と同時にドッジボール競技は終わる。両チーム、これまでの戦績は互角と来た。ならば、もはや決勝戦のようなものだろう。


 そのせいか、予想以上に観客が多い。俺らを囲むようにして人で賑わっていた。な、なんかすごいことになっているな......。


 「和馬ぁー! 勝ちなさいよー!」


 「お兄さーん! 頑張って〜!」


 と、観客の中に、見知った人物の存在を見つけた。


 陽菜と桃花ちゃんだ。後者は通常、巨乳JK。彼女も悠莉ちゃんに負けず劣らずの豊満な双丘を身に着けているので目立つ。


 ちなみに前者は通称、真っ平らJK。何が真っ平らかはもはや語るまい。それでも陽菜の容姿は群を抜いて可愛いから非常に目立つ。


 そんな美少女二人は悠莉ちゃんと同じクラスだ。なので三人は本日、同じクラスTシャツを身に着けている。


 あいつら、自分とこのチームを応援しなくていいのかな......。


 「それでは試合を始めます。先行は、“干からびた精な子”チームです」


 と、審判が俺らのチーム名を吃ることなく言えたところで、試合が開始するようだ。


 先制はこちら。ボールは裕二の手にある。裕二はサッカー部のキャプテンで、一時期、キーパーを担っていた猛者だ。


 正直、この試合も勝ったようなもんだと思ってる。


 「おらぁ!!」


 裕二が相手チームの男子生徒を狙ってボールを投げた。


 が、


 「そんなボール、余裕で取れるっすよ!!」


 相手の男子生徒がボールを難なくキャッチしやがった。


 お、おいおい、マジかよ。


 俺が唖然としていると、悠莉ちゃんが余裕の笑みを浮かべながら高笑いし始めた。


 「あははは! この人はなんと野球部の次期エースの安田君です! 次期エースの!」


 “次期”を強調してやるなよ。


 悠莉ちゃんに言われて、安田君を見ると、たしかにかなり身体が仕上がっている感じだった。


 安田君の実力は確かだ。が、それでも彼一人の力だけで決勝戦まで上り詰めたとは思えない。


 何か他に......。


 「さて、先輩、なぜうちのチームが不敗なのか、教えて差し上げましょう」


 すると不敵な笑みを浮かべた悠莉ちゃんが、ボールを持っている安田君より前に出てきた。


 な、なにしてんだ、こいつ。もしこっちにボールが渡ったら、即当てられて外野行きだぞ。


 彼女は俺らの陣地を示す白線ギリギリの場所に立った。俺らはそんな彼女を警戒しながら注視する。


 そして次の瞬間、


 「うっふ〜ん♡」


 「「「っ?!」」」


 悠莉ちゃんは自身の豊満な胸を両手で中央に寄せた。


 むにゅり。聞こえるはずのない柔らかな、それでいて確かな張りと弾力を感じさせる音が聞こえた。


 しかし何よりも特筆すべきは、視覚的な刺激だろう。大きな双丘がその形を崩れさせ、柔らかさという波をその場に生じさせたのだ。健全な男の子が目にしちゃいけない代物である。


 これ即ち、


 「「ぐぅぅうううう!!」」


 男子生徒の股間へのダイレクトアタックを意味する。


 俺らは前屈みになって、その場に蹲った。


 勃〇だ。あの胸の柔らかなモーションが、えも言われぬエロスを漂わせているのだ。


 世の女性に覚えておいてほしいことがある。


 男はな、勃起するとそれを隠そうとほぼ無意識に、かつ強制的に前屈みになっちゃうんだよ。


 『うわ、あの人、勃起している』という軽蔑の視線を絶対に受けたくないから、その処置が余儀なくされるのだ。


 「「「「「ぐぅぅううううぅ!!」」」」」


 しかも俺らだけじゃない。観客の男子生徒たちも、悠莉ちゃんのおっぱいを目の当たりにして前屈みになった。


 なんて恐ろしい範囲攻撃だ。


 しかし悲しきかな。同時に、この決勝戦が未だかつて無い程の観客数を誇る理由を知ってしまった和馬さんである。


 そう言えば、悠莉ちゃん、中村家直売店でスタッフとしてバイトしてるときも、かなり男性客にサービスしている節があったのを思い出す。あいつ処女のくせに、なんて軽はずみな攻撃をするんだ。


 だからチーム“次は終点、愛駅”と戦ったチームは負けたのか。この攻撃を食らってはタダじゃ済まされない。一方的な虐殺だ。


 俺が自身の不甲斐なさに歯噛みしていると、悠莉ちゃんが勝ちを確信したような笑みを浮かべながら、俺を見下ろしてきた。


 自身の頭をトントンと指差しながら。


 「ふふ、先輩。ドッジボールは......ここを使うんですよ」


 お前が使ってんのは“おっぱい”だろッ。


 そう内心でツッコむ童貞野郎であった。

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