第57話 ドッジボールで怪我するな
「それでは第五試合、“灼熱魂”チーム VS ひ、ひか、“干からびた精な子” チームの試合を始めます」
やっぱギリギリアウトだよな、そのチーム名。なんだよ、“干からびた精な子”って。卑猥かよ。
現在、生徒会長の俺は生徒会の仕事をそっちのけで、これからドッジボールをしようとしていた。
仕方ない。俺も生徒会長だが、その前にいち生徒だ。球技大会に参加しない理由にはならない。
「初戦、絶対に勝つぞー!」
「「「おおー!!」」」
裕二の掛け声に応じ、同じチームメンバーが喝の入った声を上げた。ちなみにだが、お察しの通り、“干からびた精な子”チームは我々のことである。
何を隠そう、俺のクラス三年一組は、種目ドッジボールに参加する際、チーム名を“干からびた精な子”で提出したのだ。もちろん、俺は関与していない。
裕二の悪ふざけに他のメンバーが乗っかっただけだ。
「なんて卑猥なチーム名なの......」
「恥知らずめ......」
「てか高橋君のクラスTシャツ、めっちゃピチピチじゃん。筋肉見せつけたい系男子なの? ちょっと胸板触りたくなるけど」
「しかもあの怪我......絶対、他校の生徒と喧嘩してきただろ」
「ひぇ。そんな不良と相手しなくちゃいけないんですかぁ」
そのせいか、相手チームの“灼熱魂”から軽蔑の眼差しが向けられる羽目に。
俺、不良じゃないよ。
俺のクラスTシャツだけ発注ミスしてサイズ違うだけだよ。
顎と頬に負った怪我は生徒会室で女子に殴られたからだよ。
だから喧嘩なんかしてきてないよ。
相手チームから向けられる軽蔑の眼差しが遺憾だったのか、裕二が前に出て吠えた。
「おうおう! 他所のチーム名にイチャモンつけるきか?! あ?! なんだよ、“灼熱魂”って。パンピーが考えそうなネーミングセンスだなぁ、おい!!」
「お、おい。お前も充分イチャモンつけてるって」
俺は裕二を止めるが、他のチームメンバーも裕二に便乗して相手を煽った。
「てめぇら俺らに喧嘩売ってんのかぁ?! ああ?!」
「こっちには泣く子も黙る和馬さんがいんだぞッ!」
「謝るなら今のうちだからなぁぁぁああ!!」
どうしよう、味方チームが全然味方じゃなかった。
俺の名前を出して威嚇するなよ......。俺も悪者みたいな扱いされるじゃん。
ちなみに相手は三年三組。こっちは男子生徒五人に対し、あちらさんは男三、女二のチーム構成だ。
俺が苦手な女子生徒が二人も居る。
あ、苦手って、もちろんスポーツ的な意味でね? 普通に大好物だし、おっぱい揉ませてくれるなら、この試合、勝たせてあげてもいいと思ってる。
俺も充分悪者か。
「こ、こら! 試合を始める前から喧嘩をするな!」
「ちッ! 和馬さんが黙ってるから見逃してやんよ!」
「「「やんよ、やんよ!」」」
「......。」
味方から倒していこうかな、この試合。
審判が止めに入ったことで、両チーム配置に着く。ドッジボールのルールは至ってシンプル。
言うまでもなく、両チーム五名の少数で勝負する。そのうち、試合開始の段階では内野三名、外野二名で別れ、内野は敵チームと向かい合う陣地へ、外野は敵チームの周りを囲んでスタートする。
味方なら内野、外野どちらにパスしてもOK。勝敗はどちらが先に相手陣地から相手を追い出したかで決まるのだ。
審判が両チームに告げる。
「ジャンケンに勝ったチームが先行だ。ジャンケンしてくれ」
「最初はグー、ジャン――」
「俺、パー出すから」
「――ケン......え?」
「いや、俺、パー出すから。裕二様は偉大だからハンデをやろうと思ってな」
「そ、そうか」
「よーし。ジャンケンすっぞー。最初はグー、ジャンケン――」
追い出す方法は相手をアウトさせること。
敵チームから投げられたボールが、自身の身体の一部に当たって、地面にそのボールが落ちたらアウト。ボールが地面に落ちる前にキャッチできたらセーフだ。
アウトした人は外野へ。外野がアウトを勝ち取ったら、その外野は内野になることができる。まぁ、外野は最低限二人必要だから、その限りじゃないけど。
「負けたぁぁぁぁあああ!」
「やったぁぁ! あいつなんかグー出したよ!」
「馬鹿でしょ、あいつ」
「やったな! これでこっちが先制で有利だ!」
裕二君の馬鹿は今に始まったことじゃないけど、何してんの、あいつ。
審判がジャンケンで勝った相手チームにボールを渡し、試合開始のホイッスルを鳴らした。
ちなみに相手の内野は男二人に女子一人。外野には男女一人ずつという配置だ。また、俺は内野だが、こっちのチームで球技に最も長けている裕二君は外野である。
「まずは雑魚から倒せ!」
「わかった!」
と、相手チームの気弱そうな女子生徒が、“干からびた精な子”チームの弱そうな男子生徒を狙う。
そいつは普通にキャッチした。
ま、まぁ、弱そうに見えても、男女じゃ力量差があるのは仕方のないことだ。むしろこっちのメンバーが取れなかったら恥ずべきレベルと言いたい。
弱そうなチームメイトが吠える。
「なぁにが先制は有利だよぉぉおおお!! あっさり僕に取られているじゃねぇーか!」
「「「ざーこざーこ!」」」
今吠えたチームメイトは、俺の中では陰キャな印象がある。
なのにこの狂乱っぷり。いったい何が彼をここまで豹変させるのだろうか。
バックに大きな存在が居るから大きく出よう、みたいなイキりっぷりを感じるのは気のせいじゃないはず。
「じょ、女子生徒のボールを取ったくらいで調子に乗るな!」
「うるせぇ! クソメガネッ!」
「くッ!」
『ピッ!』
「“灼熱魂”チーム、一人アウト!!」
......なんか思ってたのと違うな。うちのチームの治安が酷い。
「くそ! よくも西田を!」
「ボールはこっちの陣地だよ!」
「俺が投げる! おらぁぁぁああ!!」
と、相手陣地に一人だけ残っている男子生徒が、床に落ちているボールを拾って、感情のままこちらへ投げてきた。
............え、俺に? なんで?
敵はさっき『雑魚から倒せ』と言っていた。自惚れる訳じゃないが、内野が三人もいるのに、真っ先に和馬さんを狙うってどういうこと?
などと考えていた俺は、周りを見た。
視界には味方が誰一人も居なかった。
否、
「和馬さん! 取っちゃってくださいよ!!」
「へへ、あいつ、バカ正直にボスに向かって投げてきましたよ!」
俺の真後ろに内野二人が隠れてやがった。せっこ。
ボスって呼ぶなよ。この悪党共が。
てか相手も相手だな。真正面からじゃ俺しか狙えないのはわかるけど、だったら外野にパスすればいいじゃんね。
まぁいいや。
「ほい」
「「っ?!」」
俺は迫りくるボールに対し、しゃがんで避けることにした。
これにより、真後ろに居た味方の胸に、投げられたボールが当たって、そのボールが床に落ちた。
『ピッ』
「ひ、“干からびた精な子”、一人アウト」
「くそッ! よくも仲間をッ!」
「いや、お前が避けるからだろ!」
「和馬さぁぁぁあああん!!」
「ボスぅぅぅうう!!」
「何してんすかぁぁあ!!」
床に
「な、仲間割れか?!」
「わ、わかりません」
戸惑う敵チーム。審判が試合を再開させたことにより、俺は手にしているボールを外野に居る裕二に渡した。
裕二は男子生徒の足を狙ってボールを当てた。それにより、外野二人を残して、裕二が内野に戻る。戻ってきた裕二が俺を責めてきた。
「なんでお前が投げないんだよ」
「俺が女子の居るチームに投げるわけ無いだろ。怪我させちゃったらどうする」
「うっ。それもそうか......」
自分で言っといてなんだが、少しは否定してほしかった。伊達にこういうときに限って、“和馬さん”とか“ボス”と呼んでくる連中じゃないし。
「で」
すると内野のうち一人の陰キャ野郎が、こちらの陣地に落ちているボールを手に取って、前へと出てきた。
彼は下卑た笑みを浮かべながら、手にしているボールをパシパシと叩いている。舌舐めずりする様は、どっからどう見ても悪役のそれである。
とてもじゃながい、陰キャがしていい顔じゃない。
「残りはあの女一人っすよ、ボス」
「ひッ! ど、どうか、操だけは......」
「......。」
「はッ。和馬さんにナメた口聞いたんだ。アヘアヘ言わせてやんよ。和馬さんがな!」
俺は天を仰ぐのであった。
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