番外編2 サンタが一年に一日しか働かない理由
やぁ、皆。カズサンタだよ。
ド〇キで買ったフリーサイズのサンタ服を着た和馬さんだけど、今はサンタだよ。
カズサンタだよ(二回目)。
現在、サンタコスをした俺は、付き合っている三姉妹にサプライズをしようと、これから三人の部屋にそれぞれ侵入―――じゃなくて、お邪魔しようとしていた。
プレゼント持ってないけど。
クリパで彼女たちに配ったのが痛かったなぁ。さすがに二個も用意していなかったよ。
「まぁ、このサンタ袋に入っているのは夢とか希望だから」
俺はそんな言い訳をしつつ、最初の部屋のドアを開けた。
陽菜の部屋である。たぶんもう寝ていると思うけど、起こさないようにそーっと開けた。
「お、寝てる寝てる」
俺は声を大きくしないように呟いた。
部屋の中は真っ暗。部屋の窓から差し込む月明かりで、辛うじて視認できるくらい。
部屋に入った俺は、すやすやと寝息を立てている陽菜の下へ向かった。
「ふむ、何をプレゼントしようか」
カズサンタはプレゼントを一つも持っていない。
プレゼントを持っていないサンタなんて犯罪予備軍の域を優に超えている。
一歩間違えれば不法侵入者だ。
それもこんな美少女が居る部屋の中に無断で入るとか。
「やべ、背徳感で興奮してきちゃった」
おっと、和馬さんは意外にも犯罪者の素質があったらしい。伊達に日頃から他者にセクハラを吹っ掛けていない。
「かじゅまぁ」
と、考え事をしていた俺を他所に、陽菜が寝言を口にしていた。
どうやら彼女の夢の中には俺が居るらしい。
はは、本当に可愛いやつだ。
「もう......こんなにだしたら......こども......できちゃう」
「......。」
こいつ、どんな夢見てんの。可愛い顔してとんでもないことシてんな。
どうやら陽菜の夢の中に居る俺は童貞じゃないらしい。
「あ、そうだ」
と、ここで俺はあることを思いついたので、服を脱いだ。
そしてそれを陽菜の顔の真横に置いておく。
陽菜のプレゼントはこれで決まりだ。
「よし」
ド〇キで買ったサンタ服だが、何回か試着してるし、洗ってるから、俺の臭いが染み付いていることだろう。
陽菜はニオイフェチだから、きっと喜んでくれるはずだ。
満足な笑みを浮かべながら、パンツ一丁と靴下のみの俺は陽菜の部屋を後にした。
*****
「次は千沙にするか」
現在、パンツと靴下しか身に着けていない俺は、サンタの麻袋を片手に愛する妹の部屋の前でやべぇ発言をしていた。
というのも、それは俺がほぼ全裸だからで、仮に今もサンタ服を着ていたら、この発言は許されるものであったからだ。
今思ったんだが、和馬さん、サンタしに来たのに、サンタの服を陽菜に捧げてきちゃったらダメじゃん。
これじゃあ、ただの変態じゃないか。
「でも陽菜にはして、他の二人には何もしないってのは良くないよな」
俺は彼女を平等に愛すると誓った。
ということで、いざ出陣!
「おはようございま~す」
俺は部屋の中に居る人には聞こえないよう、最小限の声量で言いながら、ドアノブを引いた。
その時だった。
「え゛」
ザクッ。
何か不穏な音が、俺のおでこから聞こえてきたんだが。
てか暗くてよく見えなかったが、なんか飛んできた気がするんですけど。ドア開けた瞬間に。
俺は額にあるものに目をやる。
そこには......ナイフが刺さっていた。
「......マジすか」
バタリ。
俺はその場に倒れた。
*****
「ったく。まさか雇い主の言った通り、命がけになるとは思わなかったぜ」
俺は額から流れ落ちる血を腕で拭いながら、部屋の中へ入った。
千沙の部屋のドアを開けた瞬間にナイフが飛んできたのである。どういう仕掛けかは知らんが、侵入者を殺す気満々だってことは痛いほどわかった。
が、不幸中の幸いとは、まさにこのことではなかろうか。
ほぼ全裸だった俺は、今しがたの出血のおかげで、黄色人種の肌をその血で染め上げることができた。
どうやら今宵の和馬さんは何らかの運命が働いて、どうしてもサンタさんをやらないといけないらしい。病院とか行ってる場合じゃないようだ。
ということで、カズサンタ、思わぬ事態で再誕である。
部屋の中へ入った俺は、陽菜の部屋と同様、窓から差し込む月明りを頼りに歩を進めた。
「すぅ......すぅ......」
「......。」
そしてすやすやと心地良さそうに寝ている妹を発見する。
この寝顔、マジで天使。世界一可愛いよ。とてもじゃないけど、ナイフトラップを仕掛けた奴の寝顔とは思えない。
「お?」
すると、どういうわけか、俺は意外な物を発見した。
「靴下?」
片方だけの靴下だ。それもかなり大きめなやつ。どう見たって人間が履くような代物じゃないサイズの。
俺はおかざりかな?と思って、その大きな靴下の中から紙切れの端が出ていることに気づく。
俺はそれを中から取り出した。
白い紙に書かれていたものは、箇条書きで“桃〇”と“スーマリ ワ〇ダー”と記されていた。某ゲームのソフトである。
「こいつ......マジか」
「すぅ......すぅ......」
俺は可愛らしく寝入っている妹に、まるで信じられない物でも目にしたかのような視線を向けた。
うちの妹、サンタさん信じちゃってる系の子みたい。
サンタさんは煙突もしくは窓からやってくる。
だから決して部屋のドアを開けて普通に入ってこない。
入ってきた奴は偽者。
偽者にはナイフを。
「お、お前、俺と同い年だろ......」
「んん......」
人知れず、こんな靴下とお願い事用意しているとか、マジで信じちゃってるとしか思えないよ。
まぁいい。今日は俺がサンタだ。なんかあげないとな。
「これでよし」
そう思った俺は、彼女の顔の横にある大きめの靴下の中に、自分の靴下を突っ込んだ。
仕方ないじゃんね。俺、プレゼントどころか、服すら着てないよ。
靴下しか持ってないから、これしか差し出せん。
「それに良い子にしてないと、サンタさんはちゃんとしたプレゼントをくれないんだぞ」
ナイフトラップを仕掛けるなんて論外。お願い事を箇条書きで複数書いたのも図々しいことこの上ない。
そんな子にはサンタさんの使用済み靴下で十分だ。
俺は満足な笑みを浮かべながら、パンツ一丁で千沙の部屋を後にした。
*****
「最後は葵さんか」
現在、黄色人種の肌の色を血の色で染め上げた一糸まとわぬ姿の俺は、最後のひと仕事をするために葵さんの部屋の前にやってきていた。
ふむ、正直、この恰好で女の子の部屋に入ってもいいのだろうか。
今から犯罪をする気がして仕方が無いんだが。
「まぁ、ボディーペイントと思えば、全裸じゃないか」
俺はかまわず、中身の入っていない麻袋を片手に、長女の部屋の中に入った。
葵さんの部屋も他二人と同様、灯かりを消して薄暗い。
外から差し込む薄明かりを頼りに進むと、
「んッ。......カズ、くん......もっと......ついて」
「?」
ベッドで寝ている葵さんを発見することはできたが、彼女はこちらに背を向けている状態のため、本当に寝ているのかわからない。
なんか呟いていた気がするが、陽菜の姉だ。寝言で愛しの彼氏の名前を呼んでしまったのだろう。
へへ。彼氏として嬉しいぜ。
俺はそんな彼女におかまいなく近づいた。
そして気づく。
「あッ......イくッ」
葵さんがお楽しみ中ということに。
「え゛」
思わず、間の抜けた声を漏らすカズサンタ。
「ひゃ?! だ、だにぇ?!」
俺の声に驚くお取込み中の葵さん。
あ、葵さん、あなた、寝てなかったんですか......。
良い子の皆は寝ている時間ですよ......。
「っ?!」
「......サンタだヨ」
薄暗い空間で、おそらく彼女と目が合っただろう俺は、棒読みで挨拶した。
サンタさん、バレちゃった。
「だ、だだだだ―――」
暗いからあんまわからないけど、彼女は急速に赤面しているのだと察する。
そりゃあそうだ。交際相手とはいえ、他人に股間事情がリアルタイムでバレてしまったのだから。
誰だって羞恥で赤くなるよ。
これがほんとのサンタクロースってね。
「誰かたす―――」
「うおい!!」
葵さんが大声で助けを呼ぼうとしたので、カズサンタは全力で彼女の口を塞いだ。
こんな状況を他人に見られでもしたら、ただじゃ済まされない。
「んー!!」
「葵さん、自分ですよ?! 彼氏です!!」
「んんー!!」
俺は葵さんに顔を近づけて、不法侵入者ではないことを示した。
......いや、不法侵入者か。サンタだけど。
が、口を押さえつけている俺を目にしても、彼女は涙目になって大声を出そうとしている。
俺は彼女を落ち着かせようと頑張った。
「落ち着いてください! 自分ですってば!」
「ふが!! ふがふごんが!!」
なに言ってんのか全くわかんない。
というか、なんかさっきより大暴れしている気がする。
......なんでだ?
俺は俺自身も冷静になる必要があると思ったため、とりあえず、身に着けているパンツを脱いで、騒ぐ彼女の口の中に突っ込んだ。
これで彼女の口を手で塞ぐ必要は無くなった。
この部屋に居るのは葵さんと俺のみ。
前者は自慰行為を他人に見られて恥ずかしさのあまりご乱心だ。
後者は今しがたパンツを脱いだので、全裸を晒している。
.......どうしよう、この上なくサンタからかけ離れたことをしている気がするだが。
「葵! どうしたッ?!」
するとドアが勢いよく開かれ、この部屋の灯かりが点いた。
どうやら先程の葵さんの騒ぎで、パパさんが駆けつけてきたらしい。
自慰途中だったため、服が乱れた状態の葵さんと、その長女の口の中にパンツを突っ込んで押さえつけているカズサンタ。
どう見たって犯罪現場だ。
「ふごー!!」
「......カズサンタだヨ」
「......。」
次の瞬間、俺が目にしたのは雇い主の大きな拳である。
なるほど、通りでサンタは一年で一日しか仕事しないわけだ。
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