番外編1 和馬さんはサンタになりたい
「ふむ、サンタやるか」
天気は晴れ。今はもう夜で俺は雇い主と一緒に、十二月下旬のこのクソ寒い時期にも拘わらず、外に出て中庭で一緒にサツマイモを焼いていた。
焼き芋パだ。男二人の悲しいやつ。だって仕方ないじゃん。女性陣は皆『寒いのは嫌』って言って家から出ないんだもん。
もちろんストーブの上で焼いているわけじゃない。日中、切った雑木の枝とか落ち葉を集めて火をつけるという古典的なやつだ。
焼いている芋も中村家産である。
「どうしたんだい、急に」
「いえ、明日の夜ってクリスマスじゃないですか」
「ああ、うん。そうだね」
「だからサンタクロースにコスプレして、彼女たちにサプライズしようかなって」
明日はクリスマス。
彼女が三人も居る俺は、彼女たちとクリスマスパーティーをする予定なのだが、それだけじゃ味気ないと思っていた。
だから夜遅くにサンタコスした俺が、三姉妹が寝た後にプレゼントでも配ろうかと企てていた。
こういうサプライズ心、大切でしょ。
「ああ~、高橋君がサンタさんになるのかー。あまりおすすめしないよ、あんなの」
と、雇い主が、長い棒で焚火をいじりながら言ってきた。
「え、なんでですか?」
「いや、一歩間違えると死ぬからさ」
なんで?
「し、死ぬって......」
「ああ、大袈裟に言っている訳じゃないよ?」
「大袈裟であってほしいですね」
「それに一家のパパとして、誰しも通る道だからさ、サンタのコスプレって」
「たしかにそんなイメージあります」
「でもサンタさんって侵入者の一種じゃん? 娘たちが黙って見逃すわけないよね」
知らなかった。サンタさんは空き巣と同列の扱いなのか。
「で、でもほら、サンタさんはプレゼントを配るので、何か盗むわけじゃありませんし」
「いや、盗んでるよ。娘たちから“笑顔”っていう掛け替えのないものをね」
「......。」
過去の雇い主にいったい何が......。
が、それでも俺は三姉妹の彼氏。サンタさんとして、今年は三人にサプライズしようと固く決意した。
俺のそんな様子を見て、雇い主は虚ろな眼差しで焚火を見つめながら『死なないでね』と激励してくれた。
激励......ではなかったな。
*****
「クリスマスパーティー! かいさ~い!!」
「「「いえ~い!」」」
長女が開催の音頭を上げたことにより、俺らは一斉にクラッカーを放った。
現在、俺は三姉妹と一緒に中村家のリビングにてクリパを楽しんでいた。
この場には雇い主や真由美さんの姿は無い。若者だけで楽しんで、という二人の気遣いである。
両親が居ないから、クリパから乱交パになりそうだが、今宵はその気持ちを堪えて、純粋にクリスマスを楽しもうと思う。
そのためには俺が賢者になる必要があって、クリパが始まるまで股間のクラッカーを何発かぶっ放しておいた。
故に今の和馬さんは賢者さんである。まだサンタさんじゃない。
「いや~、今年のクリパもまた四人でできて嬉しいよー」
「ですね。誰か一人でも欠けてたら素直に楽しめませんでしたよ」
「ふ、不謹慎なこと言わないでくれるかしら」
などと、葵さん、千沙、陽菜の順にそんな会話をしていた。
三人はこのクリパを楽しむためか、可愛らしいことにコスプレしていた。
「どうせなら、今年は四人で外食したかったわね。きっと街中のイルミネーションが素敵だったわよ」
と、ぼやく陽菜は、ミニスカサンタちゃん。露出した太ももがエロい。寒くないのだろうか。よかったら擦って温めてあげたい。
ああ、駄目じゃないか、和馬さん。賢者になった意味が無いだろ。
「嫌ですよ。大勢のカップルたちに囲まれるとか、地獄じゃないですか」
と、嫌がる顔つきを見せる千沙ちゃんは、チューブトップが特徴的なサンタコスだ。
言うまでもなく、露出した胸元や首筋、脇がとにかくエロい。
無我夢中になってペロペロしたい衝動に駆られる。絶対に溶けないキャンディーはここにあったのか。
ああ、もう駄目だ。こいつら、賢者の俺を獣に仕立て上げようと企んでやがる。
でも今夜の和馬さんはこの後、サンタさんにならないといけないのだ。
故に賢者であり続けなければならない。
「ふふ。でも綺麗なイルミネーションの中で写真撮りたかったかも」
と、微笑んだ葵さんは、サンタコスの二人と違ってトナカイ衣装を纏っている。
いや、もう巨乳のせいでトナカイじゃない。
茶色い牛だ、牛。ジャージー種。
三人の中でいっちばん地味な恰好を選んだつもりなのかわからんが、マジで牛。鏡見てないのかな。
ミルク出させてぇー。飲みてぇー。
「ではそろそろプレゼント交換タイムに入りますか!」
「「いえーい!!」」
え゛。
千沙の思わぬ一言に、俺は内心で間の抜けた声を漏らした。
ちょ、ま、は? プレゼントタイム?
今? ここで?
「兄さん? どうかしましたか?」
「い、いや、別に......」
「まさか持ってきてないとか......」
「和馬、それはさすがに無いわよ」
さすがに無いよ。プレゼントを二個も用意するなんて。
俺が三姉妹にプレゼントするのは、この後、三人が寝た後に、人知れずベッドの脇に置こうと思ってたんだもん。サプライズしたかったんだもん。
一応、持ってきてはいるけどさ......。
「「「じー」」」
「......。」
彼女たちが用意しておいて、彼氏は用意していない。
そんな事実だけは作らないよう、俺は致し方なく用意してきたプレゼントを差し出すのであった。
*****
『ガラガラガラガラ』
「ふぉっふぉっふぉ。サンタだよ~」
「あら、不法侵入者かしらぁ。あなたぁ~」
「ぶっ殺す、かかってこい! 不法侵入者めッ!」
おい、待て。こんな奇抜な恰好した不法侵入者が居るわけないだろ。
現在、深夜十二時手前、俺はサンタコスで中村家にやってきたのだが、玄関から入った途端に、まだ起きていた真由美さんと雇い主に待ち伏せされていた。
サンタさんなら煙突から入ってきてほしい、なんてことは現実でしちゃあいけない。
冗談じゃ済まされないからだ。
「あらあら。本当にサンタのコスプレしてやってきたのねぇ」
「高橋君、あれ程やめといた方が言ったのに......」
と、俺のこの姿を見てニヤニヤする真由美さんと、呆れ顔を見せる雇い主。
こんな夜更けに中村家ご夫妻が起きていたのは、言うまでもなく、事前に俺がこの恰好をして来ることを伝えていたからだ。
なのに、不法侵入者として出迎えてくるとか、冗談でも笑えないよ。
「三人は?」
「もう寝たわぁ。クリスマスパーティーでかなり燥いでたみたいねぇ。疲れてたわよぉ」
「若いね~」
という二人の言葉に苦笑しつつ、俺はさっそくお邪魔することにした。
三姉妹の部屋はこの家の二階だ。
これから一人ずつ、部屋に入ってサンタしちゃうのである。
“サンタしちゃう”って表現、なんかエロいな。
「ではいってきます」
「気を付けてねぇ。死んじゃ駄目よぉ」
「ちゃんと防弾チョッキ着てくんだよ」
あの、サンタするだけなんですけど。
死地に向かうわけじゃないんですけど。
俺が階段を上っていたら、中村家ご夫妻がリビングへ戻りながら会話していた内容を耳にする。
「あれ、泣き虫さん、プレゼント持ってきたのかしらぁ?」
「? あの大きな白い麻袋を持ってたじゃん」
「中にプレゼントが入ってなかったような......」
「まさか(笑)。プレゼント持ってないサンタなんて、ただの不法侵入者じゃないか」
「それもそうねぇ」
......。
俺はそんな二人の会話を聞き流しながら、手にしている麻袋を見つめた。
いや、袋の中に入れなきゃいけないのは夢とか希望だから。
プレゼントとは限らないから。
そんな言い訳を内心で繰り返す不法侵入者であった。
――――――――――――――――――
ども! おてんと です。
今回はクリスマス特別回です。
次回の更新は今夜になります。
クリスマスをお楽しみください。
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