第33話 ネトラレた和馬さんは快楽堕ちを目指す

 「さぁ、姉さん。兄さんを思う存分寝取ってください」


 「......。」


 妹のヤバい発言に、長女の葵さんはどう返答すればいいのか、わからないと言った様子である。


 現在、我が家へ帰ろうとした俺は、千沙にそれを止められて、ネトラれてくださいという常軌を逸したお願いの下、彼女とは別の女性と一緒にベッドの上にいた。


 俺はパンツ一丁で仰向けになり、葵さんはただただ居心地悪そうに座っているだけである。


 ......なんか事後っぽい光景だな、俺ら。


 相手はあの人畜無害で穏やかな性格の葵さん。


 絶対に寝取る側に向いてない人ランキングで一位の座にいそうなこの人が、俺を寝取るというのだ。


 千沙の正気の沙汰とは思えないお願いのせいで。


 決して、俺の意思などそこには混じってない。


 ないったらないのだ。


 「さぁ、葵さん! 自分は寝取られる準備万端です!」


 「寝取られる準備万端ってなにッ?!」


 おっと。いけない、いけない。


 寝取られる側は満更でもない顔をしてもいいが、自ら率先してネトラレに走っちゃ駄目なのだ。


 あくまでも「これは仕方のないことなんだ!」という意思を持たねばならない。


 だってそれがNTRだから。


 「こんなのおかしいよ! なんで私がカズ君をね、ね、寝取らなきゃいけないの?!」


 と、葵さんは“寝取られる”という単語が恥ずかしいのか、上手く言えない様子であった。顔を赤くして言うものだから、本当にこいつは今を生きるJDなのか疑いたくなる。


 単語は知ってるけど、口にするのは恥ずかしいらしい。


 駄目だな。恥ずかしがっちゃいけないのよ、こういうのは。


 僕のおち○ぽでおま○こしたーーーーーーーい!!


 これくらい大声で言えなきゃ。


 「まぁまぁ。いつもみたいに兄さんとエッチしてくれれば、それでいいので」


 「うっ。絶対おかしいよ。今日はカズ君の彼女当番でもないのに......」


 「あれ、でもさっき自室で一人エッチを――」


 「してない!!!」


 シてない、ということにしよう、千沙。股間事情にオープンな人もいれば、そうじゃない人もいるんだ。


 まぁ、葵さんの気持ちはわからないでもない。


 急にこんな夜更けに妹に連れられてこの場にやって来たら、自分の彼氏を寝取れとか言われるんだもん。そりゃあ困惑するわな。


 でも今日は彼女当番じゃないってだけで、葵さんも俺の彼女なんだから、実質問題無いはず。


 実質、な。


 「か、帰る!」


 「あ、ちょ! 姉さん!」


 葵さんは我慢の限界が来たのか、やっぱり倫理的におかしいとこの場を立ち去ろうとした。


 俺は葵さんがこの部屋の出入り口の戸に手を掛けたときに、口を開いた。


 「葵さんは、自分とエッチしたくないんですか」


 「っ?!」


 できれば言いたくなかった。


 だってこれはあくまで“寝取られ”の話だから。


 寝取られ側が、エッチしたい、なんて口にしてしまったら、もうその時点でNTRではなくなる。


 ただのヤリチンという事実だけが残ってしまう。まだ童貞だけど。


 寝取られ側が、エッチしたい、と言って良いのは、快楽堕ちしたときに限って許される発言なのである。


 「兄さん......」


 ほら見ろ。千沙まで、寝取られる側がソレを言ったら駄目でしょう、的な視線を俺に向けてきているではないか。


 千沙は嫌がる彼氏が寝取られるのを見て、興奮したいのだから、俺のあの発言は失言に他ならない。


 しかし、


 「べ、別にカズ君とエッチしたくないわけじゃ......」


 葵さんの足を止めるには十分な効果があった。


 俺は彼女がこちらを振り返ってないことを良いことに、ニヤリとゲスな笑みを浮かべる。


 依然として逆Tの字を体現する俺は、それをたらしめる股間をピコピコさせていた。


 エッチできるセンサーが反応しているのである。


 ちなみにだが、男の子は股間をピコピコさせることができる。


 申し訳ないけど、“ピコピコさせる”という単語は広辞苑で探しても出てこないと思う。上手い表現が見つからないのだ。


 そのがピコピコしてるってだけで、明確な動詞が無いからな。


 良かったら今度、パパにでも聞いてくれ。


 『股間をピコピコさせるってなーにー?』って。たぶん伝わってるけど、全力でとぼけてくると思う。んなもん、人様に教えることじゃねぇから。


 と、いかんいかん。話が脱線してしまった。


 「葵さんもムラムラしてたから、さっき自室で一人エッチを――」


 「だ、だからしてないって!」


 「はいはい。“寝取られ”なんて聞こえは悪いですが、そもそも自分たちは付き合っているんですし、何も問題無いでしょう?」


 「問題無くは無いと言うか......千沙が居るし」


 ほうほう。そういうことか。千沙が居ると恥ずかしいのね。


 俺は千沙に目配せすると、彼女もその意図を察したのか、どこかへ向かって歩き始めた。


 彼女の向かった先にあるのは、この部屋に元々あった桐箪笥である。


 俺はこの部屋を借りている身だが、その桐箪笥を使用したことはない。以前、興味本位で中を調べてみたが何も入ってなかった。


 「よいしょっと」


 そんな桐箪笥の上に、千沙はどこから取り出したのか、ビデオカメラを設置した。そのレンズはベッドの上に居る俺を捉えている。


 「準備OKです」


 「何がッ?!」


 千沙の言葉に、葵さんが勢いよくツッコんだ。


 葵さん、千沙はあなたに気を使って、自分の代わりにビデオカメラを置いたんですよ。


 寝取られた事実を何かコンテンツとして残し、被害者である交際相手がそれを視る。千沙はNTRを味わってみたいって言ってたしな。


 「何がって、これから兄さんが寝取られるのを撮るんですよ。それを後で私がそれを視るんです。醍醐味でしょう?」


 「今更だけど、NTRって絶対におかしいよ! 人としてどうかしてる!!」


 禿同。でもしょうがないじゃん。それで興奮しちゃうのが人間なんだから。


 俺はああだこうだとやかましい葵さんを落ち着かせるべく、彼女の肩に腕を回して、耳元で囁いた。


 「まぁまぁ、カメラなんて意識しなくていいですから。自分たちだけで楽しみましょ」


 「うっ。そ、そんなことできるわけ......」


 「寂しい夜は自分が慰めてあげますから」


 「っ?!」


 俺はそう言って、そのまま葵さんをベッドへ連れ込んだ。


 なんやかんや言って彼女も満更でもないのか、自ら行動しなくても、抵抗はしてこなかった。


 合意と受け取ろう。


 俺らがベッドに並んで座ると、千沙が「では私は部屋に戻ります」と言って、この部屋を後にした。


 「そういえば、夕食にいただいたハンバーグ、すごく美味しかったです。ナツメグ入れてたんですよね?」


 「......。」


 まずは世間話から。


 俺は依然として葵さんの肩に腕を回しながら、彼女に密着しつつ、そんな会話から始めた。


 葵さんは普段より緊張している様子だ。


 というのも、それは言うまでもなく、眼前のビデオカメラを意識してしまっているからだろう。


 ったく。カメラは気にしなくていいからって言ったのに。


 「そうだ。今度、美味しく作れるコツを教えてくださいよ。一緒にハンバーグ作りましょ」


 「っ?!」


 俺はそう誘うのと同時に、葵さんの肩に回した腕で、そのまま彼女の乳房を揉んだ。


 もみもみ。手ごねハンバーグの予行練習である。


 さすがに手を出されたら黙っていられないのか、葵さんが俺の腕を掴んできた。


 「ちょ、ちょっと」


 「あ、風呂上がりの良い香りがしますね」


 「あッ」


 俺はそう言って、葵さんの項部分に顔を近づけた。


 くんかくんかと嗅いでいると、彼女がピクッと身を振るわせたことに気づく。同時に漏れる色っぽい声が、俺を興奮させてくる。


 「葵さん......シましょ」


 「で、でも」


 ちょっと焦れったかったので、俺は彼女の唇を強引に奪った。


 俺の強制的な行為に、彼女は一瞬目を見開くも、すぐにとろけた表情になって俺を見つめてくる。


 「今は自分たちしかこの部屋に居ません。ですから......」


 「カズく、ん......」


 そこからは時間を忘れるほど、俺らは肉欲を満たすことに必死だった。



*****



 「ほら、自分を寝取るんでしょう? もうちょっと真面目にしゃぶってください」


 「ふぁ、ふぁい」


 「あーあ。葵さんの涎でち○ぽがベタベタじゃないですか。仕方ありません、潤滑油として、その胸でしごいてください」


 「うん。......こうかな? 気持ち良い?」


 「最高です。射精すので、そのまま受け止めてください」


 「......ん」



*****



 「今度は自分が気持ちよくしますね。......って」


 「っ?! ま、待ってッ。そこはダメ――んッ」


 「ココ、すごいことになってるじゃないですか。期待していましたか?」


 「あッ。そ、そんなこと......」


 「正直に言ってくれたら、好きなだけイかせてあげるんですが......」


 「......ました」


 「はい? よく聞こえませんでした」


 「し、してました、期待」


 「よくできました。ご褒美に気絶するまで気持ち良くしてあげますね」


 「あんッ。い、いきなりそんな――イッ」



******



 「カズくん、好き、好き、大好きッ。あッ、イク」


 「はは。やっと素直になってくれましたか。......自分のことが好きなら言うこと聞いてくれますよね?」


 「ま、待って今イッたばかり――」


 「聞いてくれますよね?」


 「ぎ、ぎぐ、がら......」


 「では、あそこにあるビデオカメラに向かって、誰のナニが大好きなのか、絶頂しながら言ってみてください」


 「か、カズ君の太い指でイジられたり、おち○ぽで擦られるのが大好――ぎぃ!」


 この後もめちゃくちゃシました。



*****

〜その後〜

*****



 『ピッ――か、カズ君の太い指でイジられたり、おち○ぽで擦られるのが大好――ぎぃ!』


 「兄さん、この動画について聞きたいことがあるんですが」


 「......はい、なんでしょう」


 「私、兄さんが寝取られたところを見たいって言いましたよね」


 「......はい」


 「これ、どういう立ち位置でヤりました?」


 「......自分でもわかんないっす」


 「寝取られる側が寝取る側を快楽堕ちさせてどうするんですか」


 「......すみません」


 なぜか妹に謝る兄であった。

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