第51話 着る勇気は確信を得てから?

 「な、なんて下着の数なんだ......。ゲームマスター、小一時間ほど時間をくれないだろうか」


 『駄目だ。デスゲーム中にオ〇ニーしようとするんじゃない』


 バレたか。まぁ、股間にはビリビリマシンが付いているから無理だけど。


 現在、俺はデスゲームのゲームマスターこと千沙ちゃんによって、中村家が所有するプレハブ小屋に閉じ込められているのだが、それが気にならないくらい、眼前の光景に目を奪われてしまっている。


 女性の下着がこれでもかというくらい、段ボールの中に詰め込まれているのだ。


 男の夢がこの箱に詰め込まれているのだ。


 興奮しないわけがない。


 「うっわ。この下着、すけすけだ」


 しかもかなりデザインがアレなやつ。


 学生が普段から制服の中にこんなもの忍ばせてたら、絶対誘ってるだろって思われちゃうようなやつだ。


 男子生徒の心の風紀を乱すやつだ。


 『あの、興奮してるとこ悪いんですけど、真面目に選んでくださいね?』


 俺の興奮に、思わずゲームマスターが素に戻っちゃったようだ。


 「しかしこの下着の山......いったいどうしたっていうんだ」


 『ふははは! 気になるかね? それはだな、事前に姉さんたち―――じゃなくて、アオイ君とヒナ君、そしてチサ君の箪笥から搔き集めてきたのだよ!!』


 な、なんだってー?!


 じゃあ、これは普段からあの三姉妹が着用しているものだったのか!!


 確かに段ボールの中に入っている下着は、大・中・小とそれぞれのサイズの下着がある。


 大・中・小となッ!!(二回目)


 言うまでもなく、“大”は葵さんので、“中”は千沙ちゃんの。んで、“小”は―――言っちゃうと本人が可哀想だから言わないけど!!


 大・中・小となぁぁぁあああぁああ!!(三回目)


 「お、おま、そんなことして大丈夫なのか......」


 『安心したまえ、バレないように拝借してきた』


 「盗んできたの間違いだろ......」


 こんなに盗んできたらバレるんじゃないのか?


 と、思った俺だが、その心配は俺の疑問によって払拭される。


 「あれ、三人ともこんな下着持っていたの?」


 葵さんや陽菜のことを浮かべて言ったのだが、千沙に対してもだ。


 そう俺が不思議に思ってしまうほど、この下着を身に着けている彼女たちを見たことが無い。


 今まで何度も一緒に寝てきたのに、だ(童貞)。


 『気づいたか。実はその下着の数々は......』


 そう言って、ゲームマスターが三姉妹の気持ちを代弁するかのように、声を大にして言った。


 『見せるのも恥ずかしくて着れなかった下着だッ!!』


 な、なんだっとぅえぇぇぇええぇえ?!


 『買ったはいいものの、彼氏に見せるのが恥ずかしくて、箪笥の肥やしにしてしまった下着の数々である......』


 「な、なんて勿体ない......」


 『でしょう?! だからこの機に、兄さんに直接選んでもらおうって思ったんです! その方が間違いないから!』


 千沙ちゃん、素に戻ってるよ。ゲームマスターの低音ボイスで、そんな話し方しないで。


 しかしそうか、彼女たちはこんなどエロい下着を買っていたのか。


 ―――勇気が無くて着れなかった―――


 くそ。なんて馬鹿な奴らなんだ。息子は大いに喜ぶというのに!!


 今度、ち○ぽでビンタしてやる!


 『ごっほん! とにかく、数は相当あるので、一人につき一着だけ選べ。それをもってこのデスゲームをクリアとする』


 下着を好きに選ぶだけでいいデスゲームとか、もはや神ゲーだろ。


 俺は、俺が選んだ下着を彼女たちがいつか着てくれることを夢見て、一着ずつ選んだ。


 「まずは......陽菜はこれだな」


 俺が選んだのはガーターベルト付きのランジェリーだ。


 桃色を基調としたそれは、太ももまでの真っ白なストッキングとワンセットで魅力を解き放つ一品である。


 あいつ、ロリロリしてるくせに、太ももとか絶妙なムチムチ感があるんだよな。ストッキングを穿かせて、それを下着と一緒に楽しむにはガーターベルトが最適だろう。


 ああ、これを発明した人を崇拝したい。


 『ほほう。理由を聞かせてくれ』


 と、ゲームマスターが仮面越しに顎に手を当てて聞いてきたので、俺は熱弁することにした。


 終盤、ゲームマスターが引いてたけど、プレイヤーの俺はかまわなかった。


 「で、葵さんはこれだな」


 次に俺が手にしたのは、紺色を基調としたスケスケのブラジャーとTバックだ。


 言うまでもなく、エロに全振りなステータスである。


 葵さんは胸が大きくて魅力的な女性だが、実は尻の形も最高なのだ。


 “――Tバックを穿かせてホットアイマスクしたい――かずま”


 川柳でもなんでもないけど、思うが儘を詩にしたらこうなるに違いない。


 『やはりタカハシ君は大きい尻が好きなのか』


 「ああ、もちろんだ。が、ゲームマスターのようなバランスの取れた尻も最高に良い」


 『ゲームマスター相手にセクハラしないでください』


 デスゲームのマスターにセクハラとか、金輪際あり得ないだろうな。


 その正体が千沙だからセクハラできるわけだけど。


 「で、最後に......千沙のはこれだ」


 『おおー!!』


 デスゲームのマスターが歓喜に満ち溢れた声を漏らした。


 どうやら俺がこれを選ぶことに納得どころか、確信を持っていたらしい。


 持っていたなら着けてくれよ、と言いたいが、我慢だ、我慢。


 「正直、これだけ下着があった中でも、俺は迷うことなくこれを選ぶね」


 そう言って、俺が手にしたのは黒を基調としたランジェリーだ。


 ただ陽菜や葵さんのを選んだときのような、身体のラインを強調するものではない。少しふわっとした印象のある代物である。


 特徴的なのは胸元にあいた猫の頭部を模した穴だ。


 俗に言う、猫ランジェリー。


 『選んだ理由は?!!』


 「お、落ち着けってゲームマスター」


 ゲームマスターが興奮気味に身を乗り出して聞いてくるが、その、低音ボイスでこっちには聞こえてくるんだから、少し控えてほしい。


 何度も言うが、正体が千沙だってわかっているから許せるけど、もしも中身がおっさんとかだったら、俺は吐き気を催してもおかしくないんだぞ。


 「まずな、猫ランジェリーを初めて拝むなら、その猫のマークである穴を崩しちゃいけないと思うんだよ」


 例えば、陽菜がそのブラジャーを着用したとしよう。


 きっと胸元の猫は彼女の貧相な胸に切なさを覚えて泣くに違いない。


 だって胸部と猫の顔が近すぎて、生まれた隙間からポロリしちゃう可能性が出てくるから。


 猫の顔に突如乳首が発生したら、猫のデキモノと錯覚してしまうかもしれない。


 きっと陽菜にもその魅力を引き出す何かはあるだろうが、初めて拝む猫ランジェリーは、均整の取れたおっぱいが絶対に良い。


 俺のその主張に、ゲームマスターが疑問を口にする。


 『ではアオイ君のように大きければ、ポロリすることもないのでは?』


 当然の疑問だ。


 が、巨乳を包み込む猫ランジェリーを想像してほしい。


 ............どうだろう。果たしてその猫は幸せだろうか?


 俺はそう思わない。


 巨乳によって、左右へ頬を引っ張られる猫が可哀想ではないか。


 動物愛護団体だって黙ってない。


 無論、陽菜同様、いざ葵さんに着用させてみれば、発情しきった猫のようにどエロいメス臭を撒き散らすに違いないだろうが、最初はやっぱりちゃんとした猫を拝みたいのだ。


 その点、千沙は非常にバランスの取れた肉付きをしているので、きっと猫を幸せにしてくれるだろう。


 “――見たいのは猫の顔か、谷間か、それとも欲望か――かずま”


 『ふふ。私、今度、勇気を出して、その下着を着けますね!』


 「ああ、俺はち〇こ出して待ってるよ」

 

 と、デスゲームなのに、全然デスゲームをしていない俺らは、最終ゲームへと進めるのであった。

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