第50話 全力で息子を助けろ!

 「ぬおぉぉおおい!! お前、俺の息子になんてもん付けとんじゃぁぁあああ!!」


 『落ち着け。死にはしない。死ぬくらい痛いだけだ』


 「ざけんな!! 痛いんじゃねぇか!!」


 『デスゲームだからな』


 和馬さんは先程までの大根演技が嘘のように、顔を絶望色に染めた。


 現在、俺は知らぬ間に、ゲームマスターこと千沙によって、この手狭な部屋へ監禁されていた。


 上の首にはお飾りの小型爆弾付き首輪を付けて。


 下の首には電気が流れるビリビリマシンを付けて。


 前者が偽物だったらこのデスゲームを少しだけ楽しめたが、股間にとんでもない物を取り付けられた事実を知った今となっては、楽しむ要素皆無だ。


 どれだけの電圧が流れるかわからないが、絶対痛いに違いない。


 「おま、マジで洒落にならねぇぞ、これ......」


 『ちなみにだが、最低限電気が流れることを確認しただけだから、電圧とか知らない』


 うおぉい! 和馬さんの和馬さんが死んじゃうかもしれないじゃん!!


 『安心しろ。無理に外したり、こちらの機嫌を損なわなければ、君の股間は機能を失わないだろう』


 なんてこった。股間にデスゲームを課せられる日が来るなんて想像もしてなかったぞ。


 『ふははは! やる気になってくれたかね? ではさっそく最初のゲームを――』


 『千沙ぁ。まだ下りて来ないのかしらぁー』


 『後で行きますからッ!!』


 あっちもあっちで酷いな。グダグダじゃないか。


 ゲームマスターが咳払いをしてから話の続きをする。


 『既に試したかもしれないが、その部屋から外に出るにはドアの鍵を開けるしかない』


 「鍵? てか、この部屋、中村家にあったっけ?」


 『あ、そこは元々、肥料とか農薬を保管してたプレハブ小屋ですよ。ちょうど買い溜め時でスカスカだったので、私が綺麗にしてデスゲーム部屋にしました』


 などと、素に戻って千沙ちゃんが自慢げに語ってくれた。


 なるほど、通りで手狭なわけだ。


 そういえば、俺も何度かこの小屋に来たことがあったな。たしかそのときは近くにトラックを停めて、その荷台へここにあった肥料を運んでいた。


 よくもまぁそれをここまで改造したもんだ。


 『ではゲームの説明に入ろう。タカハシ君、君には大切な人が居るかね?』


 「え、あ、うん。彼女たちとか」


 『恋人とこれから先、ずっと一緒にいたいと思うか?』


 「勿論」


 『ならば必要なことがある。それは――“衣食住”の確保及び質を向上させること!!』


 と、ゲームマスターは低音ボイスで言いながら、両手を頭上に大きく広げた。


 とてもじゃないが、言葉の節々がデスゲームの運営側が言っていいセリフには思えない。


 『交際相手が三人も居る君は、今後並々ならぬ努力や苦労が強いられるだろう』


 「は、はぁ」


 『故に、それを乗り越えられる力が必要だ。その力を今から見せてもらおう』


 「というと?」


 『まずは“衣食住”の“食”だ。近くにキッチンを模した台とクーラーボックスがあるだろう?』


 そう言われて辺りを見渡すと、キッチンっぽい長方形の台があった。


 このプレハブ小屋は電気は通っているが、水は通ってないので、その台の上にはキャンプなんかで使われる携帯用のポリタンクがあり、中には大量の水が入っていた。


 また台の下には食器や調理器具などがある。


 近くにはクーラーボックスが置かれており、中を覗けば、食材が色々と入っていた。


 「料理をしろと?」


 『正解だ。最高の“食”を彼女たちに送れるよう、愛情を込めて料理してくれたまえ。後でゲームマスターが食べて評価する』


 もうゲームマスター名乗るのやめた方がいいよ。聞いてるこっちが居た堪れない。


 なんで彼女たちに向けて、思いを込めて作った料理をゲームマスターに食わせなきゃならねぇんだ。


 そりゃあこのゲームマスターは千沙だけど。


 もうむちゃくちゃだな。


 「はぁ。わかったよ。作れるものは食材的に限られてるが......何が食べたい?」


 『オムライス!』


 「その、なんだ。低音ボイスってこと自覚して喋ってくれ。可愛いのか、可愛くないのか、わからなくて麻痺しちゃいそうだ」


 ということで、俺は愛情を込めて料理を作ることにした。


 特にこれと言って、こだわった点もないオムライスが出来上がったところで、ゲームマスターを呼んだ。


 「できたぞ~」


 『わーい!』


 「だからその声ではしゃぐなって。鳥肌立つわ」


 出来上がったはいいが、俺はこのオムライスをどうゲームマスターこと千沙に渡せばいいのだろうか。


 そんなことを考えていたら、しばらくしてドアの方からなにやら物音がした。


 見ると、ドアの足元付近の小さな扉が開いたことに気づく。犬用の扉みたいなサイズの小窓だ。


 そんなところから白くて細い腕が入ってきて、その手のひらでこちらを扇ぐ。


 「寄越せ」


 「......。」


 まさかのゲームマスター本人が料理を取りに来るという虚しさ。


 下っ端とかいないもんな。他のプレイヤーは疎か、運営側だってゲームマスター一人しかいないもん。


 そりゃあ取りに来ると言ったら本人だわな。


 つか、


 「......。」


 「? 何をしている? オムライスが冷めちゃうだろ」

 

 下の小さな扉から腕を差し出してきているけど、お前、危機感無さすぎだろ。


 千沙の腕だからいいけど、全く別人の腕だったらへし折ってたわ。


 俺はその腕にオムライスを落とさないようにして渡した。


 「あ、ケチャップで“いもうと♡”って書いてる!! ありがたく頂こう!」


 「......おう」


 一応、モニター越しでのゲームマスターのやり取りは、先方が自身の女声を機械を使って低音ボイスだったから、辛うじてデスゲーム感あったけど、扉の向こうに居るのは、その声音からして完全に千沙ちゃんのだ。


 千沙ちゃん、本当にやる気あるのかな。


 こっちが馬鹿らしくなってきたよ......。


 「あ、それとこれ、私の昼食です」


 ほら、言ってる傍から口調を普段のものに戻して言ってきやがった。


 足元の小さな扉から差し出されたのは焼きそばだ。


 「え、どうしたの、これ」


 「さっきお母さんが私の部屋に持ってきてくれました。いつまで経っても、私が食卓の場に現れなかったので、運んできてくれたんです」


 真由美さん、甘やかしすぎですよ......。


 「で、私はオムライスを食べますから、その焼きそばは兄さんに差し上げます」


 「そ、そうか」


 「では」


 そう言って、千沙ちゃんはオムライスと焼きそばを交換して、この場を後にした。


 俺はゲームマスターから受け取った焼きそばを食べることにした。


 しばらくしてからモニターが勝手に点いたので、近くで寝っ転がっていた俺はそちらを見た。


 『ご馳走様でした』


 「お、おう」


 覆面野郎が丁寧に両手を合わせて、そんな言葉を述べた。


 ゲームマスターはお行儀が良いらしい。


 千沙ちゃんは家事の“か”の字もまともにできない子だが、こういったお行儀の良さはやはり育ちの良さが出ていると思われる。


 ただデスゲームのゲームマスターとしてはどうかと思うが。


 『さて、次は“衣食住”の“衣”だ!』


 ゲームマスターが切り替えて次のゲームの説明に入った。


 ふむ、次は“衣食住”の“衣”か。さっきは“食”だったから、なんで“衣”を飛ばしたのかわからなかったが、次やるのね。


 俺がそんなことを思っていると、ゲームマスターが説明の続きを話した。


 『言うまでもないが、“衣”は“衣服を確保すること”である。季節にあった服がちゃんと着れるか、豊かさを計ることだ』


 「経済面で、彼女たちに適した服装を着させてあげられるかってこと?」


 『無論、寒さや暑さをしのぐという面で言えば、それも必要な要素だ。が、今回はその意味合いが違う』


 「というと?」


 『部屋の隅にいくつか段ボールがあるだろう? 中身を見てみろ』


 という指示に従い、俺は部屋の隅にあった段ボールの下へ行き、その中身を見た。


 そして驚愕する。


 「こ、これはッ!!」


 なにせ段ボールの中には、女性ものの下着が山ほど詰め込まれていたのだから。


 『ふふ。その中から彼女たちに似合う下着を見繕うのだ!!』


 で、デスゲームなのか、これぇぇぇええぇええ!!

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