第53話 センスは良い悪いじゃなくて共感されるかどうか
............ども、おてんと です。
................................お久しぶりです。
ごめんなさい。
―――――――――――――
「じゃあ指示した通り、三人は行動を開始してくれ。何かあったらスマホで連絡を取り合おう」
「はい!」
「わかりました」
「ういっす~」
俺の言葉に、ヨシヨシ、芽衣ちゃん、チャラ谷が返事をしてくれた。
天気は晴れ。最近、雨続きで不安だったが、球技大会の本日は天候に恵まれた。
良かった。雨天だと中止にはならないが、やれる種目も変わってきて、かなり土壇場なプログラムの変更が加えられてしまう。
一応、雨天時のプログラムを用意していたが、この出番が無いことが望ましい。
球技大会が始まる少し前、俺は生徒会メンバーを生徒会室に集めて、今日の予定を軽く話し合っていた。
忙しくなると思うが、どうか皆には頑張ってもらいたい。
「じゃあ、佳奈ちゃん。俺は放送室行ってくるから」
「下の名前で呼ばないでください。......わかりました。私は職員室に行って、各競技担当の先生たちに、そろそろ開催する旨を伝えてきます」
「あれ、もう現場に向かってくれているんじゃなかったっけ?」
「先生方全員が協力的とは限りませんから。おそらく、まだ腰の重たい先生もいるはずです」
そっちも大変そうだな。
俺は苦笑しつつ、生徒会室を後にした。
向かう先は放送室。放送委員会の人に協力してもらって、本日の開会式の挨拶を生徒会長である俺が校内放送するのだ。
ああ、校内放送って初めてだな。緊張する。
「あ、生徒会長が来た」
放送室に入ると、委員会の人たちとご対面した。
中に居たのは二名の男子生徒。放送委員会の委員長と補佐役である当番の委員だ。前者は事前に打ち合わせしてたから面識はあるが、後者は知らない。まず同級生ではないが、一年生か二年生かわからない。
「おはよ。今日はよろしくね」
俺が笑顔で挨拶すると、後輩男子生徒が委員長に軽く肘で小突いて囁く。
「生徒会長、思ったより普通なんですけど」
普通だよ。なんか文句あっか、てめぇ。
後輩を無視して、委員長は苦笑しながら挨拶を返してくれた。
「こっちはいつでも準備できている。後は生徒会長が開会式の挨拶を校内に向けて放送すれば、球技大会は始められるぞ」
「了解」
俺はポケットから念のためにとメモしてきた原稿に軽く目を通した。そしてこの部屋にある機材の下へ向かう。
そこにはマイクやら様々なスイッチやらがあって、俺はさっそくそこでスイッチをオンにして原稿の内容を読み上げた。
あまり慣れていないので緊張したが、全て読み終えてからスイッチを切ると、後ろから拍手の音が聞こえてきた。
「おお~。良い感じにスピーチできてたな」
「そりゃあどうも」
「俺、てっきり校内放送で下ネタくらい言うのかと思ってました」
んな範囲攻撃するわけねぇーだろ。
俺はツッコむのが馬鹿らしくなったので、適当に挨拶してからこの場を後にした。
その後、俺は一旦自分の教室に戻った。理由はクラスTシャツに着替えるため。
こういった学校行事では、クラス一丸となって取り組むため、まずは形から、ということで各々のクラスでオリジナルのTシャツを発注している。
言うまでもなく、そのデザインはクラスによって様々だ。
教室へ向かうと、クラスメイトのほとんどが着替えを済ませていた。
「お、生徒会長、さっきのスピーチ良かったぞ~。真面目すぎて内容は覚えてないけど」
すると俺と目が合った裕二が馬鹿にするような笑みを浮かべながら、そんなことを言ってきた。
彼もクラスTシャツ姿で、そのクラスTシャツとやらは白を基調としていて、速乾性のあるポリエステル素材だ。
もちろんただの白シャツじゃない。真っ白な生地にピンクのハートが点々とプリントされているデザインである。
正直、このデザインを選んだ奴の気が知れない。
最終的にはこのクラスの多数決で決まったのだが、俺のセンスはまだ時代に追いついていないようだ。
「うっせ。生徒会長だから当たり前だろ」
「お前も着替えるん?」
「ああ、すっごいダサいけど、クラスメイトとして着なくちゃな」
「生徒会長とは思えない発言だな」
だってダサいもん着たくないよ。
ちなみにこのクラスTシャツ、発注時に背中側に任意の文字をプリントすることができる代物である。人によっては座右の銘をプリントする人も居るのだ。
ある人はそのプリントする文字を、“一期一会♡”、“百戦錬磨!”とか在り来りなワードを選んだり、ある人は“鍋はキムチ派”、“数学この世から消えろ”とかよくわからんワードを選んでいる。
ほんと自由なんだ。
で、文字制限がある中、裕二くんが己の背中に刻んだ文字は、
「“ロウソクは赤一択”......」
「? ああ、この文字のことか。センスあんだろ」
理解に苦しむ内容だな。
どうやら西園寺前生徒会長がいなくなっても、ドMな彼は忠誠心を損なう気は無いらしい。
ロウソクの色で何か違ってくるのだろうか。疑問だが、その辺のことに関しては触れないでおこう。じゃないと友達という関係を後悔しそうだ。
俺は自分の席に行き、バッグから自身のオリジナルTシャツを取り出した。
「更衣室行って着替えてくるか」
「ここで着替えりゃいいじゃん。誰も見てねーよ、野郎の上半身なんてよ」
俺の呟きに、裕二がスマホをいじりながら言ってくる。
もうほとんどのクラスメイトが着替え終わっているここで?
まぁ、たしかに男子更衣室ってここから少し離れているんだよな。
俺の気にしすぎってことで、パパッとここで着替えちゃうか。この後忙しいし。
俺がシャツのボタンを外して、インナーシャツを脱いでから、クラスTシャツに着替えようと袖を通すと、少しだけ着るのに苦労した。
「く、ぬ! 着に、くい......」
「お前のだけ発注ミスって、ワンサイズ小さいもんな」
そう、俺のクラスTシャツだけ業者さんの手違いで、LサイズじゃなくてMサイズなのだ。
業者さんに電話してもっかい作り直してもらう期間的な余裕もなかったので、面倒だからこのまま着ることにした。
おかげでピチピチだ。
見た目的にはアレだが、そこまで苦しくないのは、伸縮性のある素材のおかげだな。
「お前、ほんっと筋肉ヤバいな。帰宅部がしていい身体じゃねーよ」
するとスマホ片手に、裕二が俺にそんなことを言ってきた。
そ、そうか? 部活やっている生徒と大して変わらない気が......いや、まぁ、日頃力仕事や筋トレばっかしてるからな。
「ねぇ、見て」
「うわ、高橋君ムキムキじゃん」
「腹筋すご......」
「ちょっと触ってみたいかも」
「肩に小っちゃい重機乗せてるのかな」
俺が考え事していると、なにやら周囲から視線が集まっているのを感じた。
見回したら、何人かの女子と目が合ったが、それ以外の生徒はサッと明後日の方向に目を背けていた。
なんて言ってたのかよく聞き取れなかったけど、俺のこの見た目だ。サイズ合わなさすぎてキモがられているのかもしれない。
恥ずかしくなった俺は、逃げるようにして教室を後にした。
*****
~その後~
*****
「おい、高橋のクラT見たか?」
「見た見た。あのピチピチのやつでしょ」
「筋肉すごかったねー」
「それもあるけど、後ろのあの文字......」
「あ、私も見た。“必ず卒業する”って書いてあったね」
「ヤバくない? そんなに問題起こしてた人だっけ?」
「いや、聞いたことないけど、噂のヤリチンクソクズ野郎だ。卒業すら危ういんだろ」
「マジか......。なんかあいつが不良に見えてきた」
「私も」
「わかる~」
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