第45話 保健室の先生を暇そうと決めつけるな!
「田所先生が助っ人?!」
「おう、面倒くせぇが、去年も強制的に呼ばれたからな。皆のアイドル、田所ちゃんは今年もお呼ばれしたら、渋々頑張るつもりだ」
“皆のアイドル”って謳うなら、“渋々頑張る”とか言うな。
現在、俺ら生徒会役員は、生徒会室にて球技大会について会議をしていたのだが、そこに遅れてやってきた顧問の保健室の先生の登場に注目してしまった。
田所 真里。その美貌からでは想像がつかない独身だ。年齢的にも切羽詰まっているので、決して本人に対して、“行き遅れ”とは言っちゃいけない。
言ったら保健室送りを通り越して病院送りだ。
保健室の先生無いのに、マッチポンプみたいなことするだろうから、決して言っちゃ駄目だ。
でも本当に容姿は“大人な女性”って感じで、男子生徒、男性職員からは人気がある。身体のラインが顕著に出る縦セタなんか着るから、その人気は一入だ。
が、それでも彼女は独身。
謎だ。
でも悲しきかな。三人も彼女居るのに、童貞という事実がこびり付いている俺の存在が、その謎な現象に理解を示してくれている。
まぁ、縦セタ先生は最近、俺んとこの担任教師と良い感じの関係になっているから、彼女が未だ独身というのは時間の問題だろう。
「マジでっかくないっすかw」
「デカいの知ってるから。黙れって」
「たっきゃしさんも揉みたくないっすかw」
「揉みたいのわかるから。黙れって」
「俺っち、生徒会に入ればワンチャンあるかなって思ってるっすw」
「ワンチャンあると思うから。黙れって」
俺は横で、小声でそんなことを話してくるチャラ谷を必死に黙らせた。
こんな会話が、周りの連中に聞かれてみろ。ヤリチンクソクズ野郎に磨きがかかってしまうだろ。勘弁してくれよ。
「んで、高橋、この前渡された資料、概ね去年通りだから指摘することもないが、大丈夫か? これ」
すると、縦セタ先生が手にしている書類をパタパタ扇ぎながら、俺にそんなことを聞いてきた。
対して、俺の頭上に疑問符が浮かぶ。
「え、何がですか?」
「何って、今年はお前が生徒会長だろ」
「そうですけど」
田所先生の言っている意図がいまいち理解できなかった俺は、首を傾げた。
それを見て、どこか呆れた様子で彼女は言う。
「去年、ほぼ時間に狂いなく、無事に球技大会を完遂できたのは、偏に西園寺 美咲の存在が大きかったからだ」
その言葉に、副会長が歯噛みしたような苦い顔つきになったのを目にするが、俺はそれを他所に答えた。
ちょっとデリカシーない発言だったけど、縦セタ先生は敢えて言ったんだろう。
今年は去年とは訳が違う。
同じようにやろうとしたら、当事者の違いで上手くいかないかもしれない。
それを遠回しだが、俺に確認しているんだ。
だってこの行事は全校生徒に関わることだから。
とどの詰まり、縦セタ先生は「責任持って行動できるのか?」って言いたいのだろう。
だから答えた。
「はは、たぶん大丈夫ですよ」
「いや、大丈夫って言われてもなぁ」
「ここには生徒会三年間やってきたベテランの佳奈ちゃんもいるんですよ」
「でも......」
「それに、自分はあの西園寺さんが選んだ男です。もちろん、一人でなんでもやろうとはしません。仲間を頼ります」
俺はそう言って、役員たちを見やった。
そして頭を深々と下げる。
「だから頼む。忙しいばかりじゃない。当日は皆にも楽しんでもらうよう頑張るつもりだ。......俺に力を貸してくれ」
全ては、俺の“ヤリチンクソクズ野郎”という汚名を払拭するために。
「会長......。僕、頑張ります!」
「ま、まぁ、面倒くさいですけど、手伝ってあげます」
「当日たのすぃみ〜(笑)」
後輩三人は快く返事をしてくれた。
副会長はというと、
「し、仕事ですから。当然協力しますよ」
彼女も快く応じてくれた。
少し照れたように紅潮していたが、そこは素直じゃない副会長の性格だろう。とりあえず、感謝しなければ。
しかし、まぁなんだ、俺、頭下げるの、まるで抵抗感無かったな。
この頭、どうやら軽さには定評があるらしい。
なんでかと記憶を辿れば、そういえばしょっちゅう交際相手たちに対して下げていたことを思い出す。
ふむ、通りで軽い訳だ。
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