第44話 伝統文化はどこだって異常そのもの
「“VS生徒会”......まぁ、その名の通り、生徒会役員五人とある種目で競技するものだ」
現在、俺は生徒会役員と今月末に行われる球技大会について話し合っていた。
今はチャラ谷に質問された“VS生徒会”について説明に入ったところである。
「“ある種目”ってなんすか?」
チャラ谷の問いに答えたのは、ヨシヨシこと吉田 好太君だ。
「去年はバレーボールだったかな? その種目で優勝したチームが、最後に生徒会チームと対決するんだ。エキシビジョンマッチみたいなイメージだよ」
「へ〜」
「アレってなんでバレーボールだったんですか?」
すると今度は芽衣ちゃんから質問が上がったので、答えることにする。
「いや、聞く限り、バレーボールじゃなくてもいいらしい。ただ役員の人数と一定数得点を先取すれば勝敗が決まる競技だから、バレーボールになったみたい」
「補足すると、経験者の有無も関係してます」
「「「経験者の有無?」」」
という後輩役員三人の質問に、副会長は続けて言った。
「この球技大会の“VS生徒会”って伝統文化みたいなものなんです。その伝統文化は人気が無いといけません」
「え、人気が無いと駄目なんですか?」
「駄目というか、最後には大いに盛り上がって閉会しないと、球技大会の印象がイマイチなんですよ。で、人気を出すには早い話、盛り上がらないといけません」
「ああ、なるほど。それで経験者の有無ですか」
「はい。全学年を通して優勝したチームと生徒会が対戦するんです。ただ生徒会役員だからって理由でチームを作っても負け試合でしょう?」
「はは〜。だから少しでも良い戦いになるよう、なるたけ経験者の有無も考慮した競技を“VS生徒会”でやるんすか〜」
そういうことである。
まぁ、経験者の有無以前に、その競技をできるかどうかっていうルール的な選択が大前提なんだけど。
去年、一昨年はそれらの条件に恵まれていて、なんと副会長が女子バレーボール経験者なのだ。
と言っても、本人曰く、中学三年間しかやったことなかったらしいけど。
ちなみに去年は“VS生徒会”の結果は、生徒会の勝ちだった。経験者の副会長がいれば勝てるのかって思ったが、あの完璧超人の美咲さんも居るんだ。勝ってもおかしくない。
「てか、副会長、大人しそうに見えて経験者なんすか〜。意外っすねw」
「こら、チャラ谷、卑猥な発言は控えろ。誰も副会長が未経験者とは言っていないだろ」
「殺しますよ」
「さーせ〜ん(笑)」
ざーめ〜ん(笑)。
無論、今の言葉はスポーツ経験者の意味ではない。ベッドの上の事情についてである。
てかチャラ男、お前、意外とセクハラのセンスあるな。
仲良くなれそう。
「そう言えば、三人は何かスポーツやってた?」
俺は後輩役員にそんな質問をした。
三人は順番に答えてくれた。
「ぼ、僕は中学の頃から陸上部ですので......球技はさっぱりです」
「私はダンスを少々」
「オレっちはビーチバレーとサーフィンっすね」
なるほど、チャラ谷以外、球技は得意じゃなさそうだな。
ってか、芽衣ちゃんがダンスって......格好いいな。なんかそう言われると、ダンサーっぽく見えてきた。
俺も実はダンサーなんだぜ? ベッドの上では激しく一定の運動しかしないが、腰振りには自信がある。
ああ、俺、童貞だったからダンサーでもなんでもなかったわ......。
しかしこんなこと言ったら、彼女のプライドを刺激しそうなので、セクハラするのをやめた。
セクハラってのは、加減が大切なのよ。
「オレっちもダンスしてますよ」
「え、ほんと?」
お、チャラ谷、お前もダンスやってるのか。
まぁ、見た目からしてやってそうなイメージあるわ。
後輩もダンスやっていることに興味があったのか、芽衣ちゃんがちょっと上擦った声で聞き返してる。
「ベッドの上で〜w」
「「「「......。」」」」
ちょ、おま、ざけんな!! 俺がしなかったセクハラすんなよ!!
ああ、これだから素人は匙加減がわかってないから困る。
あとで説教だな。
セクハラ上級者として教えてやらねば。
「では今年の球技大会は、例年と同じくバレーボールですかね」
と、チャラ谷を無視して、副会長が少し上機嫌に言った。
バレーボールやりたかったんだな、と思う俺らである。
ちなみに、後でなんで高校でもバレーボールをやらなかったのか、と彼女に聞くと、バイトしたくて、と返されてしまった。
まぁ、彼女の薄化粧やオシャレを考えたら、両立は難しいだろう。
「ちなみに時間厳守のプログラムとなっているため、バレーボールに限った話ではありませんが、ルールは通常のものと違いますから気をつけてくださいね」
と、副会長が話を続けるべく、書類によく目を通すように言った。
うちの球技大会のバレーボールは少し通常のルールとは違う。
それは時間的制限であったり、得点先取の減少であったりと色々とだ。
バレーボールを例に上げると、まず二十五得点先取ではなく、十五得点先取になる。また人数も基本は六人対六人だが、そこは各学年クラスの人数や他種目の兼ね合いもあるから、五人でも参加可能になっている。
こんな感じで各競技、予定された時間で勝敗が決するようにルールが改変されているのだ。
そのことに疑問を抱いたのはヨシヨシ君だ。
「あれ、じゃあ今年、バレーボールをするとしたら、生徒会チームは五人ですか?」
「あ、そうじゃん。五人って不利ですよね? 優勝するチームは六人でしょうし」
と、最もな質問が、ヨシヨシと芽衣ちゃんから上がった。
「ああ、それなら心配しなくて大丈夫。当日、もしこっちが人数不利だったら、助っ人を呼ぶ予定だから」
「“助っ人”?」
俺がそう言うと、芽衣ちゃんが聞き返してきた。
あれ、去年も相手チームに合わせて、生徒会チームは助っ人を呼んだと聞いたが、芽衣ちゃんたち覚えていないのかな?
と俺が内心で疑問に思っていると、ヨシヨシ君がハッと口に手を当てて、急に立ち上がった。
お、おいおい、驚かさないでくれよ。
急に立ち上がるのは息子だけにしてくれ。心臓に悪いじゃないか。
「ま、まさかその助っ人って!!」
『ガチャッ』
なにやら興奮した様子の彼だが、そのタイミングで生徒会室の扉が開かれた。
「うい〜。遅れてごめん、職員会議長引いたわ〜」
「「た、田所先生?!」」
そう、生徒会の顧問的な管理人、暇そう――じゃなくて、時間的に余裕のありそうな保健室の先生、田所先生だ。
今日も今日とて、その美貌を十全に知らしめるべく、白衣の中の縦セタが彼女の体のラインを語っていた。
我が校の生徒会顧問歴三年目のベテランである。
すると、縦セタ先生の登場に驚く後輩役員を他所に、チャラ谷が俺にだけ聞こえるよう、ボソッと言ってきた。
奴の両の手の人差し指は縦セタ先生に向けられている。
「オレっちが生徒会に入った理由っすw」
「......。」
お前、頼むから黙っててくれ。
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