第43話 個性豊かな生徒会役員?
「というのが、今年の球技大会の大まかな予定になる。役員の皆には悪いけど、当日は忙しくなると思うからよろしく」
そんな俺の言葉で、今年の球技大会のプログラムの説明は一通り済んだ。
天気は雨。梅雨の時期なので天気は崩れやすい。雨が日を跨いで長引くことだって珍しくない。ジメジメするけど、まぁこれも風情があるってもんだ。
また降水量は普通である。荒れに荒れまくった天気でもないので、傘を差せばそれで外を出歩ける程度のものだ。
そんな天気の下、俺を含む生徒会役員、計五名は生徒会室に集まっていた。
時間帯としては放課後。某SNSツールにて招集のメッセージを俺が送ったら、全員一分以内に返事がくれた。それもめっちゃ畏まった内容で返事された。
ちなみに副会長は了承のスタンプだけ押して意を示した。
俺と極力会話したくないのだろう。
「す、すごいですね、会長がそこまで考えていたなんて......」
俺の後に、一番最初に相槌を打ってくれたのは、二年生の男子生徒、吉田
黒髪で中肉中背。ルックスも何もかも普通の一言に尽きる印象の彼だが、やはり注目すべきは、なんと言っても地味に語呂の言い名前である。
人様の名前をイジる趣味は良くないが、“好太”が“こうた”と呼ばず、“よした”という名前のせいで、“吉田”が“よしだ”と安易に呼べなくなったトラップが備わっていることだろう。
そんな彼を、俺は親しみを込めてこう呼ぶ。“ヨシヨシ”と。トラップは愛称で回避だ。
彼の役職は“書記”である。
「はぁ。面倒くさいですね」
次に反応したのは、ヨシヨシと同じく二年生の女子生徒、曽根田 芽衣ちゃん。
特にこれといった特徴は無い。あるとしたら、やや小柄な彼女は、パッと見じゃ高校生には見えない点だろう。
というのも、それは彼女の髪型が可愛らしいツインテールだからだ。
しかも茶髪。本人曰く、これは地毛とのこと。
茶髪でツインテというと、某クソレズ女が思い浮かぶが、そんな奴と比べると芽衣ちゃんの尊厳に関わるので控えようと思う。
そんな彼女の役職は“会計”だ。
「流石っす。たっきゃしさん」
で、最後に反応してくれたのは、生徒会の中で一番年次が下の男子生徒、赤谷 信介君だ。
身長は俺と同じくらいで、やや痩せ型の彼は、肌が日焼けして黒い。イケメンかどうかで言われれば、微妙な領域に立つ男子生徒だ。
いや、この評価は妬みとか全く無くね?
また彼の髪は今は黒だが、二ヶ月前までは黒じゃなかった。金色だった。金髪で高校デビューしてきたのである。
本人曰く、これ地毛っす、とのことだが、後日の諸々の証明書......所謂、地毛証明書ってやつで、金色じゃないことが発覚。
周りのクラスメイトや先生にああだこうだ言われて、彼は艶の無い真っ黒な髪へ渋々戻ってしまった過去がある。
当時、無知な俺は、地毛って金色もあるんだな、と鵜呑みにしてしまったが、それよりもこんなチャラい男が生徒会役員で大丈夫かって思ってしまった。
通称、“チャラ谷”君。
初対面のときから距離感近い彼をそう呼ぶと、いつも『たっきゃしさんには呼ばれたくないっすw』と返される。俺のとこがチャラいのだろうか。
ちなみに、この“たっきゃしさん”とは和馬さんのことだ。
高橋 和馬の“高橋”を“たっきゃし”と呼ぶのは如何なものだろうか。
そんな彼の役職は“会計”だ。
ちなみにこの場には、俺が球技大会のプログラムの説明をしている間に、お茶やら菓子やらを用意してくれた副会長も居る。
「どうぞ、お茶です」
「あ、どうも」
「ありがとうございま〜す」
「あの、水なんですけど」
「みっず〜(笑)」
副会長が俺らに配って回ったコップには、ヨシヨシと芽衣ちゃん、それと自分のだけ緑茶で、俺とチャラ男のは水が入っていた。
「ああ、変態には水にしか見えないお茶です。味も水のように感じることでしょう」
それもう水じゃんね。
別に水でもいいけど。あからさまだな、相変わらず。
「そ、それで、僕らは具体的には当日、どう動いたらいいのでしょうか?」
と、ヨシヨシ君が話題を戻すべく、真面目な質問をしてきた。
ヨシヨシ、マジで常識人っぽくて存在に助かる。
「ああ、基本はこのプログラムにそれぞれ記載しているから、一通り見て動いてほしい。それ読んで質問があったら聞いてくれ。あまり慣れていないから、伝わりにくい部分があるかもしれない」
そう言って、俺は三人の後輩たちに生徒会役員用のプログラムが記載された書類の束を渡した。
書類の束と言っても、四、五枚程度のA4用紙を束ねてホチキスで端を止めただけのものだが。
「え、これを会長が全部?!」
「うっわ、会長一人でやったのはすごいですけど、量多......」
「たっきゃしさん、ここ記載おかしいっす〜(笑)」
三者三様。書類に驚くヨシヨシ君、嫌そうな顔になる芽衣ちゃん、さっそく記載内容に指摘してきたチャラ谷君だ。
チャラ谷、お前、この一瞬で見つけたのかよ......。
偶々なのかわからないが、チャラ谷、顔に似合わず、成績優秀でスポーツもまぁまぁできるって聞いたしな。きっと頭も切れる奴なんだろう。
「悪いね。一応、去年のプログラムを基本に作った程度のものだよ。ヨシヨシ君と芽衣ちゃんはともかく、チャラ谷は今回、未経験での進行役を並行した活動になるから、正直、忙しいと思う」
「あれ? でもオレっちの書類だけ、なんか量少ないっすよ」
「うん、チャラ谷は学校行事の進行役自体初めてだと思うから、他の役員より仕事は少なめにした。二人もそれでいい?」
と、俺がヨシヨシ君と芽衣ちゃんに聞くと、二人は頷いてくれた。
が、それでも不満はあったらしく、さっそく芽衣ちゃんが気怠そうに口を開く。
「はぁ。生徒会って行事毎にこんな面倒な仕事するんですか。入らなきゃ良かったです」
すごいな、こいつ。どんだけ肝据わってるんだ。嫌なら生徒会に入らなきゃよかったのに。
俺は別にいいけど、副会長がジト目になってんぞ。後でフォローしとこ。
「はは。正直、僕自身、これだけの仕事量をこなせるか不安です」
と、苦笑しながらヨシヨシ君が感想を述べる。
常識人って、俺の私生活の中で本当に居なかったから、彼にどう言葉をかけたらいいのか、今でもわからない。
さすがに男相手にセクハラはしないが、下品なことをポロっと言ってしまったときに、彼の反応を見るのが怖いよ。
「大丈夫っすよw たっきゃしさんがカバーしてくれますって」
などと、チャラ谷が両手の人差し指を俺の方に向けながら言ってきた。
こいつ、なんでこんな距離感近いんだろ。
もしかして、もしかしなくても、俺がヤリチンクソクズ野郎だから、同類かなんかだと思っているのではなかろうか。
だったら全力で否定したい。
たっきゃしさん、童貞だぞ。
「この書類、高橋さんが去年のプログラムを基に、お一人で作ったのは事実です。が、この人も生徒会としての立ち回りは初めてですので、疑問点は私にも聞いてくださいね」
とは、優しげな笑みを浮かべる副会長の言だ。
しかしその笑みはチャラ谷や俺には向けられていない。
俺らと比べて、一般生徒に近しい真面目な後輩二人に向けられたものだ。
芽衣ちゃんのさっきの態度もアレだったけど、この子は副会長が生徒会に勧誘したこともあってか、強くは出れないみたい。
「んで、たっきゃしさん、質問なんすけど」
「?」
するとチャラ谷が、渡された書類のとある箇所を指差しながら、俺に聞いてきた。
「この、当日最後のイベント......“VS生徒会”ってなんすか?」
ああ、それ......。その、うちの伝統文化だよ......。
俺は呆れ顔になりながら、説明をするのであった。
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