第36回 第八回 アオイクイズ
「それでは問題ッ」
「デーデン!」
「あ、相変わらずノリいいよね......」
そりゃあ勝ったら、長女越しに中村家の皆にセクハラできるんだもん。
“長女越しにセクハラ”ってパワーワード過ぎじゃね?
現在、俺らはジャガイモの収穫作業そっちのけで、クイズ大会を開催していた。出題者は巨乳JDこと葵さん。回答者はバイト野郎こと俺。
「そうだなぁ。ここはジャガイモ畑だし、ジャガイモに関するクイズにしようか」
そう言って、葵さんは先程から手にしていた形のいいジャガイモを俺に見せた。
「このジャガイモの品種名はキタアカリと言います。他にもジャガイモには品種が色々とあって、カズ君には三種――いや、五種類くらい答えてもらおうかな!」
と、鼻息荒く、俺に問題を突きつけてきた。
なので答えた。
「男爵いも、メークイン、ノーザンルビー、アンデスレッド、シャドークイーン」
「なんでッ?!」
“なんで”。
出題者から正解、不正解を言われるのではなく、“なんで”と驚かれてしまった。
「なんで答えられるの?! 普通そんな即答できる高校生いないよ! ノーザ――なんだって?! 私ですら知らないんですけど!!」
「お、落ち着いてください。ノーザンルビーですよ、皮と中身が赤紫のジャガイモです」
「だから知らないんですけど!!」
葵さんは俺がジャガイモの品種をちゃんと五種類答えられたことが意外だったのだろう。
自身が勝つことを前提に、割と理不尽な問題にしたんだ。大人気無くな。
それなのにこのザマである。
俺が即答できたのが信じられなかったのか、彼女はスマホを取り出して、ノーザンルビーを検索ワードに、インターネットで調べた。
それはヒットした。
俺が言った通り、数あるジャガイモの品種のうちの一つで、その特徴的な色も画像付きで理解したようだ。
尚、その検索からヒットに至るまで、二分程かかってしまったのはここだけの秘密である。
このJD、恐ろしいほどにアナログ人間なのだ。
「くッ。出鼻を挫かれてしまったけど......私にはまだ
「......。」
誰がこのクイズ大会は何問目まであると言ったのだろうか。
普通は出題者が、企画が始まる前に宣言するものだ。だってそれが義務だから。
でもこのおっぱいJDはそれをしない。
だって言っちゃったら、その問題数で勝たないといけないから。
次から次へとクイズを増やしていけば、いずれ勝てると信じているから、絶対に「今日は五問くらい出すよ」とか言ってくれない。
全く以て大人気無いバイトの先輩である。
「葵さん、今日は何問くらい出してくるんですかね?」
「問題出すのは回答者じゃなくて出題者の私だから!!」
「いや、問題じゃなくて質問してるんですけど」
「ちなみに毎回同じルールでやっているからわかっていると思うけど、一度でも回答を間違えたら、その時点でカズ君の負けだから!」
「いや、ルールを聞いているんじゃなくて、問題数を聞いてるんですけど」
「それでは第二問!!」
「......。」
こいつ、後輩相手にムキになりすぎだろ。
「新ジャガイモと通常のジャガイモの違いは?!」
「主に水分量でしょうか。新ジャガイモは収穫してからすぐに出荷されるので、瑞々しくて軟らかいのが特徴です。一方、通常のジャガイモは収穫後、貯蔵されて完熟してから出荷されますので、その分水分が少なく、硬めです」
「第三問ッ。美味しいジャガイモの特徴は?!」
「皮が薄いこと」
「第四問ッ。ジャガイモは何科でしょうか――」
「ナス科」
「――ナス科です!!」
「......。」
「では咲かせる花の色は何色でしょう?!」
「白色」
こうして、葵さんが次々と出してくる質問に、俺は淡々と答えていくのであった。
十問目に到達したところで、葵さんが畑の上で四つん這いになった。
「な、なんなの、このジャガイモ博士は......」
もしかしなくても、“ジャガイモ博士”とは俺のことだろうか。
命名されても全く嬉しくない二つ名である。
彼女の顔は絶望していると言わんばかりに暗かった。
一方の俺は、バイトの先輩を打ち負かすことによる嬉しさのあまり、両手を頭の後ろで組んで、右へ左へと腰振りダンスをしてしまっている。
「うい〜、うい〜♪」
「......。」
無論、負けたときの罰ゲームではない。その証拠に、俺は逆立ちもしてないし、全裸ですらない。
煽っているのだ。眼の前で四つん這いになっている巨乳JDを。
「だ、第十問......」
「葵さん、もうこれで終わりにしてくださいね。流石に長すぎます」
「......最終問題」
お、ネタ切れかな。葵さんがやけに素直に応じてくれたではないか。
次の問題で最後。
これを正解すれば、葵さんは家族の前で、俺の指示に従ってセクハラッシュをしなければならない。
どちゃシコ案件だ。
「ジャガイモの芽には毒があります。吐き気とか腹痛とかの食中毒ね。その天然毒素の名前は?」
「ああ、たしかソラ――」
と言いかけたところで、俺は止まる。
なぜ止めてしまったのかは言うまでもない。
その毒素の名前、メラニンかソラニンかで迷ってしまったからだ。
必然と腰振りダンスもカクンと停止する。さっきまで元気良くカクカクしてたのに。
「......。」
「? どうしたの?」
俺が答えを言い切らなかったのが不思議で仕方がなかったのだろう。
が、彼女は次第に俺の葛藤を察して、顔色を瞬く間に明るくしていった。
「え? ええ? え? ええぇ?! ちょっと、ええ?! ここで?! 和馬さん、ここでぇ?!」
う、うぜぇ。
「もしかして答えわからなくなった?!」
「似たような名前があるのを思い出してしまいました」
「そっかそっかぁ〜! わからなくなっちゃったのかぁ〜!」
「......。」
くっそ。この腹立つJDを今すぐレイプして泣かせてぇ。
メラニンとソラニン。マジでどっちかわからなくなってしまった。
「カウントダウンしちゃおっかなぁ〜。ごぉ〜、よぉ〜ん――」
JDがカウントダウンしながら、俺の周りをスキップしてやがる。
さっきまでの俺らの立場が逆転してしまった。
おっぱいを盛大に揺らしながらスキップする様は眼福この上ないが、視姦している余裕など今の俺にはない。
「さ〜ん――」
くッ。当たる確率は二分の一!
一か八か、男は性欲と根性だ!
イけッ!
じゃなくて行け!!
「メラ――」
にやり。
にぃ、という口角が釣り上がった葵さんを目にする。
カウントダウンによる数字の“2”じゃない。意地悪な笑みのそれだ。
それ即ち――
「にぃ〜」
「ソラニンッ!!」
「ぃううぇぇええ?!」
俺が言い切る前に方向転換して回答すると、彼女は変な声を出した。
「な、ななな、なんで......」
葵さんは今日一で真っ青な顔つきになる。
俺は言い切った。
賭けに勝った、なんて言わない。
勝利の女神がM字開脚して微笑んでくれたとも言わない。
言えることは、
「葵さんって、本当に顔に出ますよね」
「っ?!」
俺は意地の悪い笑みを浮かべて、そう言ってやった。
我ながら呆れてしまうな。葵さん相手になに苦戦してんだ。
このJD、ポーカーフェイスなんてできっこない女だから、最初から彼女の顔色を窺いながら回答すればよかったんだ。
「せ、せ......」
すると葵さんは、俺にまるで人として信じられない行為に走った者を見るような視線を向けてきた。
「せ、せこいよッ!」
「どの口が言うかッ!!」
葵さんの言葉に、俺は思わず素で言ってしまった。
「だってそうじゃん! 人の顔見て答えを探るとかズルすぎる!!」
「ズルいのはそっちだろ! こっちが黙ってりゃ、何回も重ねて出題しやがって!!」
「敬語ぉ!!」
斯くして、俺はクイズ大会で勝利するのであった。
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