第35話 通報案件だった件
「金玉をしゃぶれぇぇえぇぇええ!!」
「なに叫んでるのぉ!!」
葵さんも十分叫んでますよ。
天気は晴れ。最近晴れ続きで、非常に外で作業がしやすい。また夏も徐々に近づいているのか、晴れたこの日に身体を動かすと若干だが汗をかいてしまう。
汗をかくことはいいことだ。
健康にもいいし、なによりエロさがある。
だからぜひ、葵さんには汗をかいていただきたい。
「ああ、大きな声出したら反響するかなって」
「しないよッ! 畑でしないで山でやってよ!」
山ならいいんか。金玉しゃぶれって彼氏が叫んでも。
「なに?! 何なの?! 急に正気の沙汰とは思えないこと叫んで!!」
「実は以前、西園寺家で同じことをしたら、美咲さんから叱られてしまいまして」
「そりゃあそうだよ!」
「で、やるなら中村家でやってって」
「うちでもやらないでッ!」
と、葵さんが一通りツッコんでくれたところで、俺は少し痛めてしまった腰を小突いた。
今日のお仕事は、葵さんとジャガイモ畑でジャガイモの収穫をすることである。
ずっと中腰を維持したままの作業が続いたので、気分転換にと大声を出してみたのだが、先輩に怒れてしまった。
「別によくないですか? この畑には自分と葵さんしか居ないんですし」
「全然よくない! 彼氏が畑に大声でセクハラしてたら全力で止めるよ!」
“畑に大声でセクハラ”。なんて凄まじいパワーワードなんだろう。
俺のセクハラは留まる所を知らないな。
「ったく。腰が痛くなってきたのはわかるけど、変なこと叫んで気晴らしにしないでよ」
「では葵さんに金玉をしゃぶってもらえばいいのでしょうか」
「金玉から離れようか!!」
葵さんが未だかつてない力強さで、“金玉”と言ったぞ。怒りってすごいな。
とりあえず“1セクハラ”できたことで落ち着きを取り戻した俺は、今居るこの畑を見渡した。
「それにしても、このジャガイモ畑......ちょっと多すぎませんかね」
「うッ」
俺がそう言うと、葵さんがばつの悪い顔つきになった。
「わ、私もここまで生るとは思わなかった」
「まぁ、去年よりたくさん植えましたからね。そりゃあこうなりますよ」
ちなみにジャガイモの収穫は今日が初めてじゃない。
数日前もやった。
その日で全て収穫が終わらなかったから、今日もこうして手作業で収穫しているのである。
本当はポテトハーベスターという農機具があって、小規模な畑向きだが、ジャガイモを掘り起こしてくれる機械が中村家にはある。
が、如何せん古いからか、故障中だ。
農機具のスペシャリストである千沙ちゃんに頼んでいるのだが、エンジンがうんともすんとも言わないので、こうして手作業で掘ることになった。
で、俺が鍬を持って掘り起こし、葵さんが籠に入れていくという単純作業である。
一応、ここ数日かけてやっている作業で、終わりは見えてきている。が、まだ時間単位でかかりそうだ。
「あ、そうだ! ただジャガイモ掘って回収するだけの単純作業だから、アレやろうか!」
「青姦ですか?」
「下半身で物事を考えるの止めようか!」
失礼な。まるでバイト野郎の股間に脳みそが詰まっているみたいではないか。
「アレだよ、アレ! 畑でやるイベントと言ったらアレしか無いでしょ!」
そう言って、葵さんは意気揚々とジャガイモを両手に持ち、頭上にそれらを掲げた。
「アオイクぅーイズ!!」
「......。」
俺はその言葉を聞いて、無言で振りかざした鍬を勢いよく下ろすのであった。
******
「第九回、アオイクぅーイズ!」
「......。」
「拍手!!」
「あ、はい」
俺はとりあえず拍手した。
きっと今の自分の顔を鏡で見たら、死んだ魚のような目で無表情極まりないだろう。
アオイクイズとは、その名の通り、葵さん主催のクイズイベントである。
できれば、頭の悪そうな企画とか、ネーミングセンス最悪とか言わないであげてほしい。
で、その企画は、葵さんがクイズの出題者で、俺が回答者だ。
クイズ内容は野菜に関するあれこれ。
そこは別にいい。農家だしね。
問題は勝敗である。
負けた方は、勝った方の言うことを聞かなければならないのが、この馬鹿っぽい企画のルールである。
決着は至ってシンプル。出題者の葵さんが出すクイズにバイト野郎が正解出来なければ俺の負け。正解できれば俺の勝ち。
そんなんで現役JDに好き勝手できるんだぜ? 夢のようだろう?
んなわけがないのが、この企画である。
「私が勝ったら、カズ君には何してもらおっかな〜。あ、全裸で逆立ち腰振りダンスしてもらいたい!」
などと、どっかのポニ娘も同じこと言ってた罰ゲームを口にする長女である。
全裸で逆立ち腰振りダンスって、最近流行ってんのかね。どんな思考してんのか小一時間ほど問い質したいわ。
とまぁ、このように、アオイクイズはお互いの欲をぶつけ合うゲームなのである。
事の始まりはいつだっただろうか。たしか俺がバイトを始めてから数ヶ月で開催されたっけ。
毎回毎回、クソみたいな罰ゲーム突きつけてくるからな、この長女。
清楚ぶってるけど、中身全然そんなことないって思えてきた今日此頃。
だからこっちもそれ相応の罰ゲームを突きつけたろ。
「自分が勝ったら、葵さんにはこれを付けてもらい、一時間、自分の言うことを聞いてもらいます」
「?」
俺はそう言って、葵さんに手のひらにある物を見せた。
それは黒い物体で、豆のように小さい何かである。
「これは?」
「ワイヤレス式小型イヤホンです」
俺が短くそう答えるが、彼女の頭上には疑問符が浮かんだままのようだ。
「これを耳に着けて、スマホと接続してもらいます。で、離れた場所に居る自分が通話で指示を出しますので、葵さんはこのイヤホン越しにその指示に従ってください」
「なッ?!」
こういうイベント、人生で一回はやってみたいよな。友達とかにやらせてさ。
が、今回、それをやらせるのは、あの清楚で巨乳美女の葵さんだ。楽しみで楽しみで仕方がない。
「な、なんて最低な......遠隔操作で交際相手を弄ぶ気なの......」
こいつ、自分のこと棚に上げて何言ってんだろ。
投げたブーメランが返ってきて、刺さってるの気づかないのかな。
「というか、なんでそんなもの持ってるの?」
「え、一人で作業するときに、音楽とかラジオ聞くためですよ」
「さ、さすが現代っ子......」
いや、あなたは?
アナログJDか。
「とりあえず、クイズ受ける自分の方が不利なんですから、それくらい大目に見てくださいよ」
「うッ。ま、まぁ、私が勝てばいいだけの話だし、いっか」
さすが一級建築士。フラグ立てるのも早い。
「じゃあ、さっそくアオイクイズを始めるよ!!」
「ああ〜、勝負に勝ったら、葵さんには中村家の皆さんの前で、どえらいセクハラをさせましょ」
「絶対に嫌ッ!」
斯くして、仕事そっちのけでクイズ大会が始まるのであった。
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