第39話 巨乳JDを遠隔操作しろッ

 「では葵さん、さっそく自分の言うことを聞いてもらいましょうか。リピートアフターミー、『私のおっぱいは大きい巨乳です』」


 「......。」


 「言わないと、次からアオイクイズに参加しませんから」


 「わ、私のお、お、おっぱいは大きい巨乳です......」


 「エクセレント。最高です」


 「最低だよ! なんてことを彼女に言わせてるの!! というか、”大きい巨乳”ってなに?!」


 知らん。


 天気は曇り。といっても、今はもう夜だ。これから雨が翌朝まで降るらしいので、この場に居る葵さんを早いとこ帰らせたい。


 というのも、俺と葵さんは高橋家に居るからだ。


 本日は葵さんが彼女当番の日で、つい先程までおうちデートしてたのだが、時間も時間なので、今日のところはお開きである。


 まぁ、お楽しみはこれからだがな。


 「ああもう......これから家族に向かって、なんで下品なこと言わないといけないの......」


 「葵さん、落ち着いてください。自分の言うことをそのまま口にすればいいだけですよ。なんで下品なことを命じられるって決めつけるんですか」


 「カズ君だからだよ!!」


 すごいシンプルな回答来た。


 まぁ、実際に下品なことしか言わせないけど。だってそれが罰ゲームだし。


 葵さんにはこれから家に帰ってもらって、俺が指示した内容を声に出してもらう罰ゲームを受けてもらう。


 理由は簡単。葵さんがアオイクイズなんていう馬鹿な企画を自分から吹っ掛けといて負けた結果、罰ゲームを受ける羽目になったからだ。


 内容は俺が葵さんと通話しながら指示を出すのだが、その際は片耳用の小型ワイヤレスイヤホンを彼女に装着してもらう。


 きっと彼女の長い黒髪で隠れるだろうから、イヤホンの存在はバレないはずだ。


 「いいですか? バレたら駄目ですよ? 追加の罰ゲームしますからね」


 「う、うう。絶対にそれは嫌だ......」


 葵さんが今年一で辛そうな顔を見せる。


 彼女にこんな顔をさせてしまっていいのだろうか。


 などと、今更思っても仕方ない。俺の善意はイカ臭いティッシュと共にゴミ箱へ投げ捨てられたのだ。心を亀頭にしよう。


 じゃなくて、心を鬼にしよう。


 「じゃあ、私帰るね......」


 「あ、夜道は危ないですし、家まで送りますよ」


 「とてもじゃないけど、今から最低な行為に走る彼氏のセリフとは思えない......」


 「えっと......褒めてます?」


 「後悔してる」


 答えになってないが、俺が最低な奴ということは禿同だ。


 そうこうして中村家に着いた俺らは、葵さんと別れ、その帰路の途中で罰ゲームの執行を開始した。


 俺らが別れる前、葵さんには小型ワイヤレスイヤホンをスマホに接続してもらっているので、通話アプリを使えば準備完了だ。


 「テステス。葵さん、自分の声が聞こえますか?」


 『悪魔の声が聞こえてくる』


 ふむ。マイクに問題はなさそうだな。


 すると、通話先の葵さんの端末から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 『あら葵姉、今日は早めに帰ってきたのね』


 陽菜の声だ。


 どうやら葵さんは玄関から上がった途端に、ポニ娘と遭遇したらしい。


 『おかえりなさい』


 『ん。ただい――』


 「ただいマ〇コ」


 なので、さっそく指示を出してみた。


 『?』


 『......。』


 「ただいマ〇コ。葵さん、そう返してください」


 彼女にこんなこと言わせる彼氏、世界中どこを探したって見つからないだろう。居て堪るもんか。


 俺が先駆者になるんじゃーい。うぇーい。


 ということで、今日は全力で楽しもう。


 「葵さん」


 『た、ただいマ〇コ』


 うわ、本当に言いやがった。まじか。


 いや、言わせたのは俺だけど。


 『死にたい......』


 と、葵さんの心の泣き声が聞こえた気がしたが、まだ始まったばかりなんだ。


 こんなことで泣いてたら脱水症状待ったなしだぞ。


 『あ、葵姉......』


 スマホ越しに、陽菜のどこかドン引きしているような声が聞こえてきた。


 そりゃあそうだ。陽菜は三つ年上の姉が小学生レベルの下ネタ挨拶してきたことに対し、絶句を禁じ得ないだろう。


 無理もない。


 『まさか和馬に何か吹き込まれた?』


 「『っ?!』」


 陽菜のその一言に俺らは驚愕した。


 え、なんで? バレた? たった一言で?


 俺は葵さんがバラしたのかと疑ってしまったが、葵さんが独断で陽菜に質問したことで、それは無いと察する。


 『な、なんでそう思うの?』


 『だって葵姉がそんなこと言うわけないじゃない。和馬に汚染されたことを疑うわよ』


 俺はバイ菌か。


 お前、彼氏のことそんな風に思ってたんか。ちょっとショック。


 でも葵さんにこんなことさせている手前、全力で否定したい気持ちが憚られた。


 『陽菜ぁ......』


 葵さんが自身の日頃の行いから、末っ子の信頼を勝ち取ったことに感動している。


 なので別の指示を出した。


 「葵さん、バレたら意味ないので、全力でとぼけてください」


 『え゛』


 葵さんから間の抜けた声が漏れる。


 「当たり前でしょう? バレたら追加の罰ゲームですよ」


 『......。』


 「この一回で終わらせたかったら頑張ってください」


 葵さんには同情するよ。でも俺は罰ゲームをやめない。


 だってすごく楽しいから。


 大人のラジコンを買った気分だぜ。


 『葵姉?』


 『あ、あはは。なんでもない。な、なんとなく言ってみただけ』


 『ただいマ〇コを?』


 『う、うん』


 俺も大概だけど、陽菜もすんなりと復唱できるのすごいよな。抵抗感とかないのかな。


 伊達に和馬さんと付き合ってないな。


 葵さんはそのまま死地リビングへ向かったらしく、その場には声からして、真由美さんと千沙が居るようだ。


 『あ、姉さん。今日は早いですね』


 『珍しいわねぇ。いつもはまだイチャイチャしている時間でしょう?』


 へぇ。真由美さんは娘たちの帰りが遅い理由をそう捉えているのか。


 まぁ、実際、帰る時間ギリギリまでイチャイチャしているから正解だけど。


 『きょ、今日はなんとなく早めに帰ってきただけだよ』


 『あらそう。紅茶淹れるけど、あなたも飲むかしらぁ?』


 『うん。頂戴』


 よし、ここでかましたるか。


 「ママのミルクを入れてミルクティーにして、と言ってください」


 『......。』


 正直、彼女の母親に対してやっていいセクハラじゃないと思う。


 でも理性よりセクハラしたい心が勝ったのだから仕方ない。


 「ねぇ、ちょっとあの人、今......」


 「しッ。聞こえるって」


 おっと、夜の田舎道とは言え、一応通行人はいるみたいだ。


 外で葵さんと通話している俺の声を偶々聞いた女性二人組が、まるで俺のことをゴミでも見るかのような視線で見てくる。


 ゴミですが、何か?


 俺は自覚あるクズだからな。なめんなよ。


 『ま、ママのミルクを入れてミルクティーにして』


 俺が現代社会と心の中で格闘していたら、葵さんが先程、変態彼氏が指示した言葉を口走ったぞ。


 さてさて、娘を通した人妻の反応は如何なものか。


 『あ、葵、あなた......泣き虫さんに憑りつかれたのかしらぁ』


 俺は悪霊か。


 『姉さん、兄さんに弱みでも握られましたか?』


 俺は最低か。


 あ、最低だった。


 というか、陽菜だけじゃなくて、真由美さんも千沙も俺のことなんだと思ってんだ。


 『皆......。実は私、カズ君に――』


 「葵さん」


 『......に......えっと、なんでもないです......』


 なんか感極まった葵さんが事情を話そうとしていたが、そんなこと許さん。


 もしバレたら、どぎつい追加罰ゲームを要求してやる。


 『それよりせっかく葵姉が早めに帰ってきて、揃って話せるんだし、久しぶりにアレやりましょ』


 と、俺がそんなことを考えていると、葵さんの小型ワイヤレスイヤホンを通して、陽菜のそんな言葉が聞こえてきた。


 アレってなんだ?


 俺のそんな疑問は、次の陽菜の言葉で搔き消えた。


 『女子会! 彼氏の愚痴よ!!』


 おっと、できればそういうのは彼氏が盗聴してないところでやってほしい。


 葵さんの罰ゲームどころではなくなった和馬さんであった。

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