第29話 チーズはインもオンもさせるな
「できたー!」
「できました!」
「できちゃったかぁ......」
W巨乳JKが達成感に満ち溢れた声を上げた。
俺は絶望感に満ち溢れた声を漏らした......。
現在、和馬さんはJK二人が作った料理を食べるところである。
二人が料理をし始めてから一時間ほど経った頃合いだろうか。ついに和馬さんの死が訪れる時間がやってきてしまった。
食卓の席に居る俺は、二人が作ってくれた料理を運んでいる様を目にして絶望しかしなかった。
眼前に並べられた料理が拷問器具のようにしか見えなくて仕方が無かった。
「さて、お兄さん。食べる前にインタビュー入れたいんだけど、いい?」
「え、インタビュー? なんで?」
「ああ。AVにも冒頭にインタビューありますからね。たしかに料理にも必要です」
どういう理屈?
たしかに俺はAVを視聴するとき、冒頭インタビューをスキップせずにちゃんと視ているよ。
その理由はさておき、AVには冒頭インタビューは欠かせない。
でも料理にそれは要らないだろ。プロの料理人ならともかく、お前らは料理人と呼ぶにも烏滸がましい存在だからな。
が、まぁ、とりあえず拒否するとうるさくなるのも事実なので、このまま好きにやらせることにした。
無論、悠莉ちゃんが普通にAV視ていることは無視する。レズ野郎は美女が快楽でよがっていれば何でもありなのだ。
「じゃあ私から」
そう言って桃花ちゃんは、悠莉ちゃんに向き直った。悠莉ちゃんはどこから取り出したのか、おもちゃのマイクを手にしている。
二人は真面目な顔つきになってインタビューを始めた。
「米倉さん、ハンバーグを作ろうと思ったきっかけはなんでしょうか?」
「私でも作れるかなって思ったからです」
「本日のハンバーグに至るまで道のりは長かったのでしょうか?」
「今日初めて作りました」
「対戦者に一言お願いします」
「絶対に負けません」
「審査員にも一言」
「お兄さん、毒を食らわば皿まで、だよ!」
と、桃花ちゃんのインタビューは終わりを迎えた。
色々とツッコみ所が多い、中身がすっかすかの浅い茶番であったが、その中でも特に問い質したいことがある。
作った奴が『毒を食らわば皿まで』とか言うな。責任持てや。ぶっ飛ばすぞ。
「じゃあ次は私で」
今度は悠莉ちゃんの番らしい。
「百合川さん、ミートソーススパゲッティを作ろうと思ったきっかけはなんですか?」
「ソースもパスタも市販品ですので、これなら気絶させずに作れるかなって」
動機が料理をする人のそれじゃない。
「本日のスパゲッティに至るまでの道のりは長かったのでしょうか?」
「道のりというか、湯で時間を間違えました。十五分くらい」
上手くねぇよ。その料理しか作っとらんのに湯で時間間違えるってなに。
「対戦者に一言お願いします」
「勝ったら抱かせてください」
どっからその自信が湧くのか教えてほしい。全力で否定するから。
「審査員にも一言」
「元カノの手料理が再び食べられて幸せですね!」
再びってか、交際中にお前が作った飯食ったことねぇよ。
一通りインタビュー終えたW巨乳JKは、俺を見て言った。
「お待たせ、お兄さん。食べていいよ」
「よく噛み締めて味わってくださいね」
「噛みしめるも何も悠莉ちゃんのスパゲッティはべちゃべちゃだけどね......」
俺はインタビューを聞いても全くと言っていいほど食欲が湧かなかったが、食べたないと桃花ちゃんがあらぬ事実をSNSに拡散するため、致し方なく食べることにした。
とりあえず、形だけでもと、両手を合わせて『いただきます』と言う。
二人がキラッキラした目で俺を見るが、俺は自分でもわかるくらい瞳に光を消し去って料理を見つめている。
まずは桃花ちゃんが作ったハンバーグからだ。
お店なんかでよく使われる熱せられた鉄板に乗せて運ばれてきた訳ではないので、熱々という程でもない。
できたてということもあってか、ハンバーグの肉肉しい香りが俺の鼻腔をくすぐる。
見た目は普通の楕円状ハンバーグ。上からデミグラスソースが掛かっていて、普通に美味しそうである。
が、見た目は普通でも、中身がどうかはわからない。
なんせ本人曰く、このハンバーグはチーズがインしちゃっているらしいのだから。
なんだよ、チーズがインしちゃっているって。
俺はそんなことを思いながら、ナイフとフォークを片手に、ハンバーグの中央へ入刀した。
「お、おおー」
俺の口から思わず感嘆の声が漏れる。
肉汁だ。
肉汁が溢れ出てきたのだ。
おいおい、どういうことだ。この肉汁の量、ちゃんとハンバーグを作ってた証拠じゃないか。おそらくタネを作る過程で工夫をこらしたのだろう。
手で捏ねるにしてもできるだけ肉の脂を溶かさないように、冷やした状態から捏ねたとか、空気をしっかり抜いたとか、外形をしかりと整えたとか。
正直、びっくりである。
「も、桃花、これはすごいぞ」
「でしょ〜」
「俺はお前のことを見くびっていたみたいだ。詫びよう。“食材を無駄にする女”と罵ったことを」
「いや〜、それほどでも。てか私、一応、お弁当屋さんの娘だし」
そのお弁当屋さんの娘に今まで苦しめられてきたんですけどね。
まぁ、これで美味しかったら素直に褒めよう。ついでに桃花ちゃんのおっぱいも捏ねよう。
「ん?」
が、俺はそこで気づく。
あまりの肉汁の量に忘れてたが、チーズが見受けられないのだ。
ハンバーグを切ったら肉汁と共に出てくるであろう、チーズが。
作った本人がインしちゃってると言ってたチーズが、インしてないのだ。
「あの、桃花ちゃん」
「はいはい」
「チーズは?」
「あれ? 無い?」
ねぇよ。
なんで無いんだよ。おかしいだろ。チーズ入れたって自覚あんのに無いって、軽くホラーだよ。どこ行ったんだよ。
向かいに座っていた桃花ちゃんは、俺の後ろへ来て、切ったハンバーグの中身を見るが、あれれあれれと繰り返してチーズが無いことを不思議そうにしている。
マジで怖い。
入れ忘れちゃった、なら仕方ないと思うけど、どっか行っちゃったはマジで怖い。
「え、ちょ、ええ......」
「ま、まぁ、普通のハンバーグだし、このまま食べて?」
「いやまぁ食べるけどさ......」
俺は仕方なくこのまま食べることにした。
一口サイズにカットしたハンバーグを口の中に放り込む。
「っ?!」
そして驚愕した。
「どうしたの?!」
桃花ちゃんは心配した様子で声を掛け、俺に水の入ったコップを渡してきた。
俺はそれを受け取って一気に飲み干す。
そして呟く。
「味が......すごく濃い」
そう、このハンバーグ、非常に味が濃いのだ。しょっぱさの塊というべきだろうか。その上、濃厚なデミグラスソースが掛かっているから、濃すぎるという印象しか湧いてこない。
そんな俺の感想に、桃花ちゃんは苦笑しながら言った。
「あ、あはは。味付けはまだまだだったね」
「ま、まぁ、それ以外は見た目も肉汁のコントロールも完璧なハンバーグだよ。食べれなくもないしな」
「そう? あ、そういうときは一緒にライスあるから、そっちも合わせて食べてよ」
「なるほど」
たしかにこのしょっぱさなら、白米があれば乗り切れるだろう。
なんたって白米は味が濃い料理を中和させる働きがあるからな。
俺はそう思って、再度、一口サイズのハンバーグを口の中に頬張った後、白米を適量食べた。
「っ?!」
そして再度、絶句する。
俺はそれをろくに噛まずに全て飲み込み、桃花ちゃんを睨みつける。
「なんだこの白米!」
俺が怒鳴りつけるように問い質すと、彼女はにやりと嘲笑って答えた。
「白米がなに? もしかして何か入ってた? たとえばチーズとか」
そこにチーズ入れてんのかい!
俺はお茶碗に入った白米を見た。
言われてみれば、たしかに白米は少しだけ黄ばんだように真っ白ではない。香りもチーズの匂いがしなくもなかった。
が、肝心の味付けが、このチーズご飯単体でも食べていけそうな濃さである。
ハンバーグも濃ければ、ご飯も濃い。
濃い×濃いで俺の口の中はバグった。危うく味覚が持ってかれるとこだった。
そんな俺を他所に、桃花ちゃんは戯けた様子で答えた。
「あれれ〜。ハンバーグに入れたはずのチーズはどこに行ったんだろ〜。あ、お米を炊く際に紛れちゃったのか〜。めんご☆」
どうしよう、このおっぱい娘をぶん殴ってやりたい衝動に駆られたんだが。
「お前......ご飯にチーズなんか入れなければ、ただの味が濃いハンバーグで済んで勝負に勝てたのにな。もったいないことしやがって」
俺が嫌みったらしくそういうと、桃花ちゃんは不思議そうに小首を傾げながら言った。
「え? 悠莉に圧勝して何が楽しいの?」
「は?」
「そんなのつまらないじゃん。どっちが勝つかわからないギリギリを狙えば、お兄さんの反応をもっと楽しめるよね? 甲乙つけ難くて延長戦とかあったら文句無しだよ」
「......。」
こいつ、ほんっと人を弄ぶことが好きだな......。
俺はこの先どんなことがあっても、延長戦だけは絶対にしないと心に誓った。
「では先輩、次は私の料理ですよね」
すると機会を窺っていたのか、悠莉ちゃんがミートソーススパゲッティをずいっと俺の方に近づけてきた。
見た目は普通のミートソーススパゲッティだ。特にこれと言った変わった点は見受けられない。
それが何より怖い。
そんでもってチーズがどこにも無い。
悠莉ちゃんの話によれば、チーズがオンしちゃってるはずなんだが、チーズ特有の白色や黄色といったものはオンしてない。
マジで怖い。
そんな警戒心マックスの俺に、悠莉ちゃんから声が上がった。
「あ、チーズかけるの忘れてました」
忘れてたんかい。もうビビらせんなよ......。
俺は一度息を整えることにした。
深呼吸して、鋭い視線でミートソーススパゲッティを捉える。
「男に......二言は無い。いざッ!!」
「とてもじゃないけど、今から元カノの料理を食べる顔つきじゃないよね」
「死を覚悟した人の目ですよ」
俺はフォークにスパゲッティを一本だけ巻き付けた。
ちゃんとソースがかかっていない一本である。
「「うわ」」
そんな俺を見て、二人が幻滅した顔つきになった。
仕方ないじゃん。ほぼ市販品で作られたとは言え、俺の意識を刈り取った前科がある悠莉ちゃんが作った料理だもん。
スパゲッティなら......まぁ、うん、茹でただけだし、確実に安全だよね。
だって水と塩と麺だけだもん。
俺はスパゲッティ一本をちゅるちゅると口の中に吸い取るようにして含んだ。
「っ?!」
そして意識が暗転した。
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