第20話 抜き打ち愛情テスト!
『和馬、ごめんなさい。今日は塩加減間違えて卵焼き作っちゃった。あんた、甘めの好きって言ってたから、美味しくなかったら残してちょうだい』
『はは、そんなことで残す訳ないだろ。陽菜が作ってくれたものなら、たとえ泥水だって美味しくなるさ』
『和馬......しゅき♡』
とは、今朝、陽菜と俺の間で交わされた会話である。
現在、俺は陽菜と悠莉ちゃんを前に、そんな記憶を思い出していた。
あの会話の後、安定してイチャイチャしてた俺らだが、今となっちゃ全然笑えない。
今カノが味付けミスった卵焼き VS 食ったこともない元カノの卵焼き。
未知 VS 未知だ。
陽菜さん、そのこと知ってて勝負を受けて立ったんでしょうかね。
負けたら和馬さん、逆立ちして腰振りダンスしないといけないんですが。
てかなんだよ、逆立ちして腰振りダンスって。サ○エさんのオープニングでもしねぇぞ。
とりあえず、今からでも遅くはないので、陽菜に今朝の会話を思い出させて、この勝負の危うさを実感させよう。
「陽菜」
「なに?」
「今朝の俺らの会話覚えてる?」
「もちのろんよ」
「お前が今日作ってくれた卵焼きってさ......」
「塩加減ミスったやつね」
「そっか。覚えててくれたか。それを踏まえて聞きたい。この勝負、受け――」
「るわ。受けるに決まってるじゃない」
......。
そっすか......。
俺が押し黙っていると、陽菜が俺の方へずいっと顔を近づけてきて聞いてきた。
彼女は全く目が笑ってない笑みを浮かべている。
「え、もしかして和馬さん、彼女が味付けをやらかしたからって、誰が作った卵焼きかを当てられない気?」
「いや、こういうのはな、普段食べ慣れている味だからこそ、誰が作ったかわかるもんだと思うんだよ」
「言い訳? 私は当てられるかどうかを聞いているのだけれど」
「いや、だから――」
「YES? NO?」
「......正直に言えば、N――」
「和馬、一択よ」
「......YES」
「さすが、私の見込んだ男ね。素敵な答えだわ」
言わされただけですけどね......。
そんな俺らのやり取りを他所に、悠莉ちゃんが話を進めさせた。
どうやら俺たちを逃がす気は無いらしい。
「では、勝負の前にルール確認です。先輩には目を閉じてもらって、私たちがそれぞれ卵焼きを食べさせるので、陽菜ちゃんが作った卵焼きがどっちなのかを当ててください」
「くっ。やるしか無いのか」
「負けたら一分間、全裸で逆立ち腰振りダンスです」
「なんかさっき聞いてた罰ゲームより酷くなってる気がするんですけど」
「三十秒にします?」
「時間の問題じゃねぇよ」
“全裸”が付け加わってるだろーが。
生徒会長を社会的に殺す気か。
すると陽菜が鼻で笑って、悠莉ちゃんの言葉を軽くあしらった。
「はッ。どうせ私が勝つんだから、なんだっていいじゃない。なんなら逆立ちで歩かせながら全裸で腰振りダンスさせてあげるわ」
「あの、するの俺なんですけど」
俺は一ミリも得しない上に、罰ゲームだけ悪化していくというカオスに。
全裸で逆立ち歩行しながら腰振りダンスは秒で警察に捕まるわ。
歩く“卑猥”とは正しくこのことだろう。
「では先輩、さっそくこの目隠しをしてください」
すると悠莉ちゃんが長めのハンドタオルを俺に渡してきた。
俺はそれを無言で目隠しとして頭に結び付ける。
その際、悠莉ちゃん特有の甘い匂いがタオルから漂ってきた。
「洗剤変えた?」
「まるで息を吸うように、鳥肌立つことを平然と言わないでください」
ザーメン。じゃなくて、さーせん(笑)。
てか洗剤くらいよくね? シャンプー変えたとか言われたのなら、まだわかるけどさ。
世知辛くなったもんだ。ますますセクハラしにくくなったと思う今日此頃。
パコりてぇ。
おっと、いかんいかん(笑)。
「とりあえず、どっちが先に食べさせるか決めるわよ」
俺が目隠しを付け終えた後、彼女たちから一切声が聞こえなくなった。
おそらく、無言でジャンケンかなんかをして、俺にどちらの卵焼きを先に食べさせるのか決めているのだろう。
そうこうして、陽菜から声が上がった。
「和馬、口を開けなさい」
俺は口を開けた。
目隠しによって視界は阻まれているため、陽菜の声が聞こえてきても、彼女が食べさせてくれているとは限らない。
マジで舌で当てないといけない状況だ。
俺が口を開けてからあまり間をおかずに柔らかなものが入ってきた。
言うまでもなく、食感からして卵焼きだ。正直、俺の好みは甘い味付けなのだが、今口に含んでいる卵焼きは甘いというより少し塩っけがある。
出汁だろう。別に甘くないわけじゃない。その中にほんのりと甘みを感じる。卵特有の甘さを活かしているというべきだろうか。
控えめに言って美味い。できれば大根おろしも一緒にいただきたかった。絶対合うと思う。
ふむ......。
「次のを頼む」
「できれば二回しか口にしないんだから、一発目でわかってほしかったわね」
「一個目の卵焼きでわかっちゃえば消去法で判断つきますからね」
「次のを頼む!」
たとえ一個目の卵焼きでわかったとしても、俺は二個目を食べるよ。
だって逆立ち全裸腰振りダンスなんて絶対やりたくないもん。確信欲しいもん。
「先輩、あーん♡」
今度は悠莉ちゃんが食べさせてくれるらしい。
依然として視界は塞がっているのでわからないが、これも悠莉ちゃんが俺に食べさせてくれたからって、彼女が作った卵焼きとは限らない。
俺は口を開けて、舌の上にそっと置かれた卵焼きを咀嚼した。
「っ?!」
瞬間、意識が暗転して刈り取られた。
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