第18話 二人目の農業アルバイト? いいえ、ただの変態です
「ふぅ。ようやく落ち着いてきましたね」
「ね。今日もなんとか無事に乗り切れそうだよ」
荷物を棚に下ろした俺は、そんな安堵の息を吐きながら葵さんと店内を見渡した。
営業開始から約二時間。ようやく客足もまばらになってきて、落ち着きを取り戻し始めている。
それに比例し、少し前までは棚には商品となる野菜が数多く並べられていたが、その様が点々としてきた。売り切れ続出で在庫も無くなってきたのである。
中村家直売店、本日も大繁盛だ。
まぁ、開店時が一番ピークだからな。
どこの直売店もそうなのかわからないが、新鮮な野菜は早い者勝ちである。
今店内に居る客らは開店ピーク時のような人混みが苦手なのか、ゆっくりと買物がしたいらしく、中村家スタッフと談笑しながら買い物籠に商品を入れている様子が見受けられた。
「それにしても今日は普段より忙しかったね」
と、葵さんが伸びをしながら、そんなことをぼやく。
その際、彼女のたわわに実った双丘がぶるんと揺れたが、俺は紳士なので気遣うことにした。
「お疲れですね。揉みましょうか? 胸」
「揉むなら肩揉んでよ......」
そうツッコみつつ、彼女は両腕で自身の巨乳を押さえつけ、俺をジト目で睨みつけてきた。
ほんっとエロ可愛いな、このJD。パコりてぇったらありゃしねぇ。
俺は軽く咳払いして話題を戻すことにする。
「まぁ、今日はうちのスタッフが一人休みだったので、いつも以上に忙しく感じたのは否めませんよ」
「ああ、ね。大丈夫かな? 悠莉ちゃん」
葵さんが口にした名前、“悠莉ちゃん”はフルネームで、百合川 悠莉という。
高校二年生で、俺と同じ学校に通っている陽菜の友達だ。
なんと世にも珍しい俺に続く農業アルバイトをする高校生である。
正確には農業というより、この直売店の営業日だけアルバイトしている子だけど、その子が本日休みを取っていた。
なんでも、風邪をひいちゃったらしい。
「自分はここのとこずっと風邪ひいてないので、どれだけ辛いのか忘れちゃいましたよ」
「ふふ。健康が何よりだよ」
などと、葵さんと談笑していると、不意に俺のスマートフォンが着信音を響かせた。
葵さんに一言断ってから、スマホを手に取って画面を見る。
「げ」
自分の口から思わずそんな声が漏れてしまうような人物から通知が来てしまったのだ。
スマホの画面に映し出された名前は――
「れ、“レズ川 悠莉”......」
葵さんが俺の後ろから肩越しにスマホを覗き込んできて、そう呟いた。
そう、俺に電話してきたのは、“レズ川 悠莉”。件のアルバイトJKだ。
彼女の連絡先をスマホに登録する際に、俺が独断でそう命名した。
「ちょ、ちょっと。それはさすがに酷くない?」
「いえ、それはないですよ」
「即答......」
「葵さんだって、こいつがどんな奴かってことくらいわかってるでしょう?」
「......。」
とまぁ、心優しい人で有名な葵さんでも押し黙っちゃうようなJKが、このレズ川 悠莉ちゃんである。
俺は仕方なく電話に出ることにした。
「はい、もしもし」
『ゴホッ。あ、ぜん、先輩。電話出るの遅いですよ〜。彼女からの電話は三コール以内に出ないと』
「“元”な、“元”」
百合川 悠莉。実はこの子、俺の元カノである。
中村家三姉妹と付き合う前のな。
付き合ってから別れるまで色々とあったが、今はこうして同じアルバイト先で働く関係になっている。
正直、正気の沙汰じゃないと思う。別に喧嘩別れした訳じゃないけど、普通、別れた相手と一緒にアルバイトするもんじゃないでしょ。
まぁ、それくらいすっきりしているのが、俺と悠莉ちゃんの美徳とも言える点なのかもしれない。
「大丈夫? 体調良くなった?」
『けほ、けほ。ええ。少し咳と頭痛、鼻水と熱が酷いですが』
全然治ってなさそうだな。
「電話してきてどうしたの?」
『陽菜ちゃんや女神様の声を聞きたくて......』
俺じゃねぇのかよ。
なんで電話してきた。
「なら陽菜に電話すればいいじゃん」
『切られました。けほ』
さいですか......。
俺は隣に居る葵さんに、『悠莉ちゃんから電話来ました?』と聞いてみたら、彼女は『スマホ、家に忘れてきちゃった』と可愛らしくてへ顔で答えた。
てへ顔じゃなくて、あへ顔してくれたら、写真に残して悠莉ちゃんに送るのに。
そうしたら彼女はすぐにでも元気になるだろう。
俺の息子も元気になるが。
『こほ。それより女神様のお声を〜』
「はいはい」
俺はそう返事をして葵さんに自身のスマホを渡した。
ちなみにさっきから悠莉ちゃんが女神様と連呼しているのは、言うまでもなく葵さんのことを指している。
まぁ、そう呼びたくなるのは同感だな。
「ゆ、悠莉ちゃん? 大丈夫?」
『女神様〜。風邪辛いです〜』
「すぐ治るよう安静にしててね?」
『はい。日課の自慰行為を三回に減らしていますぅ』
「じ?! あ、あああまり人様のこ、股間事情は強く言えないけど、大人しくしてようか!」
“股間事情”。咄嗟に適切な言葉が出なかったにしても、すごいパワーワードが出たもんだ。
というか、悠莉ちゃん、自慰行為減らして一日三回って......。
ちょとそこら辺詳しく聞きたい。
で、このように、レズ野郎は心を開いた相手にだけ、本心を語るのである。
本心ってか、セクハラだな。
マジで和馬さんとキャラ被るからやめてほしい。
周りの人も悠莉ちゃんのことを、“女性の皮をかぶった和馬さん”って評価してるし。
不名誉極まりない評価である。
『あい。大人しくしてます。それより今日は本当にごめんなさい。急に休みいただいちゃって』
と、先程までの卑猥な会話が嘘のように、悠莉ちゃんは平然と謝罪し始めた。
それに対し、葵さんは苦笑しながら答えた。
「こっちは大丈夫だよ。頼れるアルバイトがもう一人居るしね」
そう言って、優しげな笑みを浮かべながら葵さんは俺を見てきた。
俺はというと、彼女に真正面からそんなことを言われたので、少しだけ照れてしまった。
が、そんな良い雰囲気も、スマホから聞こえてくる通話先の人の声で掻き消える。
『変態クソ野郎でも役に立つんですね』
「お前よりマシだよ、クソレズ野郎」
『ちょ! 元カノに向かってなんて口の利き方ですか!!』
「お前こそ先輩に向かってなんて口の利き方してんだ!!」
などと、言い合いを始めたところで、葵さんがブツンと通話を切った。
話途中で急に通話を切ったのである。
「はぁ。カズ君、病人相手になに熱くなってるの......」
「うっ。すみません......」
俺は葵さんからスマホを受け取って、先程の大人気ない態度を謝るべく、某SNSにて悠莉ちゃんに連絡した。
書いて送った文はこう。
[さっきはごめん。大人気なかった。詫びと言っちゃなんだけど、葵さんは一日、多いと四回くらいオ○ニーするらしいよ]
ついでに葵さんの股間事情も送っておいた。
俺が彼女とイチャイチャしていたときに、無理矢理にでも彼女の口から吐かせた内容の一部である。
ピロン。俺が先程送ったメッセージに対して、早くも通知音が鳴った。
悠莉ちゃんからの返信はこう書かれていた。
[ムラムラしてきました。私はこれから四回目に入ります]
などと、決して人様には見せられない俺らのやり取りが、そこにはあった。
君、既に三回もシちゃってたのね......。
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