第10話 アルバイト先は・・・

 「おはようございまーす」


 天気は晴れ。俺は今からバイトするのだが、そこでは主に外で働くバイトなので、天気が非常に関わってくる。


 今日みたいな晴れだと特に問題は無い。夏の時期の晴れなどは熱中症に注意しなければならないが、今はまだ春だ。


 控えめに言って最高のバイト日和。


 そんな晴天の下、俺は自宅から徒歩十分もしない所にある


 その敷地に足を踏み入れると、まずは中庭に辿り着く。正面には、瓦屋根が特徴である木造建築の一軒家があり、L字のように隣にはソーラーパネルが設置された屋根が特徴の別の一軒家がある。


 また中庭を挟んで向かい側には、農業を勤しむ者にとっては必要な機材やら資材が保管されている物置小屋、乗用車や商用車などを駐めておく車庫があった。


 「おはよう、カズ君」


 「あ、葵さん」


 俺が中庭に入ると、車庫にある軽トラックの荷台から、なにやら重たそうな荷物を運ぼうとしていた女性に声をかけられた。


 絹のような黒髪を風に靡かせて、ひまわりのような笑みを浮かべる女性だ。


 泣きぼくろが特徴的で、年上お姉さんの雰囲気を醸し出しているこの人は――中村 葵、俺より年が二つ上のバイト先の先輩だ。


 そんな彼女は家業に勤しんでいる途中だったのか、首から下はツナギ服という作業着姿で、肌を露出させていない。


 それでも首から上は見えるので、毎日農作業をしているとは思えない肌の白さが目立った。


 そしてツナギ服という色気も感じさせない服装なのに、彼女のおっぱいはたわわに実ったスイカのように大きいので、色気ぷんぷんだ。


 全国のスイカ農家さんに謝った方がいいレベルで大きい。


 謝った方がいいのは俺の方か。


 そんな巨乳美女こと中村 葵は――俺の交際相手でもある。


 そう、中村 陽菜、中村 千沙と続いて、中村 葵も俺の交際相手なのだ。


 俺の彼女は三人居るのだ。


 「おはようございます、葵さん。今日も良い天気ですね」


 「あ、あの、いつも言ってるけど、話すときは人の目を見てね? どこ見て挨拶してるの」


 「葵さんの乳房スイカです」


 「相変わらず最低だね......」


 葵さんが目を細めて、俺の舐め回すような視線を不快と言わんばかりな顔つきを作る。


 その際、両腕で自分の乳房を隠すようにして抱き寄せた彼女だが、それが一周回ってエロスを掻き立てているので、見ている身としては堪ったもんじゃない。


 「自分ら付き合ってるんですし、別にいいじゃないですか」


 「それとこれは話が別だよ。親しき仲にも礼儀あり、と言ってね――」


 などと、くどくどと俺に説教を始めた巨乳美女である。


 さて、前置きが長くなってしまったが、俺はバイトしにこの家にやってきた。


 そしてこの家は農家。


 ならば必然的に、俺のバイトというのは――


 「農業アルバイト......最高です」


 「人の話聞いてる?!」


 ――農家のアルバイトである。


 それが俺、高橋 和馬というバイト野郎のアルバイトである。


 俺は天を仰ぎ、両手を上げて


 言うまでもなく、そこに感触は無い。でも、おっぱいを揉んでいることを想像し、妄想に溺れていく。


 そう、実は俺はドが付くほどの変態なんだ。


 「な、なにその卑猥な手付き」


 すると俺がキショい動きをしていたら、それを目にした葵さんからドン引きの声が飛んできた。


 だから俺は答えた。


 「感謝しているんですよ、この世の全てに」


 「ど、独特な感謝の仕方だね」


 「はい。自分、葵さんを見てると、ここの農家でバイトしてて良かったって、毎日思うんですよ」


 「え、えーっと、喜んでいいんだよね? なんかカズ君が言うと、素直に喜べないというかなんというか......」


 「どいひです」


 「今までの自分の立居振舞を思い返しなよ......」


 禿同。俺は親しい人に対しては、変態なところを一切隠していない。


 それどころか、むしろ進んでセクハラしに行ってる。


 だってセクハラは楽しいから。


 ああー、葵さんのおっぱいを揉みしだいてビンタしたい。オスを誘ってんのかと叱責したい。


 それくらい俺は変態野郎だ。


 俺はそんなことを思いながら、葵さんが軽トラの荷台から下ろそうとしていた荷物を代わりに持つことにした。


 荷物というのは、籠いっぱいに詰められたタマネギである。体感で十キログラム、いや十五キログラムは下らないといった重さだ。


 「自分が運びますよ。運ぶ場所は作業場でいいですね?」


 「あ、いや、いいよ! カズ君の服が汚れちゃうって!」


 そう言われて、俺は気づく。


 そういえば、俺はまだ作業着に着替えていなかった。


 私服姿で自宅からここまでやって来たんだった。中村家で着替えればいいかなって思って忘れてた。


 が、それでも俺は葵さんから半ば強引に荷物を受け取って、ここから少し離れた場所にある作業場へ運ぼうとする。


 葵さんがそんな俺に待ったを掛けようとした。


 「ちょ!」


 「大丈夫ですって。こんな重たい物運んで、葵さんにもしものことがあったら嫌ですよ」


 「うっ。本当にカズ君は......もう」


 葵さんはこれ以上言うこと無く、俺に大人しく荷物を渡してくれた。


 調子に乗った俺は、ついでに余計な一言も口にする。


 「それにこれくらいの荷物、片手で十分です」


 そう言ったバイト野郎は、本当に片手だけでタマネギの入った籠を持ち上げると、葵さんが慌てた様子でその籠を支えてきた。


 「あぶなッ! 怪我するよ?!」


 「はは、大丈夫ですって」


 葵さんが俺の片腕に抱き着いてくるかたちで、籠を両手で支えてきた。


 むにゅり。


 彼女のたわわに実ったスイカが俺の二の腕をその谷間に埋める。作業着という厚手の服装なのに、その柔らかさを損なっていない感触だ。


 しかし重い荷物を運んでいるのも事実。


 彼女の乳房を堪能している場合ではなく、危ないから葵さんには俺から離れてもらわないといけない


 「葵さん、本当に大丈夫ですから。離れてください」


 「......。」


 「葵さん?」


 彼女から返事が無いので再度呼んでみたのだが、またも返事無し。


 どうしたのかと彼女の顔を覗けば、葵さんは俺の右腕に抱き着いたまま真剣な面持ちになっている。


 「さすがカズ君......良い筋肉してる」


 「......。」


 そうだった。葵さんは筋肉フェチだった。


 どこでスイッチが入ってしまったのかわからないが、彼女は俺の露出した肌を見ると、非常に険しい顔つきをする。


 ガン見というやつだ。それも自重を知らないやつ。


 これで自分のおっぱいを見つめるなとか言うもんだから、見られてるこっちは抗議したくて仕方がなかった。


 「葵さん、離れてください。......葵さん!」


 「ひゃう?!」


 少し大きい声を出したら、葵さんが我に返った。


 「あの、これ運ぶので離れてくれません?」


 「ご、ごめんなさい」


 俺のお願いに大人しく引き下がってくれた葵さんは、その後、私服から作業着に着替えようと屋内に入った俺についてきて、バイト野郎の着替えウォッチを楽しむのであった。


 見た目は絶世の巨乳美女。


 されど中身は残念というのが中村 葵という女性である。

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