第7話 別の女? いいえ、こちらも彼女です
「え? 今日は一緒に帰れない?」
現在、一日の授業を終え、帰りの身支度を済ませた俺は、交際相手―――中村 陽菜が居る教室へ向かったのだが、一緒の帰宅を断られてしまった。
陽菜が両手を合わせて、俺に対して必死に謝ってきたのだ。
「ほんっとごめん! 実はこの後、桃花に宿題手伝ってもらう予定なの!!」
「え、ええー」
教室の前でそんな会話をする俺らは、なぜか注目を浴びてしまう。
おそらくその要因の一つとして、高身長の俺と、ミニマムボディの陽菜とのギャップがそれなりにあるからだろう。
必然と俺らカップルは目立ってしまうのだ。
クマさんとウサギさんが付き合ってる感じ。
「ごめんね、お兄さん。大好きな陽菜を盗っちゃって」
「あ、桃花ちゃん」
ちなみに、陽菜が口にした“桃花”というのは、俺らの間に入ってきたこの子のことである。
桃花ちゃんは、黒髪セミロングでその髪の耳元ら辺をピンで止めているのが特徴的な子だ。
静かにしていれば清楚系美女。が、口を開けば、そのイメージは一気に崩れ去る。
あとおっぱいが猛烈にデカい。平均を大きく上回るほどの巨乳だ。
俺はこの子の生意気なおっぱいを目にすると、常にしゃぶりつきたい衝動に駆られるが、交際相手が居る手前、それは実現されなかった。
そのデカさ、陽菜に謝った方がいいよ。うん。
「あの、お兄さん、いつも言ってるけど、話すときは人の目を見て話そうね。どこ見てんの」
「桃花ちゃんのおっぱい。じゃなくて、ちゃんと目を見て話してるよ」
「全然取り繕ってないし、言う割には目を見てすらいないよね」
とまぁ、桃花ちゃんは俺のセクハラを気にしないくらいに、
なんか上手いこと言えた気がする。
「和馬」
「ひゃう?!」
が、瞳からハイライトを消し去った陽菜に名前を呼ばれて、俺は我に返る。
「切っていい? 彼女の前で堂々と卑猥な行為に走ろうとする“和馬の和馬”を切っていい?」
駄目です。和馬さんの和馬さんはまだ役目を果たしておらず、切除されたら堪ったもんじゃありません。
俺は陽菜に誠心誠意込めて謝り、なんとか許してもらうことに成功した。
「ほんっと、お兄さんは相変わらず変態だねー」
「う、うるさいな」
「困ったものだわ。いつか逮捕されちゃう気がして仕方ないったらありゃしない」
うん、その可能性は俺も否定できないから困る。
俺は話を戻すことにした。
てか、陽菜が宿題終わっていないなら、俺が手伝ってもいいと思う。自慢じゃないが、俺はそこそこ頭が良い方だ。
「勉強なら俺が教えるぞ?」
「私もそうしたいんだけど......」
俺がそう言うと、陽菜は両手の人差し指の先を、つんつんと互いに突いて言いにくそうな表情を浮かべた。
彼女の代わりに答えたのは桃花ちゃんだ。
「ダメダメ。陽菜、そう言って以前も宿題終わらせられなかったでしょ? お兄さんとイチャついてたせいで」
「あ」
桃花ちゃんのその一言に、俺は間の抜けた声を漏らした。
思い出した。そうだ。
陽菜は俺によく宿題でわからない内容があると『教えて』と俺にお願いしてくる。
俺はすぐに教えたし、彼女もわかってくれた。宿題は普通に着々と進んでいった。
が、しかし。
途中で飽きが来た彼女は、俺に甘えてくるのだ。やれムラムラしてきちゃっただの、やれイキヌキしたいだのと言い出すのである。
じゃなくて、“息抜き”。イッてヌキヌキする方じゃないやつ。
で、結局は宿題そっち退けで、実践式保健体育でフィーバーしちゃう。
どっちみちイッてヌキヌキしちゃってんな。
「ということで、今日は陽菜が宿題終わらせるまで帰らせないから」
「ごめんなさいね、和馬。晩ご飯は外食で済ませてちょうだい」
「へーい」
「じ、自炊しなよ、お兄さん......」
俺は陽菜から晩ご飯代の千円札を二枚受け取った。
陽菜はいつも俺の家で晩ご飯を作ってくれているのだが、今日は致し方なく買い食いしろと俺にお金を渡してきたらしい。
俺が自分のお金を使って外食しろってか?
残念、俺にそんな金は無い。
いや、全くないことはないが、好きに使えるお金が少ないのだ。
というのも、バイトして稼いだお金は全部、陽菜が貯金管理するために吸収しているからである。
が、しかし、俺は陽菜から受け取ったこのお金を使って、晩ご飯を買おうとは思わない。
俺だって自炊くらいできる。今は陽菜に甘えっぱなしだけどな。
とりあえず、このお金はきちんと俺が貯めておこう。で、口では晩ご飯代に使うと言おう。
俺がそんなことを考えていると、不意に周囲がざわついていることに気づく。
「お、おい。今、あの人......」
「ああ、三年の高橋さんだろ。今年の生徒会長」
「後輩女子からお金をゆすらなかったか?」
「しかも晩ご飯代って」
ゆすってません。
くっそ。周りの生徒は、三年の俺が後輩である陽菜からお金を巻き上げたと思ってんのか。
俺は陽菜に貯金管理されてんだぞ。でも、そんな事情を知らない連中は言いたい放題だ。
それもこれも俺がヤリチンクソクズ野郎だからか。くそうくそう。
「お兄さん、大変そうだね......ぶふ」
などと、俺を憐れむ桃花ちゃんはどこか楽しげだった。
*****
「あの子可愛くね? うちの制服じゃないけど」
「どこの高校だろ」
「見て! あの子すごく可愛い!」
「うわ、本当だ。芸能人か?」
陽菜たちと別れ、俺は一人で下校しようと校門へ向かったが、そこに近づくに連れて、少なくない人数の生徒たちがある方向に釘付けのことに気づく。
つられて俺もその方向に目を向けると、そこには一人の少女が校門の入り口付近に立っていた。
艶のある黒髪はハーフアップに結っており、赤色のインナーカラーが特徴的な子だ。
女性特有の年相応な膨らみが見受けられ、非常にバランスの取れたプロポーションと言えるだろう。
また少女のくりっとした瞳は愛らしく、ただ立っているだけで視線を奪われてしまう魅力がある。
そして誰かが言ったように、彼女の服装は我が校の制服ではなかった。
つまり他校の女子生徒。可憐な少女が校門前に立っていたのである。それもスマホを片手に。退屈そうに。
まるで誰かを待っているような――。
「あ」
あ。
少女と目が合った。
先方は俺と同じく、間の抜けた声を漏らした。少女はふと視線を辺りに向けただけで、たまたまその視界に俺の姿が入った模様。
途端、少女はまるで太陽のような明るい笑みを浮かべた。
「兄さん!」
彼女が早歩きでこちらへやってきた。
それに伴い、周囲に居る生徒たちの視線もこちらへ向けられる。
さて、ここで一つ主張したいことがある。
俺に兄妹はいない。だから目の前の可愛い女の子が、俺に対してまるで一緒に生まれ育った兄と遭遇したように喜ぶことはないはずだ。
ないはずだが、
「ち、千沙。うお?!」
「はい! 兄さんの可愛い可愛い妹、千沙です!」
俺は出会い頭に、そんな少女にぎゅーっとハグされた。
千沙と呼ばれる少女は、フルネームだと中村 千沙である。
そう、あの中村さんだ。
んでもって、俺の名字は高橋。両親は別に離婚したとか複雑な関係を持っていない。
それを踏まえての高橋と中村。
これで兄と妹の関係が成り立つのか。
結論を言えば、成り立っちゃうのである。
「お、おま、学校は? なんでここに......」
「学校は午前で終わりました。その後、直接兄さんが通うこの高校に来ました。ちょうど下校時間で良かったです」
俺から離れた彼女はそう言いながら、ごく自然な動作で、自身の肩に掛けていたスクールバッグを俺に押し付けてきた。
私の荷物を持て、と言わんばかりである。図々しいことこの上ない。
俺は何も言わずにそれを受け取った。
「遠いのによく来たな......」
「兄さんに会いたかったので」
さ、さいですか......。
で、話を戻すが、高橋と中村は兄妹の関係を作れた。
血は繋がってないけど、兄妹である。
そんでもって――。
千沙は妖艶な笑みを浮かべて言った。
「ふふ。今日は寝かせませんからね、兄さん」
......そんでもって、俺らは交際している。
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