第6話 それでも僕はヤッていない

 「はい、あーん」


 「あーん」


 現在、午前中の授業を終え、お昼休憩の時間帯を迎えた俺は、わざわざ別の教室からやってきた陽菜と一緒に、自分のクラスでお弁当を食べていた。


 机の上に広げられたお弁当箱からでもわかる手の込んだおかずの数々......。


 唐揚げは中まで味が染み込んでおり、卵焼きは俺好みに甘く、また絶妙な酸味と瑞々しさを兼ね備えたミニトマトもお弁当を彩っていた。


 これらを全て彼女が手掛けたというのが、さすがと言わざるを得ない女子力である。


 うちの彼女、ヤバいんですよ。


 「くそッ。あんな見せつけるようにイチャつきやがって!」


 「生徒会長、死ねばいいのにな」


 「中村ちゃんもなんであんな男を......」


 などと、周りのクラスメイトから嫉まれるほど、俺は最高の彼女と所かまわずイチャついている。


 俺がにやけながら甘々なランチタイムを送っていると、不意に横からジト目で睨まれている気がした。


 「なぁ、俺、ここに居づらいんだが......」


 山田 裕二。俺の友人である。


 こいつとは何の縁か、一、ニ、三年生と全て同じクラスになってしまった。


 ちなみに山田 裕二君は超絶イケメン男子高校生である。


 どれくらいかって言うと、彼の知らない所でファンクラブがあるほどで、実際、めっちゃモテて、過去に幾度となく異性から告白され続けた男だ。


 が、以前も述べたように、彼は元生徒会長の西園寺 美咲さんの忠実なる奴隷である。


 また裕二はその奴隷という属性に加えて―――ヤリチン野郎でもある。


 「なんで居づらいんだ?」


 「おま、それわかってて聞いてるだろ」


 「全ぜ〜ん」


 「殴っていい?」


 山田 裕二という男は、どうしようもないヤリチン野郎だ。


 初体験は○学四年生だったとのこと。その体験が相当素晴らしかったのだろう。彼は性に忠実な腰振り猿と化してしまった。


 幼馴染みの俺を置いて、彼は数段飛ばして大人の階段を上っていった。


 が、そんな彼でも彼女は居ない。


 本人曰く、作らないとのこと。


 なんでも特定の誰かとくっ付いたら、他の女を抱けなくなってしまう......らしい。


 正真正銘のクズ野郎である。


 なんでこいつがヤリチンクソクズ野郎と呼ばれないのかが不思議で仕方がない。


 なんかこいつの分の悪い噂も俺に来ちゃってる気さえする。


 でも初体験を済ませた○学四年生から、今まで密かにヤリチン野郎を貫いてきたんだ。彼の立ち回りが上手かったと言えるだろう。


 ちなみに裕二がどれくらいヤリチン野郎かって言うと、本日のお昼ごはんが白米オンリーになるくらいである。


 「お前、そんな白米だけで大丈夫なの?」


 「? 腹が膨れれば問題無いぞ」


 「い、いや、その、栄養面というかなんというか......」


 「ならおかずちょーだい!」


 そう言って裕二が、俺のお弁当の中へと箸を伸ばすと、その伸ばした手を陽菜に掴まれてしまった。


 「和馬のために作ったお弁当です。和馬のために」


 「いでで! わ、わかったよ。悪かったって」


 涙目になりながら手を引っ込めた裕二が、若干可哀想に見えてくる気がしないでもない。


 裕二はな、こうして昼食代をケチるほど、貯金に余裕がないのだ。


 その昼食代とやらは親から貰っているらしいのだが、それを使わずに貯金しておき、密かに白米だけを自宅から持ってきて、それを昼食としている奴である。


 曰く、ホテル代とかゴム代とか色々と使うからさぁ、昼食代もケチらないと〜、と。


 正真正銘のクズ野郎である。


 そんな裕二は今を生きるのに必死だ。逞しいったらありゃしない。


 「しっかし、ほんっと二人は仲良いよなぁ」


 不意に裕二が俺らのイチャラブっぷりを見て、そんなことを言ってきた。


 「まぁね」


 「まぁな」


 「はは。羨ましいことで。......ってことは、結構進んだ?」


 などと、下種な笑みを浮かべる我が友は、下ネタ大好き人間だ。


 食事中でも、男女のそういった話が聞きたくて仕方がないらしい。


 答えは言うまでもなく......俺は依然として童貞である。


 こんな美少女が彼女なのに、俺はセッ○スしたことがないのだ。


 これには深い訳があるんだ......。


 「シたことありませんね。まだ」


 「くはー! まだかよ、和馬さんよぉ!」


 「......。」


 そしてうちの彼女も下ネタ大好き人間である。


 一応、山田は先輩だから敬語を使っているみたいだけど、それでも話せる内容にこだわりは一切無い。


 「キスとかハグはとっくに済ませました。あとコレも......」


 そう言いかけた陽菜は、お弁当のおかずのうちソーセージを箸で摘み上げて、それを自身の口に含めた。


 噛まずに出し入れする様は、まるでフェ○チオのようだった。


 てか、それしか思いつかないジェスチャーだった。


 裕二はそれを見て、ごくりと生唾を飲み込み、今度は俺をまるで信じられないと言わんばかりの目つきで見つめてくる。


 「彼女とそこまでしておいて......おま、マジかよ......」


 「......。」


 ぐうの音も出ないよ。我ながらびっくりだ。


 彼女に己の男根を咥えさせたのに、未だに童貞。そこまでしたら変わらんやろ、と言われれば、そうに違いないんだけど......。


 とりあえず、居た堪れない気持ちに駆られた俺は、この話はお終いと言わんばかりに手を叩いた。


 「はいはい。下ネタはそこまで。飯が不味くなる」


 「とか言って、あんたこの前、自分が朝食摂っている間に、私に朝勃ちの性処理を――ふぐ?!」


 「あーん!! しようか! マイハニー!!」 


 などと、周りに人が居る中で、とんでもないことを口走りそうになった陽菜の口に、一際大きめの唐揚げをぶち込む俺であった。

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