第3話 選ばれたのは、無駄にスペックの高いクズ男でした?
「ふ、ふざけるな!!」
誰かがそう叫んだ。
この静まり返った体育館の中で、全校生徒、先生たちが居る中でそう叫んだ。
きっと声からして男子生徒なのだろう。
気持ちはわかる。
痛いほどわかる。
だって、
「高橋 和馬が生徒会長なんて絶対に認めないからな!!」
俺だって嫌だもん、生徒会長になるの。
******
「そうよ! 私だって嫌!」
「あんなクズ男を生徒会長にしたらこの世の終わりよ!!」
「そーだそーだ!」
「そもそも生徒会長は生徒会総選挙で決めるんだぞ!」
「横暴すぎる!」
などと、あっちこっちで俺が生徒会長になることに、猛反発する生徒たちが異を唱えた。
そりゃあそうだ。自慢じゃないが、俺にはある噂がある。
それはどうしようもないクズ人間で、ヤリチン男という噂が。
なんでそんな噂が広まったのかというと、説明すると長くなるので割愛するが、その諸悪の根源は、あの壇上に居る西園寺 美咲さんも関わっている。
あの女が七割くらい悪いって感じ。
「西園寺会長! 目を覚ましてください!」
「高橋 和馬を生徒会長にしたら、女子生徒が危険です!」
「きっと権力を行使して、風紀を乱すに違いありません!」
「もしかして、高橋 和馬に弱みでも握らているんですか!!」
「なんて最低な......」
「きっとそうだ! じゃなきゃ、あの完璧生徒会長が、金玉に脳みそが詰まったような男を推すわけない! 常軌を逸してる!」
「ああ、正気の沙汰じゃないぞ!」
などと、いつの間にか、文句の矛先が巨乳会長ではなく、和馬さんへ向けられるという始末に。
俺ら生徒は文句こそ声を大にして言っているが、全員整列をしっかりと保ったままだ。
無論、俺も例外じゃない。
俺がどの列のどの辺りに並んでいるのか、なんて知っている人には知られている訳である。
だからか、周囲からまるでゴミでも見るかのような視線を一身に浴びてしまう和馬さんとなった。
「お、おい。これはさすがにヤバくないか?」
が、しかし、こんな俺でも心配してくれるような友人は少なからず居て、その人物とやらは整列している俺の前に居る男、山田 裕二である。
俺は裕二の問いに答えた。
「ヤバいも何も、俺も初耳だよ。なんで俺が生徒会長になるんだ」
「その様子だと、当の本人であるお前も知らされていないのか......」
「当たり前だ。生徒会長なんて面倒くさそうなの、俺がやるわけないだろ」
「だよな。長い付き合いだ。お前がそんな人間じゃないってことくらい、俺だってわかりきってる」
「......一応、味方してくれているんだよな?」
「もちろんだ。俺ら親友だろ?」
「あ、ああ。ちょっとお前の物言いが気になっただけだ」
「ったく。なんで女王様は、こんなクズ男を生徒会長にするって言い出したんだ」
もっかい聞きたい。
俺とお前は付き合いの長い友達だよな?
クズ男って真っ向から言われた気がするんだが。
ちなみに裕二が女王様というのは、西園寺 美咲さんのことである。なんで裕二が彼女をそう呼ぶのかは、また別の話だ。
無論、男が女を“女王様”と呼ぶからには、それなりの関係があるのことを否定できない。
鞭と赤いロウソクに興奮した様子の友人を、俺はもう二度と思い出したくないんだ。
「とりあえず、女王様が勝手に決めたことで、和馬が関わり無いってことくらいは主張するか」
裕二、お前って奴は......最高の親友だよ。
我が親友はすぅっと息を大きく吸ってから叫んだ。
「高橋 和馬は、生徒会長になりたい、などと一言も言った記憶はございませんと主張しておりまぁぁぁああああす!!」
前言撤回。
おま、ちょ、それは駄目だろ。
事実はそうだとしても、昨今の“記憶にございません”の使い方から、その言い方は駄目だろ。
裕二が部活で鍛えた喉でそう叫ぶと、周囲の生徒たちのざわつきが悪化した。
「ま、マジかよ。ここで無関係を主張するとか......」
「やっぱり影で生徒会長と繋がっていたのは本当なの?」
「最低すぎる......」
「いったい西園寺さんのどんな弱みを握って、彼女に自分のナニを握らせたんだ......」
ほら、なんか俺は微塵も悪くないのに、すごい偏見を持たれてしまったじゃないか。
てか、最後のやつ、なにどさくさに紛れて下ネタ言ってんだ。出てこいや。頭かち割ってやる。
「静粛に」
すると、壇上の生徒会長が、片手を上げて騒がしくしていた生徒たちを制した。
あんだけ文句を重ねてきた連中も、生徒会長のその素振りだけで黙るものだから、彼女はやはりそれだけ影響力のある人間と言えるだろう。
「生徒会長に求められる素質は、大きく分けて二つある」
彼女は上げた片手の人差し指だけを立てて続けた。
「他者と共存・協力をして、皆でこの学校をより良くしていこうと考える素質」
そして今度は中指も立てて続けた。
「他者より優れた才能で皆を導き、この学校をより良くしていこうとする素質」
彼女は少し残念そうな顔つきになって語り続けた。
「ワタシは後者に部類するだろう。常に自分が思う最善を選んで、今までやってきた。結果、例年より生徒たちは充実した日々を過ごしてきたと自負している」
すげぇ自重しねぇお言葉だ。
が、それでも生徒たちは黙って、彼女の話を聞いていた。
「だからワタシは......後者しか知らない人間だ。必然、後継者もその才覚を求めてしまう。現状、それが可能な人間は、高橋 和馬という男だけだと思っている」
何一つ迷いのない物言いで、生徒会長は止まることを知らなかった。
「きっと前者の方が、この社会の縮図とも言える学生生活にとって適切な存在なのだろう。だがそれでもワタシは主張したい」
彼女は演台に両手をダンッと音を立ててから言った。
「圧倒的なカリスマ性は、必ず皆を幸せにすると確信している。なぜならワタシがそうだったからだ」
そして最後に、壇上に居る西園寺 美咲さんは、頭を下げて告げた。
「しかし彼がワタシほどの才覚を持っているという保証は、残念ながら断言できない。だから彼の足りない部分は、皆が埋めていってほしい。きっとそれが――両方の素質を兼ね備えることに繋がるはずだから」
彼女がそう言い終えた後、しばらくの間、この場は沈黙に支配された。
しかしどこからか、パチパチと手と手を叩くような音が聞こえてくる。
拍手だ。
それも一人や二人の話ではない。
「生徒会長がそこまで言うのでしたら......クズ男ですけど」
「少しは......認めてやっても良い......最低な奴だがな」
「西園寺さん、卒業しないでー!」
「俺、一生ついていきますぅ!」
「女王様、ばんざぁぁぁああい!!」
などと、先程までの野次はどこへ行ったのやら。
会長がしたことって、勝手に俺を推薦(確定)して、何故か俺が誹謗中傷受けて、俺が悪役のように仕立てられたのを庇ったかのようにして、感動を集めただけだよな。
拍手が飛び交う中、俺は呆然と立ち尽くしていた。
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