第2話 生徒会長になるまで

 「次の生徒会長、ワタシは高橋 和馬を任命したい」


 「「「......。」」」


 壇上から放たれたその一言に、場が静まり返る。


 真冬というクソ寒い時期、とある女子生徒のそんな声が体育館の中に響き渡った。


 その声は透き通るように美しく、またその声を発した張本人も見目麗しい女性だ。


 ショートボブが特徴の、ぱっと見ではとてもじゃないが、高校生には見えないほど大人びた人物である。


 また彼女のグラビアアイドル顔負けのプロポーションも手伝ってか、影では多くの男子生徒から“巨乳会長”と呼ばれていた。


 少なくとも俺はそう呼んでいた。


 そんな巨乳会長の名前は、西園寺 美咲。


 これは、その人がまだ生徒会長だったときの話である。



*******



 「次の生徒会長、ワタシは高橋 和馬を任命したい」


 「「「......。」」」


 再度繰り返された生徒会長のセリフ。


 高橋 和馬という男が高校二年生後半、冬期休暇を終えたことにより、高校生活も折り返してきたなと実感してきた頃の出来事である。


 始業式を迎え、校長の長い話を聞き終えた後に、生徒会長からの有り難いお言葉。


 ここ、体育館には全校生徒並びに教師たちが集められ、人口密度がかなりあった。


 かなりあったのだが、誰一人として生徒会長が放った一言に、反応を示せなかったのだ。


 だから生徒会長こと西園寺 美咲さんは同じ言葉を繰り返した。


 「次の生徒会長、ワタシは高橋 和馬を任命


 あ、違った。


 最後の方、“したい”から“する”になった。同じセリフじゃなかった。


 誰も反応しないから、生徒会長が寂しくてセリフ変えちゃったよ。


 ちょ、マジで、なんなん。


 どっからツッコんでいいかわからない。


 全然理解が追いつかないよ。


 え、は?


 次の生徒会長が誰だって?


 俺? は?


 「お、おい。今、西園寺さん、次の生徒会長を高橋 和馬に任命するって......俺の聞き間違いか?」


 「い、いや、俺も聞いた」


 「私も」


 どうやら巨乳会長の言葉に誰もが混乱していた模様。


 見れば、この空間の端の方に立っている教師陣の反応も例外じゃなかった。


 いや、例外であってくれよ。そこは例外じゃ駄目だろ。


 周囲がざわめく中、巨乳会長が片手を上げてそれを制した。


 「混乱する気持ちもわかる。しかしワタシの話を落ち着いて聞いほしい」


 そう言って、巨乳会長が上げた手の指をパチンと鳴らした。


 するとどういう仕掛けか、会長の後ろにある大きなプロジェクター用スクリーンに何か映し出された。


 なにその演出。


 真っ白だったスクリーンに映し出されたのは......よくわからない統計グラフだった。


 「映っているのは、ワタシが生徒会長に就任してから築き上げてきた、今までの数々の功績だ」


 このグラフそうなの。


 「例として、ここ」


 そして巨乳会長はどこから取り出したのか、指示棒を手にして、その先端をスクリーンのとある箇所を指し示した。


 「ワタシが就任してニヶ月後の行事、球技大会だ。以前までは通常の授業がある平日のスケジュールを元に行っていたが、それを全校生徒アンケートの下、ワタシの代から変更した。具体的には――」


 そこから淡々と語り続いたのが、彼女が今まで積み上げてきた実績の数々である。


 俺たちは始業式にいったい何を聞かせられているんだろう。


 元々、生徒会長含め、次代の生徒会の各役員を決めるのは生徒会選挙のはずなのに。


 ちなみに壇上に居る美女、西園寺 美咲さんは才色兼備という言葉が相応しい人物である。きっとそれは俺だけじゃない。誰もが認めることだ。


 だからああして、


 「またクラスTシャツの締切を五月中に行うことで、以降の行事に着用できるため、よりクラス一丸となって取り組めたという評価も貰った――」


 自身の積み上げてきた実績を、ああまで自信満々に語れるのだ。


 ひとしきり彼女のプレゼンが終わると、まとめとして再び彼女は口にする。


 「以上から、ワタシのこれまでの経験に基づき、結果を出してきた経緯を考えると、生徒会長には必然とそれ相応の能力が必要になってくると思われる」


 そして再び結論を口にした。


 「それがワタシの次に叶いそうなのが、――高橋 和馬だ。異論は認めない。どうしても納得がいかなければ......ふふ、ワタシと彼を敵にしてみるといい。きっと後悔するさ」


 あの、僕、被害者なんですけど......。


 内心で白目をむくしかできない俺であった。

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