第1話 終わりの始まり?

 「おはよう」


 俺は目の前のカップルと思しき、一組の男女たちに向けて、笑みを浮かべながら挨拶をした。


 「お、お」


 天気は晴れ。始業式から数日が経った今日は、暖かいを通り越して少し暑く感じてしまうほど天候に恵まれている。


 ここ、市立 学々高等学校はとある田舎にある高校で、その周辺環境から今日も平穏な日々を送っていた。


 ちなみにこの高校がある市は、“ど”が付くほどの田舎でもない。そこそこの人口を誇る。


 あまり基準になるかわからないが、“熊出没注意”の看板があるくらいには、田舎っちゃ田舎な場所だ。


 そんな田舎にある高校で、俺、高橋 和馬は三年生の春を迎えていた。


 「お、おおお」


 「“お”?」


 今は一限目より前、各学年の朝会が始まるまでまだ少し時間がある頃合いで、俺は校門前に立っていた。


 朝の挨拶運動である。


 登校してくる生徒たちに対して、爽やかな笑みを浮かべ、穏やかな口調で挨拶を交わす運動である。


 こちらが“おはよう”と言ったら、あちらが“おはよう”と返してくる、平穏極まりない運動である。


 なのに、


 「お、お、おおお助けぇぇぇえええ!!!」


 「え゛」


 なぜか逃げられてしまった。


 おはようって言ったのに、お助けぇ!って叫ばれながら逃げられてしまった。


 あまりの出来事に、思わず俺の口から間の抜けた声が漏れてしまった。


 逃げたのは、カップルのうち彼氏君の方である。


 俺はなぜか逃げるようにして走り去った彼氏の背を見送った後、視線だけを彼女の方に移した。


 彼女さんの方は依然として、俺の前に立ち尽くしていた。


 移した視線の先で、彼女さんと目が合う。


 「あ、あぅ」


 「?」


 俺が視線だけ移したのが悪かったのか、先方はガクブルと身を震わせていた。


 特に両足の震えがすごい。


 彼女の制服スカートから見えるハリのある生足が、めっちゃ震えていた。


 生まれたての子鹿みたい。


 しかしなんで彼女さんは震えているのだろうか。


 さっきの彼氏さんもそう。なんか俺を見て逃げ出した感じがするんだよな。


 俺、目つき悪いとか言われたこと無いんだけどなぁ。あ、いや、何回かあるかな? それに相手は一年生だ。今年入学したばっかの一年生。


 だから三年生である俺が怖がられしまうのも......仕方ない、のかもしれない。


 うーん、でも......。


 と、そんなことを考えながら、俺は女子生徒の両足を見つめていた。


 そしてあることを思いつく。


 もしかして――この子はトイレに行きたいのかな、と。


 入学式を終えてから数日経つが、もしかしたらこの校門付近から一番近いトイレの場所を知らないのかもしれない。


 よし、なら案内しよう。


 なんたって、俺は三年生せんぱいだから!!


 「君」


 「はひッ?!」


 彼女さんの名前がわからなかったので、俺は目の前の女子生徒を“君”と呼んだ。


 そこで俺は、自身が眼の前の女子生徒とかなり身長差があることに気づく。


 もしかしたら俺が中腰になって話しかけた方が良いのかもしれない。


 無駄に俺の身長があるせいで、威圧感とか出ちゃってる可能性大だ。


 でも相手は歳は違えど、同じ高校生。そんな園児や小学生に対してやるような行為は、彼女の尊厳のためにも控えるべきだろう。


 だから俺はこのまま見下ろすようにして、会話を続けた。


 できるだけ笑顔で。


 透き通るような声で。


 「もしかして......トイレ行きたい?」


 「っ?!」


 彼女さんの震えが増した。


 その、俺から話しかけて悪いけど、そんな怖がられたら俺も困る......。


 それにほら、登校時間のピークが過ぎたとはいえ、まだ周りには人が居るんだしさ......。


 やがて彼女は何か意を決したのか、瞳に涙を浮かばせながら口を開いた。


 「お、お、おお」


 「“お”?」


 あ、これ、“おはよう”って返ってくるやつだ。俺知ってる。


 だってさっき、俺から“おはよう”って言ったもん。朝の挨拶運動だもん。


 なら時間差はあったけど、挨拶が返ってきてもおかしくはないよね。


 しかしこんなに震えちゃってまぁ......。そんなに無理して挨拶返さなくてもいいのにね。


 などと、内心苦笑しながら、俺は彼女さんから返ってくる挨拶を待っていた。


 が、


 「お、おね、お願い......します。今日は......き、危険日なんです」


 「......。」


 返ってきたのは挨拶ではなく、命乞いだった。


 この子はいったい何を言っているのだろうか。


 まるで強姦魔にでも遭遇したような怯え様で言ってきているが、俺は強姦魔でもなんでもない。


 むしろその真逆。俺は童貞だぞ☆


 ぐすん。


 「ちょっと聞いた? 今、あの子、生徒会長に......」


 「聞いた聞いた。ってことは、あの噂は本当なの?」


 っ?!


 俺はハッとして周囲を見渡す。


 校門前にはまだ決して少なくない数の生徒たちが居た。


 その誰もが、俺と目の前の女子生徒のやり取りを目撃したらしい。周囲に居る一部の生徒と目が合うと、先方がサッと目をそらした。


 俺は冷や汗をかいた。


 しかし周りの生徒たちはひそひそ話を止めない。


 「やっぱり噂は本当だったのか!」


 「しッ! 聞こえるって!」


 「それにあの子、さっきまで彼氏と一緒に居た子だよな?」


 「え、じゃあ、彼氏から奪ったってこと?! 今?! ここで?!」


 「可哀想......」


 おい。どこをどう解釈したらそうなる。


 とんでもない解釈したやつ出てこい。


 「許してくださいぃぃ!!」


 「あ、ちょ! ま、待って!!」


 すると、俺が意識を周囲に居る生徒たちへ向けていたからか、目の前にいた女子生徒が脱兎の如く、走り去ってしまった。


 あらぬ誤解を抱いたまま、昇降口へタッチダウン。


 あまりアメフトには詳しくないが、彼女さんが電光石火を思わせる勢いで、下駄箱へ辿り着き、自身の靴と上履きを屈んで入れ替える様はタッチダウンさながらだった。


 よくわからんけど。


 「おい。俺たちも早く行こうぜ」


 「ああ、生徒会長になんかされないうちに行くか」


 「安心しろ。生徒会長は男じゃなくて女が大好物だからな(笑)」


 周囲のざわめきは落ち着きを取り戻して、登校してきた生徒たちは次々と昇降口へと流れていった。


 おかしい。おかしいぞ。


 俺は朝の挨拶運動をしたんだ。


 白昼堂々ネトラレ運動をした覚えはない。


 “おはよう”って言ったら、“おはよう”が返ってくる運動なのに......。


 俺は悔しさから唇を噛み締めた。


 「ね、ねぇ見て。生徒会長、すごく悔しそうな顔してる......」


 「ヤリチンクソクズ野郎でもナンパに失敗しちゃったら悔しいものね......」


 踏んだり蹴ったりにも程があるだろ。


 すると、そんな俺の下へ、近くに居た男性教師がやってきて、何事かと問い質してきた。


 「せ、生徒会長。今すごい勢いで女子生徒が校内に......いったい何があったんだ?」


 若干上擦ったような声で言う教師の言葉に、俺は俯いた。


 「お、おい。聞いてるのか? 生徒会ちょ――」


 「先生」


 彼の言葉を遮り、俺は口にする。


 頬を伝う悔し涙を意識しないよう、震える声を矯正しながら吐露する。


 「そつ、ぎょう......したいです」


 「そ、卒業ってお前......。まだ三年生になったばっかだろ......」


 そうじゃない。そうじゃないんだよぉ。



――――――――――――



ども! おてんと(作者) です。


はじめまして、もしくはお久しぶりです。


なので、今一度改めて確認します。


ド下ネタ連発の作品ですので、苦手な方はオススメしません。

大好物な方は......。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

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