いつかこんな晴れた日

尾八原ジュージ

こんな日

 おれの兄は何年か前、とりたての運転免許で親友だった男とドライブに出かけて、ハンドル操作を誤って車ごと海に落ちちゃった。

 こんなよく晴れた空の青い日でさ、ドライブレコーダーが車内の声を拾ってたんだが、海に沈む車内でしきりに謝る兄貴に、親友の男が「気にするな! おれはこんな日にお前と死ねるなら本望だ!」ってでかい声で言ってんだよな。そんで最後には二人でげらげら笑ってさ。

 いや、兄貴は生きてるよ。運良く救助されたんだ。でも、残念ながら親友は間に合わなかった。

 だから兄貴、ずっと後悔してんだよな。お前と死ねたら本望って言ってもらえたのに、自分だけ生き残っちゃったんだもんな。隙あらば自殺しようとするもんで、おれはもう死にものぐるいだったよ。だってうち、おやじもおふくろも死んじゃって兄弟ふたりぼっちだもん。兄貴にまで死なれたくなくってさぁ。でも、死なせてやりゃよかったかもな。

 兄は今、病院だよ。ずっと入院してる。家で面倒見ようと思ったんだけど、おれも仕事とか行かなきゃなんないから到底駄目でさ。仕方ないから毎日見舞いに行くんだ。最近ようやく、お前がいるなら生きててよかったって、そんなこと言うようになったのに。

 駄目だねぇ、おれは。

 もうこんなに車沈んじゃって、ドア開かないし、窓の外なんか全部水だし。まぁいいか、こんな天気のいい日にお前みたいな友達と死ねたら本望か。ははは。ああ、ごめんな兄ちゃん。おれ今日見舞い行けないわ。無理言って生かしといてごめんな。本当にごめん。ごめんな。お先に。

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