続々々々々々・後輩と子供の頃遊んだことがあるとか気づくわけがない


 「なかおみさちゃんのママいませんかー」


 みさちゃんの手を引いたシオンは、最初のうちは名前を呼びながら探していて大人も声をかけてくれていたが当然公園にいる大人は皆子連れで中々足を止めてくれる人はいなかった。


 一時間ほど歩きまわってあきらめかけたシオンは疲れたというみさちゃんの言葉にすぐにそばに目についたベンチに腰掛けた。

 その場所からは公園内を流れる川が見えている。

 水場に近づくなと言われていたシオンだが距離は離れているし大丈夫と思いウェストポーチを開けて水筒を取り出そうとする。つないでいた手を離すと手は汗でじんわりとにじんでいた。


 麦茶を二人で飲んだシオンはもう祖父の家に連れ帰った方が良いんじゃないかとも考えたがそれはみさちゃんのママがみさちゃんの居ない公園を探し続けると思うと中々それを実行に移せない。


 そしてそれは突然の出来事だった。


 「あっイルカさんだっ!」


 唐突な言葉にシオンは反応できなかったがみさちゃんが川へ向かって走り出した。


 膝の上に水筒を置いていたシオンはそれにとっさに反応できず、気が付いた時には、ベンチと川の中間辺りまで走ってしまっている。


 焦ったシオンは立ち上がるとみさちゃんを追いかけた。


 膝から転がり落ちた水筒が地面へと落ちて跳ねるが気にせず追いかけた。


 結果何とか追い付き抱きとめることができた。


 川までの距離は50センチもなく転べばそのまま川に落ちていたかもしれない。


 「…危ないだろ、急にどうしたんだよ?」


 「だってだってイルカさんが跳ねたから…」


 みさちゃんの話を聞いたが川にイルカがいるはずもない。


 「美咲っ!!」


 あまりの焦りから川辺でみさちゃんを抱きかかえるような形のまま話していたシオンの後ろから女性の大きな声がした。


 「なにしてるんですかっ?」


 そういうと、女性はみさちゃんをひったくるように抱きかかえると子供に対する怒鳴り方とは思えない目でシオンを睨み付けた。


 そこからは本当に大変だった。


 警察を呼ばれ子供のシオンにはどうすることもできず、祖父を呼ばれ大騒ぎになった。


 「あのね。おかあさん。気持ちはわかるけど、そもそも目を離した自分が悪いんでしょ?だいたい小学生の男の子がさらったりするなんて早々ないですよ。もう少し確認を取って冷静に…」


 「まあまあ、それだけお子さんが大事だったという事じゃないですか、うちは気にしてませんから。」


 おまわりさんに怒られていたみさちゃんのママだと言う女性は何度も頭を下げていたがそれを祖父が制止した。


 「しおん君ごめんね。おばちゃん気が動転しちゃって…」


 シオンに目線をあわせて少しだけかがんだみさちゃんのママはシオンに必死に謝る。


 「おれは、男なんで大丈夫です。」


 「お前はかっこつけてるんじゃない。」


 ごつんとシオンは祖父からの拳骨を食らう。


 「いてっ」


 「それでどうして川に向かってお嬢さんが走ったか、おまわりさんとお母さんに説明しなさい。」


 「みさちゃんのママを探してて疲れたっていうからベンチで休んでたんだ。そしたら急にイルカだっていって川に向かって走り出して、追いかけたんだけど、なんとかおいついたんだけど、もう川のそばで…」


 「はぁ、うちの子、水場で何かが跳ねるとすぐにイルカだと思ってしまって、本当に申し訳ございません。」


 すぐそばのベンチに座っていたみさちゃんがシオンに駆け寄ってきた。


 「あのねお兄ちゃんはわるくないんだよ!お兄ちゃんはママを一緒に探してくれてそれで、それで…」


 目に涙をいっぱいにためたみさちゃんを見ると先ほどみさちゃんのママがしていたのと同じように身をかがめて目線を合わせて頭にてを置いた。


 「お兄ちゃんは大丈夫だよ。みさちゃんはイルカが好きなんだね。俺もイルカ好きだから見たかったなぁ。」


 と言うと、みさちゃんは溜めた涙を腕でぬぐうとシオンの頬にキスをした。



 一連の流れに警察も祖父もみさちゃんのママも納得し、その場は大きな問題にならずに済んだが一歩間違えばみさちゃんが死んでいたかもしれないと帰りの車でシオンはめちゃくちゃに怒られたが、最後よく助けたと褒められた。


 シオンはそれがうれしくてたまらなかった。


------------------------------


最後までお読みいただきありがとうございます。

応援やフォロー大変励みになります。

良ければ簡単な感想コメント批評もお待ちしております。

誤字、脱字には気を付けておりますが教えていただけますとうれしいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る