後輩と子供の頃遊んだことがあるとか気づくわけがない


 《ガラガラガラ》

 

 ミサキと外に出たシオンは蛇腹式の門扉を開けて車を出すと家の前へとつけた。


 車が無くなり空いたスペースに真っ赤な自転車を端に寄せて適当に停めると門を閉じた。


 ミサキは、ぼけっとそれを眺めていた。


 「もう遅いからとっとと帰るぞー。」


 それだけ言って助手席側に回ったシオンはミサキを手招きする。


 いつものようにちょこちょこと走ってきたミサキから荷物を受け取ると後部座席に置いて助手席のドアを開けた。


 かなり紳士的で自然な流れで動いていた。

 そんなシオンの行動に驚いたのか緊張したのかミサキは再び固まっている。


 「ん?助手席のるの嫌か?別に後ろでもいいけど…」


 道案内が不便かもとシオンは考えたが、ナビやスマートフォンな地図アプリもある。面倒かもしれないが嫌と言うのなら後ろでも構わないと思った。


 「いいえ、みさ…じゃなかったわたしは、先輩の隣がいいですっ。」


 ミサキの一人称は普段みさきだがアルバイト先など外では私といっている。

 この日は焦ることが多く気が抜けて「みさき」と何度も言っている。

 シオンはそれに気が付いていたが特に指摘したりはなかった。

 

 当のミサキは今初めて間違えて言いそうになったことを認識し、言い直した。


 「ハイハイそれじゃ早く乗れよ。」


 促されるままミサキは車に乗り込む。

 レイジの車は小柄なミサキにとっては乗りづらいSUVと呼ばれる大きめの車だった。


 「そこの取っ手につかまるといいぞ。」


 シオンは乗りづらそうにしているミサキを見て、教えるとシートに収まったのを確認して「閉めるぞー」と言ってドアをし閉めた。


 シオンは運転席側に回りこむとそこに乗り込む。


 レイジとは体格が違うのでサイドミラーやルームミラーの位置を調整をしてミサキの方を見る。


 シートベルトがうまくつけられないようだ。


 シオンは自分のシートベルトを外すと、上半身を助手席に乗り出してアームレストに左手を置いてシートベルトを回してやる。


 その時、二人は非常階段ですれ違った時より近くなるミサキの顔は真っ赤だ。


 シオンもこの時ばかりはミサキの匂いを気のせいだと処理しきれず少し心音が早くなり頬が熱を帯びるのを感じた。

 それがミサキにばれないように頬をパンパンと叩いてごまかした。


 車を出す前に後方を確認するふりをしてミサキの顔を確認する。

 ミサキの顔は真っ赤だ。


 シオンは、自分が照れてはじめて今もリビングでも距離が自分と距離が近くなって照れてミサキは顔を赤くしていた事に気が付いた。


 俺は馬鹿かと目を覆うように右手を当てた。


 「せんぱい?どうしたんです?」


 ミサキの声で我に返った。


 「…なんでもない。」

 ____________なんか美咲すまん…


 心の中で謝った。


 シオンが女性との距離が近いのには理由が二つある。

 ひとつは、妹の花音(カノン)12歳が理由だ。

 理由があって今は不登校で母について祖母の家に行ってしまっている。

 

 カノンとは少し年が離れていることもあって小さいころからよく面倒を見ていてお兄ちゃんっこだ。

 中学生になった今も甘えてきて距離が近い。

 まだ13歳のカノンだが身長は156センチと19歳の小柄なミサキとは背格好が近い。

 そのためとっさに距離が近くなってしまう時があった。


 もう一つは元恋人のアイの存在だ。

 アイとは家が隣通しの幼馴染でいつの間にかどちらともなく付き合い始めた。

 幼少期からの付き合いで距離はやはり近かった。


 二人は大学受験の際に別々の道へと進んだがアイは進学、シオンは入りたい大学に落ちて浪人となった。

 その後アイは同じ都内の大学だというのにキャンパスが遠いからと一人暮らしを始めた。

 そのころから距離ができ始め、あるきっかけで別れることになった。


 それが原因で学校に通えなくなり単位が足りず進級できなくなってしまっていた。

 シオンはそれを自分の責任だと言っているが内心長く付き合ってきた幼馴染に裏切られたと思っている。


 「あっ住所とか聞いてもいいか?」


 シオンは平静を装い車を出そうとしたがどこに向かうかわからないままだった。

 車のナビゲーションを開いて住所を入力しようとミサキに聞いてみる。

 ____________確か、埼玉の方だったっけな?

そんなことを考えているとミサキの口から飛び出してきた言葉に驚いた。


 「…の累林町かさねばやしまち4-16-2ですっ。」 


 その町の名前は忘れるはずもない昨日行った伯父の家がある町の名前だ。

 

 それはまだ祖父が健在で元気だった頃、ちょうど母がカノンを身ごもっていた12年前の出来事だ。

 レイジが仕事の関係でどうしてもアメリカに出張せねばならず身重の母は、臨月で今回のように実家に帰っていた。

 母の実家は九州と遠く当時乗り物酔いがひどかったシオンはわがままを言い九州よりはずっと近い祖父の家に預けられ10日ほど過ごした場所だった。


 「…そこなら、大体の場所わかるから近所まで着いたら教えてくれ。」


 車を発進しようと車のシフトレバーをドライブに入れるがミサキからの返事はない。


 「美咲?」


 いったん手を止めてミサキの名前を呼ぶ。


 「あっはいわかりました。ナビですよね。みさきは助手席に座ってますからねっ。立派にナビして見せます。」


 などと言っていたがシオンは気にせず車を出した。

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