続々・後輩が覚悟を決めているとか気づくわけがない
シオンがいなくなった部屋でポツンと一人シオンを待つミサキ。
頭の中は爆発寸前だった。
もちろん要領の良いミサキだ。
この日、シオンの部屋に泊まって同じ布団に寝てそういう事があると思ってるわけではない。
ただもちろんお風呂には入りたいし、このままの服で寝たくはない。
下着ばかりは仕方がないが服はシオンの服を借りて、もちろんそれはぶかぶかで袖の余った服をかわいいって意識してもらえるんじゃないかなと妄想を描きシミュレーションしながらシオンの家までの道中を歩いてきた。
当然何度もシミュレーションしていたのでシオンにとりあえずうちに来いと言われた直後と比べれば落ち着いていたがそれでもまだそわそわしている。
玄関ですぐについていけなかったのがかっこ悪かったと反省した。
手持無沙汰でいると、また余計なことを考えてしまいそうだと鞄からスマートフォンを出すと祖母へ連絡しなければならないと気がついて、メールを打つ。
シオンの話は祖母にもしていたためメールの内容にすぐに詰まる。
________________どうやって説明すればいいだろう?
内心泣き出しそうなミサキだが悩んでもいられずとりあえず適当な内容を考える。
帰りに高校時代の友達に偶然会い話し込んでいるうちに終電を逃したのでその友達の家に泊めてもらうと、もっともらしい嘘を考えた。
最初、女の子の友達と打っていたがわざわざ《女の子の》などと書けばそう書いた理由を変に勘ぐられそれは嘘なんじゃないかと思われるかもしれないと思い消した。
そんな自分の狡猾さにミサキは嫌悪した。
もちろん罪悪感も感じたが変に心配させるよりはいいとそのまま送信した。
まだシオンは戻らない。
動画を見ようか?SNSを見ようか?と思ったミサキはSNSアプリを開いたが見ているうちにシオンが戻ってきたらどうしようと考えすぐに閉じた。
再び手持無沙汰になったミサキは部屋の中を見回す。
________ここがシオン君の育ったおうちか。
そんなことを考えていると目の前のテーブルに置かれた。
コップが目に入りそれを手に取った。
とまた、おかしな妄想を始めてしまう。
このコップはもちろん洗ってあるだろうけどシオンのコップだ。
ウミセンヤマセンでは従業員用のグラスなどない。
皆、客が使うグラスと同じものを使いまわしているのでシオンが使ったグラスで飲み物を飲んだことくらいはあるがこれはわけが違った。
ここはシオンの家でこのコップはシオン専用のものだ。
そう思うとなぜだかミサキは緊張してしまい、なかなか口をつけられない。
ふとコップに描かれているイルカの絵に目が留まった。
「あっ」
________シオンくんまだイルカ好きなんだ…
「ぬあぁんだとぉおおう!?」
一口も口をつけないのは悪いと飲もうとした瞬間に、大きな声がする。
そのあまりにもなタイミングにビクッと体が一瞬硬直する。
少しお茶をこぼしてしまった。
ミサキは声も気になったがやってしまったと焦りコップをテーブルに戻すとバッグをあさりハンドタオルを探した。
《どだっどだっどだっ》
リビングの外から大きな音が聞こえてきた。
___________________________
ミサキがお茶をこぼす10分前ほど前。
階段を上がると突き当りがレイジの部屋だ。
「親父いるかー?」
シオンはノックもせずにその部屋に入る。
「おうおかえり。」
そこにいたレイジはシオンの方を向かずに言葉だけを投げる。
シオンは帰りがけに見たウミセンヤマセン店長のタカシの背中を思い出す。
タカシもレイジもかなり体格がいい。
レイジもタカシと同じようにPCデスクに向き合いパソコンと格闘していた。
既視感を覚えたシオンだがレイジは背中を丸めずしゃんとしている。それ以外の背格好や体形が似ていて笑い出しそうになったが堪えた。
「どうしたんだ?珍しいじゃないか?」
レイジの職業は翻訳家だ。基本的には家で作業をしている上に夜作業作業が最も効率よく進むと言うから遅い時間の帰宅の場合シオンは特にレイジに声をかけたりはしていなかった。
いつもと違った様子のシオンにキリの良いところまで作業を進めると手を止めシオンの方を向いた。
いい父親だ。
「実は車を貸してほしいんだけど…」
迷いに迷ったシオンはできるだけ父には情報を与えずに車が借りられないかと結論から伝えた。
「ん?こんな時間に車でどこに行くんだ?」
レイジは自分の妻であるシオンの母の事となると猪突猛進な愛妻家だが、それ以外に関してはとても冷静で慎重だ。
父親を出し抜くことなどできないと、シオンは早々に諦めちゃんと説明しなければと思う。
が、どう説明すれば、怒られないか言い訳を必死に考えたがどう考えてもシオンが悪い。
何より自分は男で、年上で、先輩だ。
下手に逃げるより、しっかりといきさつと反省していることを伝えればわかってくれるはずと下手な言い訳をせずちゃんと説明をする決心をした。
「実は…」
シオンはこれまでのいきさつを掻い摘んで伝えた。
もちろんシフトを変わってもら理由は昨日の運転が理由だと強調した。
ミサキのシオンに対する感情についてだけ自意識過剰のようで恥ずかしかったので端折った。
「詩音…おまえ…」
と、言うと、レイジが震えている。
翻訳家などと聞くとインテリに聞こえるがこの体格のタカシは見た目通りの武闘派だ。
シオンはそれを見ると怒られるんじゃないかとゴクリと唾を飲み込む。
「おまえぇ…」
と、言うとなぜかレイジは半泣きだ。
シオンはそれをみて呆気に取られてしまう。
「お前は、俺は、もう彼女ができないものかと思って…」
レイジはしどろもどろで言葉がおかしい。
見た目もだが今の発言も到底言葉を仕事にしている人間のそれとは思えない。
「俺はあおちゃんと結婚するものと思っていたから俺はうれしくって…」
「あおの話はいいんだよっ!」
シオンは《あお》というワードに過剰に反応する。
《あお》というのはシオンの元彼女である大中臣藍(オオナカトミ アイ)22歳のニックネームだ。
アイとはあまりいい別れ方をしていないシオンはそのワードには敏感だ。
「それに美咲とはそんなんじゃないし…」
少し大きな声を出してしまったと、ボリュームを下げてシオンは言うと、
「ぬあぁんだとぉおおう!?」
「詩音…てめぇ…」
急に大きな声を出したレイジはシオンを押しのけると部屋を出ていく、
あまりに急な出来事に一切動くことのできなかったシオンはレイジの後を追いかけた。
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