続・後輩が覚悟を決めているとか気づくわけがない
シオンの家までの道中。
線路沿いの道をシオンはミサキが視界に入るか入らないかの距離で車道側をゆっくりと前を歩いている。
ミサキは線路側を自転車を挟んでついてきている。
二人の間には会話がなくシオンの中では、なぜかわからない沈黙が流れていた。
それを何故かと考えているが思い当たらない。
普段通りに戻ったかと思ったがそんなことはないらしい。
ミサキは自分と車で二人きりは嫌なのか?
父に挨拶するとか言ってたがレイジに会うのが怖いんだろうか?
それとも自分のせいで電車で帰宅できなくなったのを怒っているんだろうか?
などと、考えてみたがどうにもミサキっぽくはない。
特に鈍感というわけでもないシオンはミサキからの好意に気が付いている。
自意識過剰であるかもしれないが今回自分が家まで送ってくれるという出来事を喜びこそすれ怒ったり嫌がったりするはずはないと思った。
シオンは気まずさに耐えられずどうしたのか聞いてみようと決意する。
「…先輩は、お友達の女の子と一緒におうちに帰ったりするんですか?」
先に沈黙を破ったのは少し前と同じようにミサキだった。
「…ん?ミサキが初めてじゃないか?」
ミサキの発言にシオンは疑問だらけで首をかしげる。
__________そんなに送られるのが嫌なのか?
自分がミサキの立場ならと考えたシオンは渡りに船だと思ってもおかしくない状況だろうと思った。
だれも帰る家があるのにお金を払ってまで狭苦しいであろう漫画喫茶などには泊まりたくないとシオンは思った。男の自分が嫌なのだ。女の子であるミサキは自分より嫌だろうと疑問にしか感じない。
わざわざ家まで帰り友達を家に送ったことはない。女友達ならなおさらあるわけがない。
高校時代付き合ってた彼女と一緒に帰ったり出かけたり、おもったより帰りが遅くなった時に家まで送ったことはあるが今回の状況とは違う。
そう思ったシオンはそれをあまり思い出したくないという事もあり少し嘘をついた。
ミサキのことが少しだけ気になりちらっとだけ確認しようと見るが少しうつむいていて表情はわからない。
シオンはなぜ荷台のない自転車を買ったのかとその理由を思い出し少し後悔した。
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道中ずっと無言で気まずいという事はなく、多少の気まずさは、ありながらも共通の話題ともなるウミセンヤマセンでの出来事などを話をしているうちにシオンの家に到着する。
理由まではわからないがミサキ以外を家まで送ったという話をしてから変に張り詰めた不穏な空気はミサキから消えていた。
シオンの家はウミセンヤマセンのある駅から大通りを挟んで住宅街にある一軒家だ。
シオンは家の前に自転車を停めるとミサキに荷物を渡してダイヤルロックをかける。
そのまま鞄から取り出した鍵で玄関を開けるとそのまま家の中へ入ろうとするとドアに手をかけるがやはりミサキが付いてこない。
「どした?お茶でも出すから上がって待ってて。」
というと、手招きをしてミサキを呼ぶ。すぐ出るからと玄関で靴を適当に脱ぎ捨てると不揃いのままだ。
ミサキは照れながらそれに従うと自分の靴を脱いで揃えるのと同時にシオンの靴もそろえていたが、シオンはその場面を全く見ておらずまだ寝てはいないであろうレイジを探した。
玄関に入ってすぐ右側がリビングだ。
シオンはそこにレイジがいないのを確認すると、ミサキの腕を引いてリビングにあるソファに座らせる。
これはシオンなりに考えあっての行動だがそれをわからないミサキはぽかんとして照れているがやはりシオンは気が付かない。
「お茶でいいかー?」
と、聞いたシオンはすでにキッチンへと移動している。
「はい、あのわたしはなんでも…」
それを聞くと来客用のグラスを探したが見つからない。
とりあえず自分のコップを取り出すと冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して氷は入れずに注いだ。
ミサキの分だ。
二人のアルバイト先は居酒屋だ。基本的にアルコール以外の飲み物は飲み放題なのでミサキが飲み物を飲むとき氷を入れずに飲んでいるのをしっかり覚えていた。
そしてその辺にある家族共有のグラスに氷を入れてお茶を注ぐと一気に飲みほし、すぐにそれを流しに置いた。
シオンは自分のコップをミサキの待つリビングへと持っていく。
「ほら、これ俺のコップでで悪いけど、これ飲んでちょっと待ってて、親父と話してくる。」
「えっ先輩のコップですか?」
「あー違う違う、いま母さんが実家帰ってて、来客用のグラスどこにあるかわからなかったんだよ。氷なしでよかったろ?いやだったら飲まなくていいいから。わりっすぐ戻るからちょっとだけ待っててくれ。な。」
それだけシオンは伝えるとリビングにミサキを一人残してレイジがいるであろう二階のレイジの書斎兼寝室へと向かった。
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