後輩が覚悟を決めているとか気づくわけがない
シオンは言葉の重大さに全く気が付いていない。
と、言うのもシオンの考えはミサキがその時思ったであろうことではなかったからだ。
まずシオンは誰かに迎えに来てもらえないかと考えたがそれは無理だとミサキは首を振った。
次にタクシーはどうだろうと考えたがミサキの家はここから遠かったはずと思い出し自分の財布の中身を考える。
一万も入ってないのですぐに選択肢から消すと言葉にも出せなかった。
そこで最初考えた自分の家に連れていくと言う考えを思い出し二つを結び付けた。
__________そうだ!俺が家まで送っていけばいいじゃん!
シオンの家はウミセンヤマセンから自転車で10分程度、歩いても30分もかからない。
まずミサキと二人でシオンの家へ行きそこから父から車を借り家まで送り届ければ問題がないと考えた。
「あの、えっえっ?いいん…ですか??」
「あー、まぁーいや…その親父がちょっと面倒だけど、嫌か?」
シオンは父であるレイジにどう説明をすればいいかとそればかり考えていて自身がミサキに『家に送るから』という部分を言わずに家に来いとだけ伝えているのに全く気が付いていない。
『真夜中に』、『女の子と』、『ドライブをするから車を貸せ』など切り取ればとんでもないことを父に言わなければならない。
シオンは自分のせいでこうなったのだから仕方がないと億劫だと思いながらどう説明した物かとそればかりに気を取られている。
『家に送っていくからとりあえずうちに来い』と言ったつもりのシオン。
『(漫画喫茶などに泊まるくらいなら)うちに来い(泊まれ)よ』と言われた気になっているミサキ。
その状況で父親が面倒だと、いう発言は二人の間にさらなる誤解を生んでしまうがそれにもお互い気が付くはずがない。
当然家に送ると言ったつもりのシオンは何故ミサキが焦っているのかわかるはずがない。
「いや、その、あの、みさきは先輩の家にご招待いただけるなんて光栄の極みと言いますか、えっあれ?お父様にご挨拶を…ってあれ?わたし何言ってるんでしょう…」
ミサキは手鏡を取り出すと自分の顔を見つめ始めた。かと思えばそれをすぐにひっこめて、服装を確認し始める。
黒のスキニーに透け感のある白のブラウス、カーディガンを羽織っている。
変ではないが仕事に来る格好でかわいくはないと思ったのかミサキは表情を曇らせる。
その表情にただ申し訳ないから遠慮してるだけと思ったシオンは、
「なんだ、野宿でもするつもりか?漫画喫茶じゃ布団はないだろうし、あったかい布団で寝たいだろ?遠慮すんな!」
などと冗談めかして言う。
シオンは漫画喫茶などはオープンスペースを利用したことが数回あるくらいでその個室がどうなってるかは知らなかったから寝泊まりはできるが布団などはないはずという程度の認識だった。
野宿と言ったのはただミサキの表情が曇っていたので笑わせたかったという意図があった。
その笑わせたいというシオンの想いとは裏腹にミサキは『布団』や『寝る』という言葉に直接的な印象を覚え照れたのか顔を真っ赤にしてそれをばれないようにするためか下を向いてしまう。
「ほら、荷物!」
シオンは下を向いて表情の見えないミサキから半ば強引にバッグを受け取る。
ミサキから「あっ」という小さな声が漏れる。
そんな声など構わずに自転車のかごにすでに入っていた紙袋をどかすとバッグを置いて紙袋をその上にへ置いた。
そのままガチャンとスタンドを跳ね上げ自転車を押すと自宅のある方向へと歩きだすとすぐにミサキの気配が動かないことに気が付き、後ろを振り返る。
「おいてっちまうぞ。」
ぶっきらぼうにそう言うと、ミサキがちょこちょこと小走りでシオンのそばにやってくる。
シオンはミサキがいつも通りに戻っているように見えたのでそのまま自転車を押した。
二人乗りできればよかったのにと思ったシオンだが買ったばかりの真っ赤な自転車には後ろに人が乗るような荷台はなく仕方なく歩くしかなかった。
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