後輩が終電を無くしているとか気づくわけがない
時刻は午後11時40分
ウミセンヤマセン キッチン内
「ふー結構客来たっすね。」
頭にタオルを巻いた男が誰にともなく話す。
この男の名は柿崎一馬(カキザキ カズマ)26歳
ウミセンヤマセンの元アルバイトで現在は社員だ。
通常午前5時まで営業しているウミセンヤマセンだが日曜日は基本的に24時までだ。
この日は23時の時点で会計が全て終わってしまい残っていた客もラストオーダーを聞いたタイミングで退店し前倒しで閉店作業を始めていたのでクローズ作業は、ほとんど終わっていた。
「でもでも、早めに退店されるお客様多かったので助かりました。ねっ先輩!」
反応したミサキは言葉を発したカズマではなく、シオンに言葉を返す。
「ん?ああ、まあそうだな…いつもより少し早いかもな?」
日曜日の客足はまちまちで読めないことが多い。
4年以上勤めているシオンにとってはそこまで早いとは思えなかったのので疑問に感じた。
「ちょっとちょっと、美咲ちゃ~んなんでシオンなのよぉ~」
カズマはミサキに話しかけたわけではないが自分の発言に対してシオンに話しかけているミサキが不服なようだがそこまで気にしている様子はない。
「一馬さんは、女の人なら誰にでも、かわいいかわいい、好き好き言ってるのでお仕事以外のお話はしませんっ」
カズマは軟派な格好をしていて実際にかなり軽薄だ。
やれ、客やアルバイトの女性を見つけては「かわいい」「胸がでかい」「良いケツしてる」など、と発言している。
もちろん客の前でいうわけではないしどこか憎めないカズマととりわけ仲が悪いわけではないがミサキはそれを聞いてから特にシオンの前ではなおざりにしがちだ。
当のカズマは、というと態度は不服そうにしているが実際には子供っぽいミサキには興味がなくシオンに対する行動を見てからかっているだけのようだ。
「はいはい。もういいから遊んでないでとっとと帰りますよー」
シオンはそんな二人のよく見るやり取りを見ると我関せずと興味なさそうに控室へと戻る。
途中まとめて置いたごみをつかむと裏口の鉄扉の前に置き控室に入った。
「お疲れまです。」
控室に入るとPCデスクの前で大きな背中の男が小さくなっている。
カタカタとキーボードを叩く音が聞こえている。
「ああ、お疲れさま。もうお客さん全員帰ったの?」
シオンの方も見ずに背中で答えたタカシはどうやら本部に送る週報を作成しているよう。
「11時過ぎくらいにはもう捌けちゃいましたね。」
シオンはそれだけ伝えるとミサキの分と自分のタイムカードを押す。
本来こういったお金に直結するようなタイムカードは出勤も退勤も自分で打刻しなければならないが出勤ではない上に退勤だ。
さらにタカシはこういった事には甘かったし高橋もとっくに帰っていたのでシオンは気にしなかった。
「お疲れ様ですっ」
「かれっすー」
シオンの後を追うようにミサキとカズマも控室へと入ってきた。
「はーいおつかれさん。二人はすぐ上がっちゃってよ。」
二人というのはシオンとミサキ、二人のことだ。店長と社員であるタカシとカズマは週報を送らなければ帰れない。
「了解です。」
と、シオンが答えると、
「了解しましたっ」
ミサキが続いて言った。
「あっわり、ミサキのタイムカード俺が押しといたわ。」
そう伝えるとミサキはすぐさま子犬に変身しようとする。
シオンはそれに気が付いたのか無駄な時間はかけたくないと、しっしと手でジェスチャーをすると追い払い、
「いいから早く着替えて来い!」
と、一蹴する。
「はぁい」
ミサキはシオンの対応に返事をする。
いたずらをしたのが主人にばれた子犬のように尻尾を丸め耳を寝かせてしまうような様だ。
返事をすると、荷物をもって控室から出て行った。
シオンはその辺に何脚かある椅子に腰かけるとすでにロッカーから取り出していた鞄のファスナーを開けてスマートフォンを取り出す。
本来、休憩のあるシオンだがこの日はいつもより一時間遅く出勤していて休憩のなかったシオンは出勤中スマートフォンを見れていなかった。
溜まっていた通知を確認していくと少し残念そうにした。
お目当ての通知があり、それをリアルタイムで確認したかったのだ。
そのほか母からの『おばあちゃんは快方に向かっている』などのメッセージに返事をしているとすぐにミサキが戻ってきた。
ミサキはロッカーから自分の荷物を取り出すと手早くまとめる。
「それじゃ、おつかれさまですっ!」
その声を聞いたタカシは背中を向けたまま、
「はいはーいお疲れさま。気を付けてね。」
と、後ろ向きのまま手をふらふらと振る。
よっぽど早く帰りたいのだろう。
一方シオンと同じようにスマホをいじっていたカズマは何故か、
「シオン、ちゃんと送ってやれよ!」
と言い、クスクスと笑っている。
なぜカズマがそんなことを言うのかと不思議に思ったシオンだがシフトを変わってもらっていたので駅までならまあいいかと適当に返事をした。
「俺、裏にチャリとめてるんでごみもって裏口から降りちゃいますね。一応鍵閉ときます。」
それだけ伝えるとミサキと連れ立って裏口へと向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます