続・新人アルバイトがフリーターだなんて気づくわけがない


 ミサキと店内へ戻ったシオンはテーブルや席の様子を確認する。

 椅子はすべておろされていた。


 大した重さではない椅子だが80席はある。全部下すのは小柄なミサキでなくても重労働だ。

小柄なミサキであれば人一倍苦労しただろう。

 しかもこの日はタカシも面接をしていたため手伝ってはくれなかっだろうから、そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


 日曜のこの時間に入ることの多いシオンはこの椅子の上げ下げ慣れたものだが面倒で仕方なかった。

 ミサキに変わってもらった手前少しでも面倒を減らしてやろうと前日のクローズスタッフに説明し無理を言ってあげて帰ってもらっていた。

 それでも重労働だったに違いはないと思う。

 

 続けてテーブルの上の調味料やメニュー、ラミネートされた期間限定のメニューなどが正しくセットされているか確認をする。


 そのほとんどが完璧にこなされていた。

 

 シオンはミサキの方を見る。

 まるで褒められるのを待って尻尾を振っている子犬のようだと思ったシオンは無性に褒めてやりたい気持ちになりよくやったと無言でぶっきらぼうに頭をガシャガシャと撫でた。


 普段シオンはあまりそういった事をしなかったがこの日は変わってもらったという負い目もありそんなことをしたがシオンの撫で方は女性に対する愛情からの優しいそれではなくペットなどにするそれだ。


 普通の女なら、せっかくセットした髪が崩れてしまうと嫌な顔をして怒ってしまうがそんなことを知ってか知らずか関係なしにシオンなでた。


 「せんぱい私、がんばりましたっ!!」


 ミサキはそれを受けても怒ったりはせず、待てができた子犬のように目を細くして撫でられている。


 そんなミサキの顔を見てシオンは撫でるのをやめる。


 「えっもう終わりですかぁ…」


 ミサキはついそんな言葉を出してしまったようだ。


 「ハイハイ、もうおしまいだよ。それよりもうお客さん来てもおかしくないんだから仕事すんぞ。店長が来るまでは俺がキッチンやるから、美咲が外やれよな」


 シオンはそういうとミサキに背を向けてキッチンの方へとふらふらと歩いて行っていく。


 ミサキはミサキでシオンを見送るとシュンとした。

 振っていた尻尾を止めて耳を寝かせて今にも≪くぅ~ん≫と鳴きだしそうな犬のようだ。


 キッチンについたシオンは仕込みで出た調理器具の洗い物などの作業を行っていくするとがちゃんと控室の方から音が聞こえてきた。


 「ありがとうございました。失礼します。」


 おそらく面接が終わったのであろうと思ったシオンはこれから働く仲間になるかもしれない女性に挨拶をしなければとキッチンから外に出る。

 ________こういう挨拶が大事なんだよな。


 「…っと、すみません。」


 足早にキッチンから出たシオンと出入口はどちらかとなっていたマリナが出合い頭にぶつかりそうになる。


 ギリギリのところで接触は避けていた。


 「こちらこそ、ごめんなさい。入ってきた場所がわからなくなってしまって…」


 シオンは通路の右側を指差した。


 「一応あっちが出入口で反対に裏口があります。」


 念のためにとシオンは裏口とお客様出入り口、両方を教える。


 「ああ、そうですね。向こうから来ました。ご丁寧にありがとうございました。もし一緒に働くことになったらよろしくお願いしますね。」


 お客様出入り口の方だと確認したマリナはシオンに頭を下げた。


 「いえ、こちらこそよろしくお願いします。お気をつけて、」


 シオンは癖からかお客様お見送りの言葉を言いそうになるが何とか止める。


 マリナはそのまま出入り口に向かって歩くと途中にいたミサキと二、三言葉を交わし頭を下げると店舗から出て行った。


 シオンは愛想はないが挨拶をちゃんとできるしっかりとした人だなと思った。


 「宮島君!ちょっといいかな?」


 マリナを見送っていると背後から声がする。

 

 「ハイ?」

 

 シオンは返事をすると声のした方を向く。


 そこには高橋がいた。


 「まだお客様来店されてないよね?ちょっと裏で話せるかな。」


 シオンは言われるとハンディで時間を確認する。

 まだ18時前だ。

 シオンが裏に行ってしまえば一時的にではあるミサキが一人になってしまうと心配になったが、まだ来店のあるような時間ではない。

 それに先ほど面接に来ていたマリナを雇うから面倒見てほしいだとかそんな話だろうと思いすぐ終わるだろうと言葉に従った。


 控室に入るとシオンは高橋の言葉に面食らってしまう。


 「いいね。わかった。長いんだからちゃんとしてよね。それじゃ中野さん一人じゃ心配だからよろしく頼んだよ。」


 ______________てめぇが俺を裏に連れてきてわけのわからん説教をしなけりゃ美咲が一人になることもなかったじゃねぇか。


などと内心怒り心頭なシオンは表情や態度に出さないように「わかりました。失礼します。」と伝えると控室からフロアへと戻った。


 高橋がシオンに伝えた内容を要約すると、先ほどは面接中のため怒らなかったがもう少し余裕をもって早めに出勤しろということ、

 面接していた女…マリナがフリーターで就職などを理由にいつか辞めてしまう大学生とは扱いが違うという事、

 またゆくゆくは社員として雇いたいという話だった。


 シオンはその時の高橋の態度が気に入らず、かなりいらだちを感じていた。


と、言うのも高橋は「あのこもいい年齢だし…」だとか、「中野さんみたく可愛くはないし愛嬌もないけど…」だとか、正直聞いていて気分の悪い言葉ばかりを口に出していたからだ。


 確かに遅刻はシオンの責任でシオンが悪いがその時に怒らずに後になって怒る高橋のやり方が気に入らなかった。


さらには普段遅刻などしないシオンをかばったりせず苦笑いをしながらうんうんと相槌を打っているタカシにも腹が立って仕方なかった。


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