続・アルバイト面接があるだなんて気づくわけがない

 

 トイレで出勤準備を済ませるとミサキはバックヤードへと戻る。


 「失礼しまーす。」


 この店で一番偉いであろう店長のタカシより偉いであろう本部の人間が室内にいることをわかっていたミサキはできるだけ静かにその部屋へと侵入する。


 二人はちらっとこっちを見るが何かを話しこんでいる。


 ミサキは自分のことを言われているんじゃないかと思いつつ、そうであるならばなるべく聞きたくないなと、耳には話が入らないように残りの荷物をロッカーにしまいタイムカードを切る。


 この後、シオンが来るまでにやることは把握しているつもりのミサキだがせっかくタカシがいるのなら確認しておきたいと思った。

 ミサキはタカシに話しかけようと思うが高橋と二人で話していてなかなか話しかけづらい。


 そのままここにいても何か気まずく感じたミサキは一抹の不安を胸にそのままフロアに出た。


 まずは店内の電気をつけるとキッチンに小走りに駆け込む。冷蔵庫や冷凍庫の在庫確認をするが一通りタカシが済ませていたのか在庫表は数字で埋められていた。

 そのまま在庫表を確認すると週末で売り切れてしまっている商品がないか確認をする。


 続いて店内に掃除機をかけるためキッチンを出ると裏口近くの上下水道やガスなどのパイプが通っているスタッフからは倉庫と呼ばれる場所から掃除機を取り出して掃除を開始する。


 普段日曜日は椅子を机の上にあげてから清掃を始めているらしいがこの日、椅子はすでに机の上に上がっていた。

 

 忙しいと椅子をあげて帰れないときがある。特に週末などはそういった事が多いと知っていたミサキは不思議に思うが、昨日は土曜なのに暇だった?タカシが椅子をあげてくれた?など考えたがわかるはずもなく掃除機をかけていく。


  ≪カラカラカラカラ≫


 掃除が終わり椅子を下していると、戸の開く音が聞こえる。


 ______________あれ?誰か入ってきた?まだ先輩も来てないし掃除が終わったばかりだから5時になったわけないよね?


 店内に時計はない。時計があると時間を確認した客が帰ってしまう可能性があるためだ。

 今時、携帯電話を所持していない者などまずいない。それどころか昔から腕時計などもあるので時間を確認できないなんて事はまずないが、いわば昔からあるジンクスのようなもので今の時代では形骸化してしまった過去の名残と言えるかもしれない。


 そのため通常時はハンディーと呼ばれる注文端末で時間を確認することがほとんどだが、オープン前のこの時間ミサキはとっさに時間を確認するすべを持ち合わせていなかった。


 入口の方に目をやると女性が一人立っている。

 _____________こんな早い時間から女の人が一人で居酒屋さんに来るのかな?


 ミサキは不思議に思った。

 日曜日の17時からの出勤は何度か経験したことのあったが17時に来店などまずない。

 忙しい週末でも全く来ないというわけではないが女性一人の客などは中々に珍しかったからである。

 それに多分まだオープン前の時間だ。なれない時間帯の出勤にミサキは変な焦りを感じている。


 「失礼します。16時半に面接のお約束をさせていただいている那珂川ですが、店長様か面接担当の高橋様はいらっしゃいますか?」


 ミサキは女性の言葉にすぐに状況を察する。

 焦っていたのが馬鹿らしいとはずかしそうにしてしまうが、ミサキがこの時間帯の作業に不慣れだと知らない女は不思議そうにしている。


 女性の不思議そうな表情にハッとしたミサキはこんなことならしっかりとタカシに確認を取っておくべきだったと後悔するがそれも今更と気を取り直し、バックヤードへと案内することにした。


 「ご案内させていただきますね。」


 こういった経験の少ないミサキは女をしどろもどろになりながらバックヤードまで案内した。


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