中
「最近、羽田とかいうヤツ邪魔すぎるんだよなぁ……」
確か
私は気にしなければ良いのに、物陰に身を潜めて二人の会話に耳を澄ませた。
「羽田、邪魔じゃね?」
「羽田さんも普通に可愛くない?」
「じゃあお前そっち行けよ。俺がヤりたいのは
「つか、
「飲み会の帰りに向こうの部屋でヤったって話だろ。泣きながらヨガってきたらしい。あの見た目でエロいとか最高過ぎるだろ」
私は昔から勘が良かった。きっと、長女として身につけた察する能力だと思う。
「泣いてたってそれ嫌がってたんじゃーー」
「
「うわっ。んだよ急に大声出して」
私は自分より少し背の高い
「羽田さん、落ち着いて」
「アンタ、よくも!」
いつもきょうだいに暴力はダメだと言っておきながら、止められなかった。振り上げた手は
「……ごめん」
「何で私に謝るワケ!? アンタ達が傷付けたのは
「
二度目に振り上げた手は、
「
「もう、この話はしないで……忘れたいの!」
声を荒らげる
それを見て気が付いた。私は、彼女の傷口に塩を塗ってしまったのだと。
「ごめん……」
「ううん。講義室、行こう」
私に背を向けて、先を歩く肩が震えていた。
講義室へ急ごうとする
その時、お腹がぐるるると鳴った。
「待って
「…………」
「一人で食べるの寂しいから、
「……わかった」
振り向く前に目を拭った
「あの、
カフェは一限目に講義を入れていない学生で、それなりの人がいる。私は並んで座れる席が空いていることを確認して、メニューを見た。
朝ごはんを食べていないと言ったが、夏直前でダイエット中なのであまり食べたいとは思わない。ただ、いざ目の前にすると誘惑には勝てないのである。
「
「何と何で迷ってる?」
「コーヒー・グラニータとシナモン・ラッシー」
「甘いのが良いの? じゃあ私シナモンにするから、半分こしよう?」
二人横並びで席に座ることにはもう慣れた。四人組のグループにいた頃は、こういう座り方ができなくて席取りが微妙に面倒臭かった。
「良いよ、私も気にしないから。でもストローはリップついちゃうし」
「そっか。もし嫌なら次から教えてね」
「うん」
気になっただけで、嫌ではなかった。同じスプーンを使うと、なんだか急に
そんな私の緊張とは裏腹に、
私達はただ二人で黙々と、朝ごはん代わりの甘味を食したのだった。
「あのさ
「夏祭り?」
「そう。そういうの行く?」
「あんまり行ったことない……」
想像していた通りだった。話を聞く限り、
「じゃあ、お泊まりね」
「迷惑じゃない?」
「大丈夫。でも、妹と弟がいるからうるさいかも。弟は大人しくてめちゃくちゃ可愛いんだけどね」
私はスマートフォンで、弟の北斗の写真を見せる。この写真は私が一人暮らしを始める前に、家族で撮ったものだ。
「弟君、可愛い」
「
「うん。あんまり写真はないんだけど……」
そう言って
「これ、家族写真。弟、お父さん、お母さん」
「弟、イケメン過ぎじゃない? 流石、
「えへへ……私のことじゃないのに、照れちゃうね。弟には
「えっ、何て?」
「大学でお友達できたよって。今更? って言われちゃったけど」
そう言って控え目に笑う
――いや、本当はわかっている。私は、いつの間にか
――私、いつのまにか
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