第6話 紅葉かな


(侍が花魁を身請けし、屋敷に戻る船の上)

(ぼんやりと外を眺める花魁)


花魁:主(ぬし)、

花魁:船は此(こ)ン侭(まま)、主ン屋敷へ行きんすか?


花魁:左様のことで・・・・

花魁:さらば、此ン景色(けしき)を見るんはもう今際(いまわ)・・・


(侍の方に向き直る)


花魁:主、

花魁:わっちらに誠(まこと)とは実(じつ)に笑止(しょうし)の沙汰(さた)、

花魁:したがそれを申せるならば


花魁:わっちは、主様と肌を合わす訳にはいきんせん。

花魁:わっちの心も、此ン身体(からだ)も……、

花魁:もう、惚(ほ)れた あン方ンモンと決めとンざんず。


花魁:あン人にィ操(みさお)ォ立てるンが“女”の務(つと)め。

花魁:主が折角、大層な金(きん)を積み、わっちを引きなされど、

花魁:わっちは主へ肌を許す訳にはいきんせん。


花魁:確かに、

花魁:惚れた男やのうても肌を許すンが、わっち等(ら)花魁の運命(さだめ)


花魁:世の中、金(きん)に太(ふと)かば、花魁と肌を合わすも容易(ようい)と思ゥモンも多ざんしょう。

花魁:汚(けが)れた女の操(みさお)何ぞと、笑いよるかも分かりゃしんせん。


花魁:したが、主。

花魁:一度、惚れた男へ操ォ立てたンならば、何ンがあっても守り通すンが

花魁:花魁の・・・・いんぇ、女としての生き方。


花魁:引かれ、花魁や無くなったならば、尚の事……


花魁:でも、そんな事は

花魁:殿方にはきっと分からない事なんざんしょう。

花魁:そう、女とはそういう生き物


花魁:例え……

花魁:例えこの身を裂(さ)かれようとも

花魁:あン人への操を捨てるつもりはございんせん

花魁:どうか堪忍して下さんし。


(激怒する侍)


花魁:ふふふっ、左様ざんしょうねぇ。

花魁:身請けして下さった主にとっては

花魁:わっちなど、もう生きていても仕方のない女ざます。


花魁:主のお屋敷をわっちの血で汚してしまう前に

花魁:いっそ、この船の上でお殺(あや)めくださんし。


花魁:花魁は赤い地獄に咲く紅葉(もみじ)

花魁:どうせ散るならば

花魁:川の中へと散り入る方が

花魁:きっと綺麗でありんしょう……


(少しして、川へ身を投げる花魁)


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花魁(女性一人読み) Danzig @Danzig999

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