第5話 忍び合い


(花魁が手引きをする)


花魁:さぁ


(男が部屋に入ってくる)


花魁:葛城(かつらぎ)の神の目ェは避(さ)けられたんどすか?


花魁:そう・・・


(抱きつく花魁)


花魁:あぁ・・・会いたかった・・・

花魁:あン時より、主様(ぬしさま)を忘れようと思ゥても

花魁:そう思えば思う程、主様の事が此(こ)ン胸から離れよらんのざんす。


花魁:でも、まさか

花魁:こうしてまた、主様に会えるなぞ思つゆも・・・・


花魁:新造(しんぞう)が主様を見つけよって、手ェを引きくれよったおかげやわ。

花魁:あン子ォには感謝しなァね。


(しばらく共に過ごす二人・・・)


花魁:斯様(かよう)にして、主様と会(お)ゥてる時は、ただの男と女

花魁:そして、離れてしまった後は、苦界(くかい)の女と娑婆(しゃば)の御人(おひと)・・・


花魁:離れとるンは苦しいけれど

花魁:そいでも、

花魁:また会えよる日ィが、あるかも知れん思えるなら

花魁:どんな辛い日々にも、耐えられるやも知れんどすなァ。


花魁:でも・・・それももう・・・


花魁:実は

花魁:わっちには、さる身分の高いお武家様(おぶけさま)より

花魁:身請(みう)けの話があるやも分からんのざんす。


花魁:どうしてもと、身分を振りかざしては、かなり無理を言っているようで、

花魁:見世(みせ)としても、はたして、断りきれるかどうか・・・


花魁:花魁の身請けは見世(みせ)が決める事

花魁:嫌と言うたところで、わっちにはもうどうする事も・・・


花魁:もし、そうなってしまえば

花魁:わっちは花魁やのうて、屋敷(やしき)で囲われる人の女・・・


花魁:もう主様とは、見世ではおろか、こうして人目を忍んで会う事も叶(かな)わのゥなってしまいんす。


花魁:そげな事なら、身請けなぞさるるより、花魁でおった方がどんなに良いか・・・



花魁:漸(ようや)く主様と、斯様(かよう)にして会えるようになったいうのに・・・・

花魁:お稲荷(おいなり)さんはどこまでも意地の悪(わる)ゥお方なんどすねェ。


花魁:嗚呼、どうして・・・・

花魁:どうしてわっち等、花魁ばかりが斯様(かよう)な悲しい思いをせねばならんざんしょう・・・・


花魁:主様・・・・

花魁:身請けをされれば、わっちはもう死んだも同じ

花魁:せめてそれまで・・・・

花魁:いいえ、せめて今夜だけは

花魁:わっちの想いを受け取ってくださんし・・・・


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