第4話 馴染み替え


(男と話をする花魁)


花魁:主様

花魁:身請(みう)け話が無(の)うなったとは

花魁:如何(いかが)んしとう事なんざんす?


花魁:え?


花魁:主様の商いが難儀(なんぎ)で・・・金子(きんす)が・・・

花魁:まぁ、左様に・・・


花魁:わっちは主様が囲(かこ)うて下さるんを

花魁:心待ちにしておりんしたんに

花魁:まことと、残念でなりんせん。


花魁:確かに主様の仰言(おっせえ)すように

花魁:わっちの年(ねん)をいくらか伸ばせば

花魁:少しは主様の商いの足しなるやも


花魁:そうしとうは思いんすが・・・


花魁:したが、前にも囲い話があれど

花魁:其(そ)ん時も、とある事情でお流れに・・・


花魁:其ん時も、わっちの年(ねん)を伸ばして、都合をつけたんでございんすが、結局、上手(うも)ういかず

花魁:其ん御人が、今どうなさっておるんかさえ、分かりゃんせん。


花魁:どうやらわっちは、

花魁:此(こ)ん吉原から、生きては出られん定(さだ)めのようざんすなあ・・・


花魁:吉原からは出られず、かと申せど、好きな御人とも一緒には居れず・・・


花魁:主様、

花魁:ならば、いっそ、ここで二人死んでしまいんしょう

花魁:さすれば、嫌な事など全部捨て去る事ができんしょう

花魁:主様、一緒に・・・

花魁:さぁ・・・



花魁:ふふ

花魁:ふふふ

花魁:ふふふふ


花魁:主様

花魁:そんなにわっちと冥土(めいど)へ行くんは

花魁:嫌なんざんすかえ?


花魁:あら・・・

花魁:したが、月美屋(つきみ)の華月(かつき)さんとなら

花魁:どこへでも行けんざんしょ?


花魁:ふふふ


花魁:主様

花魁:主様は、わっちが何も知らんと思(おも)されとるんざんすか?

花魁:なんでも、華月さんの身請けに、金子(きんす)がいるんですって?


花魁:わっちの金子で、他の花魁を身請けしゃんなんぞ

花魁:ちょいと虫の良すぎとありんせんかえ?


花魁:そいにしても、馴染みを変えるは、吉原のご法度

花魁:かばかりか、花魁から金子をせしめようとは

花魁:主様は、よほど勇気のおありな御人(おひと)でありんすなあ。


花魁:ふふふ


花魁:主様、

花魁:もうお帰りのお時間ですえ


花魁:表(おもて)にゃ花魁を謀(たばか)ろうとした御人(おひと)の顔を一目見ようと、

花魁:他の馴染みのお客人達が、沢山集まっとりんすえ。


花魁:さぁ、主様

花魁:せいぜいこの吉原で、たっぷりと恥をかいて行ってくださんし。


花魁:ふふふ


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