第3話 手練手管


(花魁と男が部屋の中)

(不機嫌そうな男)


花魁:わっちは主様をお慕い申し上げとるんに、

花魁:かように主様はお疑いなさりんすか?

 

花魁:馴染みのお客人は数おれど、

花魁:わっちが惚れた旦那は主様だけ申しとるざんしょう?

 

花魁:わっちが他の殿方へ笑顔を見すのんは、

花魁:わっちが花魁故仕方のない事。

 

花魁:わっちの年期が開く迄どうか堪忍しとくださんし。

花魁:年期が明きや、きっと主様と…

 

(信じられない表情の男)


花魁:こない主様をお慕いしとるんに、

花魁:そいを信じるんが難いとは…

花魁:わっちはただ辛いどすわ。

 

花魁:ちィとで構いんせん、わっちン気持を分こうてくださんし。

 

花魁:したが…

花魁:どれほどの睦(むつ)を連ねよっても、

花魁:そいは単なる形だけと仰言(おっせぇ)すのみ。

 

花魁:やけど主様は起請文(きしょうもん)何ぞ求む野暮の人ではのうざんしょう?

花魁:どないにしたら、

花魁:わっちの此ン想いが通じんしょうのゥ……?

 

(しばし沈黙する二人)

(立ち上がり襖に向かう花魁……襖の前で男の方へ振り返り)


花魁:主様…

花魁:お客ン方は此ン苦界で

花魁:『素見(ひやかし)千人、客百人、間夫(まぶ)が十人、色(いろ)一人』

花魁:何ぞと仰言しとるンざんしょう?

 

花魁:やったら、主様がさてわっちの間夫か色か…

花魁:自身で確かめてみれば良うざんすわ。

 

(誘う花魁)


花魁:此方へ寄りゃれ。

 

花魁:きっと、わっちン肌が主様に本意(ほい)を申さんしょう。

花魁:さ、主様が真と思う迄、

花魁:わっちの肌に聞いてくださんし。


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