第2話 遣らずの雨

(部屋に入る花魁)

(中には男が一人座っている)


花魁:お侍はもう行きんしたぇ?

花魁:きっともう此ンへは来ンざんしょう。

花魁:安心してくださんし。

 

花魁に礼を言う男

花魁:そんな、お気にせんと

 

花魁:禿(かむろ)の頃より優しくしてくださんした主様への恩返しが叶ぅてわっちも嬉しおすわ。

 

花魁:したが・・・わっち等はあン頃と等しゅう、何処でも見合しよれる関係と違いんす。

 

花魁:花魁になるはそういう事・・・

 

花魁:主様(ぬしさま)もお分かりざんしょう?

花魁:そいでも、此ンへ来なすったいう事は

花魁:きっと此方(こなた)しか来れよるンが無かったンどすなぁ・・・

花魁:よって、わっちは主様に何があったンかは聞きんせん。

 

花魁:やけぇ、もう二度と此ンへは来よらんでくださんし。

花魁:座敷以外で客人でもない殿方と合ぅておるのが知れてしもうたら

花魁:わっちのみやなく、此ン見世(みせ)にも迷惑かかりよるけぇ。

 

(申し訳なさそうに立ち去ろうとする男)


花魁:あぁ、待ちゃれ。

 

(一番綺麗な簪を抜く花魁)


花魁:わっちの気に入りの簪・・・

花魁:此ンを持って行ってくなさんし。

花魁:売ればそれなりになんざんしょう。

 

(戸惑う男)


花魁:女なんぞから物を貰うンは気が引きよりんすか?

花魁:わっちにとっても、もう髪から抜いた簪。

花魁:そいをまた髪に戻すんは余りに無粋。

花魁:花魁に恥をかかせんでくんなましね。

 

(見つめる二人)


花魁:もし・・

花魁:売らンで如何にか成りよるンざんしたら、わっちと思い持っていてくりゃんせ。

 

(未練を断ち切るように立ち上がる花魁)


花魁:さぁ、もう行きなんし。

 

(外の気配に気が付く花魁)


花魁:とは言え。

花魁:外は先程より雨がふって来ンしたなぁ・・・

花魁:せめて此ン雨が止む迄、此処に居ったらよろし。

 

(何かを想うように外を見る花魁)


花魁:にしても、

花魁:やらずの雨とはねぇ・・・



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