配信40 特集:ダンジョンになりそうでならないランキング
夜十時。
夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。
やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。
――――――――――――――――――――
「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」
「……バルバ・ベルゴォルだ……」
「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」
「ダンジョンが増えてる~!!」
「だからなんだ」
「冒険者に頑張って欲しい!」
「だからなんだというんだ!?」
「でもダンジョンが増えているからといって、自分の思っているような場所がダンジョンになっているとは限らない!」
「もう言わんぞ」
「というわけで、今回は『ダンジョンになりそうでならないランキング』~!! どんどんパフパフ!」
「口で擬音を言うな……というかなんだそれは!?」
「だからなんだ、からなんだそれはになってしまった」
「言わそうとするな!」
「それで、なんだそれは」
「ダンジョンになりそうでならないランキングです」
「それはもう聞いた」
「ダンジョンになりそうでならないランキングは、魔王復活によって魔物が活発化している今日この頃、『あそこもダンジョンになりそう』だと思っていたのになかなかならない、そんな場所をリスナーの皆様にアンケートで答えてもらいました」
「なんの意味のあるアンケートなんだこれは……」
「というわけで、さっそくだけど第5位から行ってみよう! ミュージック、よろしく!」
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《ダンジョンになりそうでならないランキング》
第5位:近所の洞窟
第5位はまさかのネームドではなく「近所の洞窟」!
なぜかやたらと多い「近所の○○って洞窟がダンジョンにならない」!
この際まとめて「近所の洞窟」として計算したところまさかの5位に滑り込み。
どうしてそんなに近所の洞窟がダンジョンにならないことに不満を持つんだ!?
ダンジョンにならないだけいいだろ!
というわけで第5位は「近所の洞窟」!
第4位:トアージュ峡谷
西方のアルニコフ共和国にあるバカでかい谷。
下に大トアージュ川が流れるかなりでかい谷で、切り立った崖はすべて岩で出来ている。
あまりのでかさで魔物がいると思われているが、実はトアージュ峡谷は魔物ではなくでかい鳥たちが支配する楽園。繁殖期になると、岩場に巣を作る鳥たちが魔物の代わりに襲ってくる。
魔物たちもそうそう近づけない代わりに人間もそうそう近づけない。
第4位はトアージュ峡谷!
第3位:ダリム刑務所島
南海に立つ小さな島にある刑務所。小さな島ひとつを使った刑務所は脱獄不可能とまで言われた。
老朽化が原因で五十年前に閉鎖され、現在は観光地化されている。
各国を荒らし回った伝説の盗賊・「深紅のフラッグウィズ」が収監されていた場所で、彼の部屋だった場所も公開されている。
実は閉鎖直後は放置されていたため魔物が住み着いたものの、ちゃんと国が所有しているため、一度討伐が行われている。そのイメージのせいか、いまでも「えっ? あそこダンジョンじゃないの?」と言い出す冒険者が一定数いる。いまも定期的に清掃などが行われている。
第3位はダリム刑務所島!
第2位:悪逆教図書館跡地
邪教とされた悪逆教の寺院跡地。
寺院とはいうものの実際には図書館や研究施設として使われていた可能性が高いため、図書館と言われている。
悪逆教は「神々は既にこの世から立ち去っている」という教義により、数多くの宗派から邪教認定された宗派。悪逆教というのも本来の名前ではなく、俗称である。
魔人の姿が目撃されたこともあったが、あまりに荒涼とした地にあるため魔物はいないという。
案外、普通に魔物がいないだけでは!?
第2位は悪逆教図書館跡地!
第1位:魔術大戦跡地『カーリバール』
正直言って何もないとこにダンジョンもなにも無くない!?
二百年前、勇者復活よりも前に起きたとされる大規模な魔術大戦の跡地が堂々の1位にランクイン!
大地が抉られた形の巨大なクレーターみたいな荒涼とした大地!
あまりの衝撃でいまだに草木も生えない荒れ地にダンジョンも何もないだろ!
というか荒れ地すぎて生物の気配も無いなら魔物も住めなくない!?
でも「魔術大戦跡地」というネーミングによりかなりダンジョン化しそうと思われている筆頭!
第1位は、魔術大戦の跡地『カーリバール』!
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「というわけで、第1位は『カーリバール』でした! みんな予想は当たったかな?」
「これやる意味あったか?」
「ところでカーリバールに魔物がいないのなんで?」
「今お前が言ったのがすべての理由だが?」
「荒れ地すぎて生物の気配も無いってやつ?」
「それだ。魔物も生物の一種には違いないからな」
「へー」
「お前が聞いてきたんだろうが!?」
「いやなんか意外に理由が普通だと思って……」
「ところで、これ面白い話があってさ」
「なんだいったい」
「ダンジョンにならなさそうでなってるランキング5位にも入ってるんだよな。『近所の洞窟』」
「お前たちの住処の近所にはどれだけ洞窟があるんだ? 全員森にでも住んでるのか?」
「そんなエルフみたいなことするわけないじゃん」
「急に真面目に返してくるんじゃない」
「でも田舎とかだと意外とあるんじゃない? 近所の洞窟。昔はゴブリンが住んでたけど冒険者呼んでそれ以来何も無いとか、そういう場所が結構ある」
「本当か? 同じ場所のことを指している可能性は無いか?」
「それはあるかもしれない」
「だいたいどこで募集したランキングなんだこれは……」
「魔力ネットワークのお便りコーナーにアンケート欄作ってもらった」
「変な改造を施すんじゃない!! 吾輩の魔力で作った配信だぞこれは!」
「じゃあ次回はダンジョンにならなさそうでなってるランキング、やりまーす」
「は~……、もう、好きにしろ……」
「それじゃ、今日も邪霊楽団の音楽をお楽しみに! それじゃあね~」
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